イベントはまだ先だから
ドキッとするような表現多めにしてしまいました。苦手なひとはごめん( ;∀;) 作者シリアス全振りも好きなんです。いつもホワッとするような物語に突然のシリアスpart(〃▽〃)ポッ ザクリっとぐさりっと切れ味は良きです。たぶん・・・。
ねえ。ちょっとねえってば。待って! なんでそうなるのよ・・・。
元カレの姿がまぶたをかすめた。夢を見ていたのだろうか。教会から少し離れたところに民家があったので私とアイツは避難した。
もうすっかり夜はふけ外はゴウゴウと扉を揺らすほどに吹雪いている。なんで今起きてしまったのだろう。夕飯が合わなかったのだろうか。テーブルの上の黒パンとても味気なかった。
いや。そうではないだろう。
チリチリと揺れる炎を見つめていた。薪ストーブを燃やして暖をとるも全然暖かくならない・・・。すき間風が体温を盗み去るのが憎たらしい。思考がぼんやりとだがきりかわる。団子のようにアイツとひっついて寝る始末である現状。
嫌ではあるけれどもこの際仕方がない。むしろ温かいのでアイツが私と床をともにするのを変に拒まないのはありがたかった。
あのアホのことだ。死んでも嫌だとかいいかねないからな。ただこの薄手の毛布にたいして温くもない冬服は本当にしねる。
寒い・・・。そしてこころ細い・・・。
もし、もしもだ。こんな世界に一人取り残されてしまったら!?
私はこの世界のエンドを知っている。いつの日かとなりに寝るアホが私を好きになったとして。
もし私がアホを憎からず思ったそのときにアイツの死亡フラグを回避する方法ができるわけで。
いやそれは今となってはどうでも良いことである。なんせ私が元の世界に帰れてもアホは帰れないのだ。
私が知っている限り・・・。2人助かる方法は存在しない。
文字通りアイツは一人この世界に取り残されることになるだろう。
この世界に来てわたしはアイツに少しばかり情が移ってしまったのかもしれない。アイツは嫌いだ。そう言えるのはアイツを知る必要がなかったから。
でも一緒にいる時間が増えると不思議とアイツのことは以前ほど嫌ではなくなっていた。
そりゃあなにかと気に入らないやつなんて世にはいて捨てるほどいるだろう。でも、ホントに無理なのはきっと感覚がおおはばにずれているやつのことなのかもしれない。
まことに残念ではあるが、コイツと私は、そこまでずれていなかった。
なんてことだ・・・。嘆かわしい。
だが、悪いな。陽炎。私はまだお前を捨てていける。私はもとの世界をまだ捨てきれないからが故に。
どうにかしてこの気持ちを整理しなければ。生まれてこのかた完璧を求め続けられてきた私。きっと大丈夫。もうずっと昔にこころなんて何度も壊れていた。無理のし過ぎによって。
だから・・・。私は感情にふりまわされない。もう2度とまわりに期待なんてしない。だからこそ今の自分を私自身を演じていられるのだから。昨日も明日も微動だにしない自分を。
だけど悲しいかな。コイツといると調子が狂う。本当にコイツ如きに私はどういうわけか振り回されてしまっている。
そうだ。私・・・。今だけ彼の温もりに触れていよう。裏切らなければいけない未来など忘れてしまうべきだ。無意識に嚙みしめた唇から徐々に血の味がにじみ出ていた。
いつの間にかまどろんでいたのだろうか。
疲れていたの深い眠りについていたようだ。朝日がまぶたをすり抜けてくる。
「起きろ~。おーい!?」
ゆさゆさっと不快な干渉を受ける。ああ。本当に目障りである。どうして私に構うのだ!?
そっとしておいて欲しい。
「おい。私に触れるな・・・。向こうへ行ってろ。すぐ準備するから部屋を出てくれ。」
フンッと腹筋にちからを入れて立ち上がろうとしたら、衝撃が脳を襲った。
「っっっ」
「わかった。後すまん。」
視界がグラグラしているので一呼吸をおいて立ち上がる。瞬きを数回してやっと視界がハッキリとした。
オイルもないのでパサついた髪を肩によせ、身だしなみをできるだけ整えた。クローゼットと思わしき棚を探り着替えを探すもろくに身にまとえるものがない。
今まで物が不足していることなんてなかった。なんでも自分の能力で手に入れてきたからだ。全ての試練の場には両親や一族からの抑圧された環境も自分で打ち払ってきた。
11歳になった私が両親とまともに話したのが2人との唯一のまともな会話である。まあその内容はただの牽制であったのだが・・・。
「私が成功するなんて当然でしょう?いちいち騒ぎたてないで頂戴。」
家族との思い出はこの話し合いだけなので今でも鮮明に思い出せる。
振り返って考えればご飯を食べさせてもらっているひな鳥の段階で青臭いとは思うが、誰も私に口出せる者はいなくなっていった。
だからといって何でも思い通りに生きれるわけじゃない。人の気持ちだけは個人の能力では力ずくでも帰れない・・・その先にあって。
好きなひとがいても長く続かないのきっと、私が弱みをみせないからなのかもしれない。
でもこれが私だ。道を違えたならそれが運命だ。かといって未練たらたらな私はめんどくさくて自分でも嫌いだ。
どうでも良いことを考えながら雪道をただひたすらにイベントの場所へと急ぐ。
例え渡っている橋が崩れさって足場がなくなっても。うん!? 先ほどまであった地面に亀裂が走って誇りを巻き上げながらブロック状に砕け散っていく。
身体のなかの空間がすっとすくような浮揚感とともに冷静に考える。走馬灯!? その段階ではない。私は助かるのだから。当たり前である。
手を伸ばすとやつの足があった。思いっきり握力を込め、片手で宙へと四肢をゆらす。
「5秒死ぬ気で耐える! 早く上がれ!」
やつの魂の声を感じ取りながらも足をそっとやつの肩へ乗せ上体を反転させ鉄骨へと飛び上がる。やつの足首を握力で握り潰してしまったのは申し訳ない。
油断をしてしまった。
汗と血で滑り落ちていくやつの手をつかみ取り上へとひっぱりあげた。
無駄に昔からあった運動神経はもしかしてこのために合ったのかもしれない。
安全なところまで移動し、地面に身体を投げ出した。急な過度な運動により心拍数が異常である。だがまた生き延びた。
空を見上げているとヤツの動く気配がする。痛みにうめいているのかと思っていた。
だが・・・。
「やはりお前は強いな。おれは一瞬諦めかけたぞ。ハハッ。」
そう言って痛いだろうに弱音を吐かなかった。だが気丈に振る舞う演技が下手すぎる。
「すまない。加減できなかった。」
「気にするな。どうせ下に落ちたらよくてもっと酷い怪我だっただろう。生き残っただけでもありがたい。」
私よりずっと弱いのに。無理をしている。きっと日本では彼は私なんか必要としていなかっただろう。でもこの世界では私が必要だろう?
「どうする? この状況はさすがのお前でも想定外だっただろう?」
「ああ。だが問題ない。城に帰るぞ。」
乙女ゲームの舞台が私たちを待ってくれている。例え残酷な別れが決まっているとしても。私たちは向かわなければならないのだから。
陽炎に肩を貸し、私たちは雪と泥で滑りやすくなっている道をいそいだ。
*****
足首を引きずりながらやつの肩の力をかりる。彼女の仕草からおれをめずらしく気づかっている様が見てとれる。
フッ。まさかコイツがな。意外と義理堅いやつは嫌いではないぜ。
おれはとなりの女をみてこう思っていた。きっとコイツのことだからなにか企んでいても不思議ではない。いやもはや確信をしていた。
コイツはきっと自分しか信じることのできない人間だ。おそらくそういう性なのだろう。人間の本質ってきっと変わらないのだから。
だが、その考えは嫌いじゃない。おれだってそうだから。だからお前とだったら乗り越えられる気がする。おれが死ぬイベントも。
さて。その後に大きな対価として・・・。あるいは、な・・・。
情報を小出しにしてくるのはきっと話せないことがあるから。コイツはおれを見くびっているようだが、おれは案外ズルい人間である。
きっとその思考の先にも追いつけるはずである。
読んでくれてありがとう♪