表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/18

1-7


 二人の婚約はすぐに広まり、茶会や夜会への招待状が連日届くようになった。同じドレスを着回せることもできるが、毎回は無理だ。悩んでいるウィットリー家にドレスやタキシードの贈り物がある。それはもちろんケヴィンからで、有難いことにハイゼランド家と友好的な貴族のリストも同封されていて、ローズたちはそれを参考に招待状へ返事を書くことになった。

 茶会は母親と出かけるが、夜会はエスコート役が必要だ。父でもいいが、婚約者のいるローズのエスコート役はケヴィンが適任だった。なので、出席する夜会が決まるとローズはエスコートのことでケヴィンに手紙を出す。

 返事はすぐにきて、ローズが参加するすべての夜会で彼がエスコートをすることになった。

 ハイゼランドの紋章入った馬車でケヴィンはローズを迎えにくる。

 彼より贈られたドレスを身につけ、彼女は夜会に参加した。

 デビューから二回目の夜会だ。

 それなのにローズにはすでに婚約者がいる。

 出席者たちの大半は好奇な目で彼女を見つめているが、一部では嫉妬心が絡んでいた。

 前世の経験もあり、向けられる敵意には敏感で、ローズは意識をそちらの方へ向けてしまった。


「すまないな」


 ケヴィンもまた気がついたようで、彼は視線を前に固定したまま、ローズに囁く。


「ケヴィン様。謝られることなどありません。もし何か言われても泣いたりしませんのでご安心ください」

「もし泣かせるようなことをしたならば容赦しない。その時は言ってくれ」


(言い方間違ったみたいね。令嬢たちのやっかみは、きっと私が一人の時を狙って言ってくるに違いないわ。でも私は負けない。売られた喧嘩は買って見せる)


「その時は是非お願いします」


(言いつけるなんて絶対しない。私自身でケリをつける)


 婚約者になるという迷惑をかけているのだから、これ以上手を煩わせることはできないとローズは心に誓う。

 本当は殴り合いなどで解決したいところだが、今のローズは軍人ではない。貴族令嬢だ。令嬢らしく口撃で返さなければとまだ何も言われていないのに心の準備だけは整えた。


「ローズ。一曲目だ。踊ってくれないか?」


 夜会を主催した伯爵夫妻に挨拶した後、ケヴィンがローズを誘う。

 彼女は迷うことなく彼の手をとった。


 軽快に踊る二人を夜会の出席者の大変は好意的な目で見つめていた。

 あまりにも早い婚約だったため、ローズが色仕掛けしたなどと憶測もあった。けれども初々しいローズに外目から見てもベタ惚れの様子のケヴィン。二人を眺めていると噂は噂にすぎないと人々は思うようになった。

 二曲目を踊り、二人は休憩を兼ねてバルコニーに出る。


「疲れたか?」

「いえ。大丈夫です」


 ローズは外見がとても華奢なので体力がなさそうに思われることが多い。

 けれども前世の影響なのか、一般の令嬢よりも体力があるほうだった。


(こういう華奢な外見をケヴィン様は好むんでしょうね)


 愛しい、恋しい。そんな情熱的な瞳を受け流しながらローズは人ごとのように思う。

 

(本当の私は違うのに)


 淑女としてあろうとしているが、彼女には前世から受けついでいる活発的な面は残っている。街にメイドのフリをして買い物に出かけ、絡んで来たゴロツキを叩きのめしたり、木に絡まった洗濯物を取ろうとして、木に登ったり。

 両親はローズのそんな面に驚き、彼女は誤魔化すのに一苦労している。


(やっぱり体を動かすのは好き。前世の時は家のために男装して軍人になった事が嫌でたまらなかったけど。軍の生活は性に合っていたみたい)


「ローズ?心配ごとでも?」

「いえ、なんでもないです。少し昔を思いだして」

「昔?」

「えっと、子供の頃です」


 驚いたように聞き返されて、ローズは咄嗟に返した。


(危ない、危ない。昔って言い方はないわ)


「ローズの子供の頃か。さぞかし可愛かったんだろうな」

「ケヴィン様ったら」


(ケヴィンは本当にローズのことが好きなのね。私がこのまま猫を被り続ければきっと大丈夫。この罪悪感には蓋をして一生生き続けるわ。両親も使用人たちも守りたいし)


「ケヴィン様の子供の頃もきっとかっこよかったんでしょうね」

「私か、かっこいい。そんな風に君に言われると照れるなあ」


 彼は本当に照れているようで少し頬が赤い。


(こんな彼の表情が貴重だわ。ジェイスの時は照れるなんてありえなかったもの)


「どうした?私の顔に?」

「なんでもありません。ケヴィン様はかっこいいですね」


 誤魔化すためにもそう言うと、彼はますます照れてしまった。


(ジェイスとは全く違う。やっぱり別人?でもあの猫のことは?)


 前世ジェイスとはまったく違う面を見せられ、ローズは少し迷う。そして願う。ケヴィンの前世がジェイスじゃないことを。


(可能性はゼロじゃない。きっと彼はジェイスではない)


 ローズはケヴィンに微笑みを返しながら、罪悪感が少しでも減るため、そう願った。



 



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ