初めての野宿
乙女ゲームの原作ラノベの作者がちょとだけでます。
ジリリリリーーーーン♪
特大の目覚まし時計の音が寝室の床と壁をを震わせる。この音を出せるのは郊外の一軒家くらいだろう。
昔ある小説を大ヒットさせた私は、いまでは悠々自適な生活を送るはずだった。
あの日、100万部突破しましたと編集長から祝電の電話を受けていた私。
友人たちとは週末に祝ってもらうこともあってか、私は一人気が大きくなっていた。缶ビールのフタをあけ、一人映画を見ながら晩酌を嗜んでいたその時、空中から女が落ちてきた。
べたーんという感じに身体を打ち付けた盛大な呻き声をあげる。
うむ。飲みすぎたかな!? やれやれ。しかし若いなあ。まるで、高校生で乙女ゲームに出てくるようなキャラデザではないか。
ハハッ。おいおい。もう酔いがまわったっていうのかい。
まるで貞〇子×のような美しい金髪をなびかせ、小娘は言う。
「ゆ、許さない。なぜ、私が存在しない世界にした!? どうして!? なんでファンタジアだけが幸せになるって言うのよ!? ねえなんで!?」
ファ、ファンタジアだと? その名はおれの小説のなかにでてくる悪役令嬢の名前ではないか?
酔っ払っているせいでぼやけて揺れる目をこすってこすった。だが、そこには物語には存在しない、彼女がいた。キャラクターの原案もとい設定された彼女と思わしき人物が。
麗しい瞳から大粒の涙がぽろぽろと次々に溢れ出している。だがあり得ないのだ。彼女はどこにもいるはずがないから。もちろん現実世界にも。
「お、お前は誰だ!? なぜ私の部屋に!?」
「あなたが・・・。あなたが私の世界をぐちゃぐちゃにしたんでしょ!? 全く何様のつもりよ!? うううう・・・。私の幸せを返して! グスグスッ。」
ずっと泣き続けている彼女にハンカチを渡したものの、暗い雰囲気はいつまでも変わりそうになかった。
やっと取り乱している彼女が落ち着いたころに、私はキッチンへと足を延ばすのを許される。
買い置いているココアを濃ゆめにつくりミルクを贅沢にそそぎ、来客用のカップへとつぐ。
「とりあえず、詳しく事情を話してくれないか。そして今後のことを考えよう。」
「私に命令しないで! もうあなたの思い通りにはならないから!」
いったい私がなにをしたというのだ!?
最初こそまるで獲物を横取りされよとしている女豹のように彼女を私を拒絶していた。
だが、空腹には勝てなかったようで5分後には夢中でココアをたしなんでいた。
満足してくれたのだろうか。彼女はボソボソと話をし始めた。
「あの日、私の日常は、世界は崩壊したの・・・。まるで徐々に世界が崩れていくように。私だけが忘れられた世界がそこにはあった。幸いにも私は魔法が使えたわ。だから、全ての元凶であるものを見つけてとっちめてやるつもりでここまで来たのよ。」
フンスと鼻息あらくおれに拳を突き出してみせた。
なるほど。分からん。いや。その元凶がこれみたいな話の流れではあるけれども。彼女がおれのせいで不幸になってしまったということもうっすらと分った。
彼女の言い分を全て信じるのならば。
「あの世界は●●で、あなたは○○なの。だから、そのうしばらくここにいさせて。どうかお願いします。」
ふむ。おれへの恨みはいったんおいておいて、彼女に居場所がないということだな!?
良く分らないが、私の寝室のとなりの部屋があいているのだ。彼女をしばらく匿ってあげても良いのかもしれない。
渡る世は鬼ばかり。そうじゃないということを。日本人のおもてなし精神でとりかかることにした。
*****
*10年後
「あなた~!? ご飯できたわよ!? 早く降りてきて!」
「分かった。今行く。」
今日は彼女と私が付き合い始めた10周年記念日だ。プレゼントを後ろに隠しながら落とさないようにそろりそろりと階段を降りる。
全く不思議なはなしだ。この世界に彼女は確かにいて、お互いに慈しみあっているたいへん良い夫婦関係
である。
しかしなぜ彼女は存在しえるのだろうか? 階段を一歩一歩下りながらも私はふと思った。
もしかすると、彼女がいた世界はやはり存在していて。ひょっとしたらこの世界から向こうへ渡ってしまったものがいるのかもしれないと。
彼女いわく世界線を移動する大魔法があるそうだ。そして余波でこちらの世界にも多少影響がおきたのではと言う。
あの日この世界には大災害はなかった。きっとその余波のエネルギーはなにかに使われたのだ。
それを知ろうとする術を私は残念ながら持ち合わせてはいない。
******
「チュンチュンチュン、チュチュチュチュチュkkkkkkkk!!(怒)」
物凄い勢いで羽をむしり取られている小鳥がいた。
「(チーーーーーーーーーーン・・・)」
ああ無常・・・。おれの羽毛が宙を舞う。
このゴリラ裁判官があああああ! 小鳥になってもまるでバトルゲームの最恐キャラなみのスペックをしていやがる!
「(ふう万死に値するわ。まったくもってどうしてくれるの?)」
「(お前が先に裏切ったんだろ!?)」
「(はあ。鳥かごで飼ってあげようとせっかく思っていたのに。)」
「(ふざけるなよ? まあ良い。それで・・・。 どうしてそのようなことを?)」
「(ウッ。ゴホンッ。別に。ただ、そうしたらあんたも死なずにすむでしょ? と、とにかく! 時間を稼ごうと思ったのよ。)」
「(ふむ。まあそういうことにしてやるよ。)」
「(ま、まあ事実だから。それはさておき・・・。元にもどる方法よね!?)」
「(ああ。今は君だけが頼りなのだから。)」
「(なぜしおらしくなったのだ!? 気持ち悪いんだが。)」
「(それはこちらのセリフだ! よくも騙そうとしてくれたな!?)」
「(静粛に!)」
生まれて初めて、小鳥の圧でゴゴゴ・・・と擬音が見えた気がした。
めんどくさくなったので黙ってみようと思う。けっしてそうけっして怖いからなどではない!
とにもかくにもおれには鳥から人間に戻る方法なんて見当もつかない。からコイツの脳みそを酷使させてでも見つけだしてみせる。
「(悪かった・・・。)」
ぺこりと小鳥にしては律儀にあたまを下げてやった。ここで今意地をはりあってもしかたがないのだから。
ヒュウウウウウ~。北風が羽毛という羽毛を駆け抜ける。どうしてご都合主義的な感じで屋敷外へ放り出されているのだ!? さ、寒いのだ!
グググっ。解せぬ・・・・。
しばしの間、2羽は無言だった。キチンと距離をあけて枝にとまっている。まあ心理的にはもっと離れているけどな!?
となりにいるだけでも分かる。まるでパソコンのSSDがフル回転しているような熱をおびた気迫がとなりの危険な相棒から感じる。
だが、結局その晩は解決には至らず、就寝となった。
朝、別の小鳥たちのさえずりで目を覚ます。
そして思った。小鳥っていってもそういやおれたち、ハトじゃね!? 小鳥ってよぶのおこがましくね?
昨晩は寒かった。心底凍えていた。少女さんおれにマッチを売ってくれ。じゃなくて。
なんだか背中が温いのだ。振り返らなくても分かる。なんせ昨日あれだけおれをボコってきたヤツの身体だ。
ふむ。ヤツからひっついているのだ。とりあえず危害は加えられないだろう。
ピクリっと振動が背中に伝わってきた。おお。寝ピクですか。やっと起きたか。
ところがそれから30分もの間、ゴリラは起きなかった。
*****
「(む、むう・・・。お、おはよ・・・。)」
「(ああ。おはよう。)」
何事もなかったようにやつは空に舞い上がった。そうだよ!? ただ添い寝(不本意)してただけだからね!?
シュタっとカッコ良い華麗な着地をしてみせ、「閃いた・・・。この可能性にかける。私に協力しろ。今から教会を探すぞ!)」
「(ああ。分かった。それで・・・。勝算はあるんだな? 今度こそ信じるからな?)」
「(グズグズするな置いていくぞ?)」
ちょっと照れたように見えたのはまあ気のせいに違いない。
読んでくれてありがとう♪ 更新遅れてごめんなさいm(__)m 作者リアルドタバタしており明日の更新は無理そうです。多分週末にはきっと・・・。




