第七話 運動会をダルがっている男がカッコいい時代
では場面は打って変わって運動会だ。
運動会というのは一時的な行事ではなく、練習期間も含めたら期間の長い行事だ。
つまり目立つチャンスが大いにあるということ、俺は常に目立つことを意識していた。
しかし忘れてはならない、俺は中途半端な人間だ。
小学校の陸上クラブに所属していたものの、とくに目立った記録を残すことは出来ず、1日もさぼることなく練習に参加したにもかかわらず、最後の大会に出場する選手の枠をぽっと出の転入生に取られたくらいだ。野球やサッカー、バスケなどの球技だって試したがまるで能がない。
そもそも球技なんて自分の体の一部でもない球体を重力法則を考慮しつつ自由に操る至難の業、ボールは友達なんて言葉があるが、どうやら俺とボールに友情は芽生えなかった。
そんな俺が運動会で活躍して目立つことなど出来ないのは明白だ。
俺はいろいろな方法を考えてみたが、どうもいい方法が見つからなかった。
(一つ思い出話だが、小学生人生最後の陸上大会選手発表が終わった際、俺はまた皆が座る中で立たされた。しかしこれまでとは様子が違った。俺以外にも2人立たされていた上に、顧問が俺達を称えたのだ。「こいつらはな練習を1日も欠かさんでここまで来たんや、誘惑がある中でようやったよ、選手に選ばれとる奴はこいつらがおることを忘れんように、はい拍手」この称賛が当時の俺にとっては皆勤賞で補欠落ちという不名誉な烙印を押された瞬間だった、本当に悔しかった。この経験がまた俺の人生を大きく左右することになるがこの話はまた少し先でするとしよう)
小学校の運動会では足が速い遅い関係なしに全員が徒競走を行う。
当然ながら俺も参加するため、練習期間では何度か実際にコースを走る場面があった。
練習だろうと俺は1位になれるほんの少しの希望にかけて力の限り本気で走っていた。
もちろん本気だということは他人に悟られてはいけない。これが俺の流儀だ。あくまでも練習で走れと言われているから走っているだけであって、気怠そうに見せて本気で走らなければいけないのだ。
「なんで走らないかんの、本気で走るわけないやん」
こんな目も当てられない発言をしていないことを祈るばかりだ。
そして小学3年の運動会練習期間で事件が起こる。
いつも通り気怠そうに本気で走っていると、白線のひかれた地面がやたらと俺に近づいてきたのだ。
鬱陶しいからどっか行けと突き放せるものだったらよかったものの、どうも地面の速度がおかしい、
これじゃあまるで交通事故だ。
誤魔化すのはやめよう、そう全校生徒及び全教員がみている中で俺は盛大に転倒したのだ。
いや、まあ目立つことには目立てたのだが、
どう考えたって恥ずかしい、
怠そうにはしているものの、こっちは本気で走っているわけで転べば凄まじい勢いになる。
しかし困ったことに当時の俺は外傷を伴った怪我はカッコいいものだと考えていた。
幼いころから漫画や映画という崇高な文化に触れていた弊害だ。
だが冷静になってみると、怪我をしている状態はカッコいいが、
怪我をした瞬間を全校生徒の前で見られるのは決してカッコいいものではないのだ。
(今でも当時の傷が膝に残っている)
まあプラスマイナスゼロってとこだ。
ではこの体を張って外傷を伴った運動会での目立ちは天羽に届いたのか、、、
ああ、届いているわけがない、
内心、心配されていたのではないかという希望はあるものの手ごたえはなかった。
無駄に怪我をしてしまったではないか。