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キミと僕の約束、それは世界を守る誓いの聖約  作者: はるたん
第一章 『彩菜サルベーション』
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06 編入と再会

 東京都桜城市に存在する魔術師養成機関——〈極彩の庭園〉。

 その高等部一年一組の教室には今、全体的にソワソワとした雰囲気で満ちていた。


『…………』


 整然と並ぶ生徒たちが、教卓から少し離れた所に立つ教師が、皆一同に表情を強張らせ、息を潜めている。まるで、吐息一つや些細な身体の動作が致命的な過失に繋がるようなその様は、世界の滅亡を防ぐ使命を帯びていくことになる魔術師の卵としては、少々どころか結構な頼りなさを感じるものではあった。

 とはいえ、彼ら彼女らを小心者と責めることができる者は恐らく誰もおるまい。

 何しろ——


「——さて、それじゃあご紹介といこうか。今日から君たちと共に魔術を学ぶことになった、新入生の式部茉弘——わたしが庭園に連れ、編入させた子だ」


 この学園の長にして、庭園全生徒が羨望する魔術師。

 極彩の庭園・無花華彩菜学園長が、あろうことか編入生の茉弘を自ら紹介するために教室に訪れてきたというのだから。


「ほら、茉弘。皆に挨拶したまえ」


 彩菜に背中を押される形で、生徒たちの前に立った。

 散々深呼吸し、どくんどくんと脈打つ心臓を教室に入る前にやっとこさ沈めたというのに、それが無為になる程に緊張しているのが自分でもよくわかる。

 教室にいる生徒も生徒で、彩菜の注意をひかぬよう、必死に呼吸を押し殺しているような状態でとても普通に自己紹介が出来る空気じゃない。


 (やりにくいどころの話じゃないぞ、これ)


 この空気感に堪えかね、助けを求むように彩菜の方を横目に見る。

彩菜は、まるで我が子の門出を見守るような目でこちらを見守っており、その目からは頑張りたまえといった感じの応援を感じる。

 これ絶対あなたのせいですよね、なんて言いたくなる気持ちをどうにか殺して、茉弘は覚悟を決めて教室のみんなと目を合わせて事前に練習した挨拶の言葉を、喉を出来る限り振り絞って紡いだ。


「えと、その……無花華彩菜様からのご紹介にありました式部茉弘です。その……魔術師としてはひよこ以下で、今のところなにも出来ないです。なので、えと……色々教えていただけると嬉しいです。……よろしくお願いします」


 途切れ途切れながらもなんとか練習通りに言い切って小さく礼をする。

と、教室中から次第に拍手が沸いてきて茉弘はほっ、と胸を撫でた。


「というわけだ。彼もまた、君たちと同じ魔術師の卵だが……数日前までは外で暮らしていた外界の住人、魔術師としての気構えや知識はまったく持ち合わせていない。よって君たちには魔術師の先輩として彼とともに歩んでほしい。苦労するとは思うがこれも経験の一つと考え、彼と付き合ってほしい」


 彩菜の言葉に対して生徒全員が大仰にうなずき、担任教諭もまた似たようにうなずく光景はさながら神様を崇拝する一団を思わせるような謎の一体感であった。


「では、真昼教諭。あとは君に任せてもいいかい?」

「お……お任せください! 必ずやご期待に応えてみせます!」


 声をかけられたことに肩をびくりとさせながら、担任の月宮真昼は床に激突するのではないかと思わせる勢いの深い礼をする。

 あまり気負わぬように、と真昼に優しく声をかけ、茉弘の方を見やる。


「あとは君次第だ。精一杯励むといい」

「は、はいっ」


 茉弘の返事に小さく頷くと、彩菜は教室を後にした。

 それから数秒した後だろうか、教室中からぷはぁ、ふひぃと今まで身体に溜め込んでいた息を吐き出す音が一挙に湧き出る。

 真昼に至っては、もはや腰が抜けているような状態だった。


「え、えと、大丈夫ですか?」


 流石に心配になり、茉弘は真昼に声をかける。


「え、ええ。ごめんなさいね。魔女様が来るなんて訊かされてなかったものだからもう心臓バックバクで」


 言いながら胸に手をあててゆっくりと呼吸する。

 よっぽど気を張っていたのだろう。顔や首元から冷や汗がどばっと出ていた。

 彼女の呼吸が落ち着くの見計らってから手を差し伸べ、真昼をゆっくりと立たせた。


「編入初日なのにごめんなさいね。もう大丈夫よ」

「えと……それでなんですが、僕ってどこに座ればいいですかね?」

「ああ、そうだったわね。式部君の席は奥から四列目の三二番で式守凛祢さんの隣ね」

「わかりました」


 そう返して、茉弘は自分の席がある方へと歩いていった。

 が——そこで、気づく。

 最初はたまたま同姓同名、偶然同じ名前だったのだろうと思っていていた。けれど——指定された席の方向から、驚愕の表情で茉弘を見つめてきている者に身に覚えがあった。


「……は……?」

「——う、そ……なんで……」


 亜麻色のストレートヘアーを揺らし、透けるような乳白色の肌を纏った口角がぷるぷると震え、整った鼻梁に長い睫毛に覆われたつり目がちの双眸の瞳の奥は、誰が見ても動揺してるなと分かるほど揺らいでいてた。

そんな美少女が、ガタッと音を立てながら立ち上がり、茉弘に指を向けてきた。


「——なんであんたがここにいるのよ、茉弘……ッ!」


 突然の叫びに、クラスメートは驚いたように彼女を見、その指先を辿るようにして茉弘に視線が集まった。


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