線路を挟んで
〇の名はが好きな作者。なんかそれっぽいラブコメみたいな作品を作りたいと思い書いてみました。
「本日もご乗車頂き誠にありがとうございました。次は夢の國、ゆめのくに~でございます。お降りの際には足元にご注意下さいませ。」
カンカンカンカン。今日も終電で帰る。少し遠くでは踏み切りの音が響き渡る。
ああ。やっと家に帰れる・・・。この疲れた体と思考を癒して明日に備えなければ。ハハッ。昔のおれが今のおれを見たらどう思うんだろうな。
疲れ切った身体にヨレヨレになったスーツ。はああ。昔のおれは正直ダサいと思っていた。だが今となっては分かる。これが社会人の真の姿だと。
どこの世界でも人間だから汗もかくし疲れもする。ただみんな仮面を被っている。穏やかな笑みという仮面を。
毎日頑張っているおれたちはえらいえらい。必死に働いて自分の生活を守って。
誇らしい。だが、ときにはこう思う。もし、もしもだ。超絶美女になってみんなにちやほやされて、何でも一人でできるほどの天才になれたら・・・。毎日の鬱憤がそう思考させる。
人間一人なんてちっぽけだ。外部委託するものや自分の担当でないもの。昔もし実現出来たらなんて思っていたシステムとかアプリ開発とかの実現も叶わずおれは会社の歯車の一部。
ああ。もしおれに力があったら。特別な存在になれたら・・・。
いや。いい社会人にもなってもやはり時々思う。凝り固まった思考が柔らかくほぐれていく。ああもてはやされてえ。
違う自分になりてえ。
今となってはこの妄想が馬鹿らしくもいじらしい。夢を見る分にはいいだろう。そう思っていた時期がおれにもありました。
まあついでに言うと、おれの名は佐藤陽炎。ただの社会人サラリーマンだ。
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今日も窓ガラスからのぞく空はどんよりとしている。私の名は桃木さくら。自他ともに認める敏腕裁判官である。35歳という若さでそれはもうたくさんの実績を積み上げてきた。ある大手企業の不祥事不始末への采配のとある事件によって私は地獄のメデューサという異名で呼ばれていたりもする。
この世は私がルール。司法を熟知しており、冷静な判断を失わないのだから。それにかけては自負がある。
だが・・・。そんな私にも悩みというか夢があった。
本日の終の電車で妄想をする。なにかと女性だからとなめられる日常。メンタルが未熟な犯罪者からは女性蔑視をされ今日もすこぶる気分が悪い。
あの胸をなめまわすような汚らわしい視線。
何なのかしら。あんなのが同じ人類なんて嘆かわしいにも程がある。ああ私が男だったらなあ。しかも誰にも見下されない超絶イケメン。
これはもう帰ったらゲームで大虐殺をするしかないわね。でも・・・。なぜかどんなに修練をつんでも勝てない人たちがいる。
まるで勝利のイメージを無限に生み出せるような。もし、もしも未来が読めるようになったとしたら彼らを圧倒できるかもしれない。
ああ超絶イケメンな天才プロゲーマーになりたいなあ。眠気覚ましのガムを嚙みながら、迫るドアをスルりと抜けた。
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そして夜が明け鏡に映るは・・・それはもうハッチャけたお姿だったのだ。
私たち、夢が現実る!?
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*これは平均的な男性の反応です。(たぶん)
やべえええええええええ・・・。どうしよう。超美女なお姉さんなっちまったよ。華奢だよ・・・。おれの洋服がダボダボだよおおおおおおお!
それに胸大きいなあ~。すんげえ。だが・・・。おれ女性の洋服なんてコスプレしないからもってねえええええ。
どうしよう。トランクスだよおおおおお。こんなに美女なのにああああああああああ。(テンション壊れた人)
しかもなんか頭スッキリしているぜ!? これはあれだ! 万能感という奴ではあーりませんか!
ああ。今まで蓄えた知識と技術が繋がって行くぜ! ハハハハハハハ・・・! 世の中こんな風にできていたんだなあ。
地下鉄のダイアグラム! OSの構造! なんて世界は輝いて見えるんだ! 好奇心があっていろいろ読み漁ったりしていた知識が昇華されていく。今なら何でも作れそうだなあああ!
ハハハハハハハ! ゲームのチートの追放方法分かったぜ! なるほどなあ。そこのコードをいじれば良いのかああ!
フォオオオオオ! 世の中楽しいことだらけじゃん!? 大人なんて知ったふりをしてて実は何にも知らない。だから抽象化された知識だけを知ったような顔で語り! 人類が作ったものだって言うのに考えを止める!
ああああああああああ! 止まってたんだおれは・・・。
今までの人生が無駄なんて言わない。だが・・・。ただもったいないことをしていただけだ。
誰だってその頂きに到達できるかもしれないのに。ただ、この虚しさは何だ・・・。
労力なく手に入れた美貌・・・。そして別に女装癖があったわけでもないのがとどめをさしてきた。
言うなれば精神が未熟なままハリウッドスターになった感じだ。
何だなんだよ。おれらしくねえ。
そっと突き出した拳はやけに小さくて。そっと鏡に押し当てるにとどめた。
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*ある女性のケース(たぶん)
私男になっている。なんかついている。これはあれだ! 入れ替わりというやつだ!
どうしよう。そう・・・。私の部下の弁護士を呼び出して・・・。いや違う。どう説明したらいいんだ。信じてくれるはずがない。
ふう。一呼吸おいて私は決めた。
机の上にあるビジネス用のスマホから電話をかける。
「あの。写真を送るので情報をある人物を特定して頂きたいのだけれど。」
「桃木さん!? 僕に依頼なんて光栄です。はい。こちら送って頂いた写真ですね。ハハハ。事情は聴きませんからご安心を。事件のですよね。分かってますから。」
「ええ。そうなの。どれくらいで出来るかしら?」
「そうですねえ。大体1週間では目星はつけれるかと。報酬は10でどうでしょう。」
「あら。じゃあ後10倍出すからあなたのツテを総動員で5時間以内に突き止めてくれるかしら。」
「わ、分かりました。お急ぎということで。全力でお調べ致します。まいど!」
プツンッ。電話が切れる。彼の腕は信用している。そしてその人脈も。
フフフッ。どこの誰だか知りませんが、私の捜査網から逃れる術はなくてよ! 男は怪しく笑った。(ヴォイスチェンジャーを時々使うため怪しまれていない)
どこの世界でも正義面をふりかぶった人間なんてたくさんいる。だが、その人たちの有罪判決は私たちに委ねられる。
私の一声で有罪、そして無罪が決まるのだ。そんな私たちが闇の世界の住人たちと繋がっていないわけがないだろう?
警察が調べてきたその証拠を。検察がもってきたものを。
みんなも聞いたことがあるだろう。裁判中に新たな証拠が発見されたというまるで漫画みたいなニュースを。
まあそういうわけだ。私のツテはいくらでもあった。
さらに私の一族にある資本家があってそこからの機密情報を確保されるという流通経路もある。
私の身体を奪ったやつ。生きていることを後悔させてあげるわ。フフフッ。(いたずらをしようものならただじゃおかない。)
だが、情報屋からは何も連絡がなかった。おかしい。こんなことって今まで1度もなかった。
その人の個人情報の背景まで調べる必要なんてない。ただの所在確認だ。この世にいるかどうかの確認だけ。
後30分で5時間がたつ。
何をしているのだ。まったく。
ピコーンという着信音を瞬時にキャッチし電話に出る。
「どうだった!?」
「それが思わしくなくもう他の同業者にあてもない始末でして。C国のMR、R国のHP、USのLAにも調べさせたのですが、例の人物についてなにも情報をえられず。過去の監視カメラの映像や出生記録も全て洗いだしてみたのですが、スーパーコンピュータを使っても特定に至りませんでした。」
「ということは。」
「恐れながら申し上げますが、彼の人物は合成写真ではないかと思われます。それでもあなたの送った写真の位置情報を解析させて頂いて特定したところ、この写真はあなたの住所ですよね? いえ。変に勘ぐったりしません。もちろん料金は頂きましたので。なにも不満はございませんが。笑。」
「なら良い。彼はこの世に存在しないわけだ。」
「ええ。その可能性が高いです。もちろんジャングル奥地の住民でしたら私どものデータにも登録されていない可能性が高いので、そのまで明言はできませんが。アジア系、日本人の顔立ち。肉付きの良い身体と洗練された美貌。その可能性は低いと言わざるを得ません。しかしなんとも浮世絵離れしていますねえ。」
「そうだな。」
「すみません。無駄話がすぎました。ではマダム。ごきげんよう。」
「ああ。世話になった。ご苦労様。」
電話を切った手がだらりと伸びる。
私はどこから思い違いをしていた? そうだ。人の妄想の中の人物がこの世にいる確率は!?
ああそうか。この人物はやはりこの世に存在しないのだ。
であれば他にもっと問題点がある。明日からどうすれば良いというのだ?
明日は1日休日。それはまあ良い。
もしこのまま私の身体が戻らなかったら。今の地位を追われ路頭に迷うのか。幸い預金はまだあるが、なにかあった際には役所や銀行にも顔を出さねばならないだろう。
ああ。頭痛がしてきた。今日できることはなにもない。
読んでくれてありがとう♪ とりあえず裁判官は闇にどっぷり浸かっている設定です。(笑)
この話は全てフィクションです。
毎週水曜更新予定♪ 今日中に後1話更新します。