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キミと僕の約束、それは世界を守る誓いの聖約  作者: はるたん
第一章 『彩菜サルベーション』
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05 お食事と事情と約束

 移動の合間で茉弘は、彩菜から自分の状況を聞かされ——

 なぜか『学園長室』の文字が記された部屋へと案内されたのち、近代設備の整った広い空間にある食事の席に腰を据えていた。

 曰く、もう一度食事を提供させてほしい、とのことだ。

 それを言い残して彩菜が部屋を出ていってからさらに三〇分後。


「——待たせたね」


 そう言いながら料理を乗せたワゴンを押して彩菜が部屋に戻ってきたのだが——持ってきた品々の内容が想像の斜め上を行っていた。

 盛り付けはとても綺麗ではあるが、運ばれていた料理のは一般家庭で目にする白米にみそ汁、千切りキャベツの上に乗せられた五つのから揚げと、先程見た気がする品々ばかりだった。


「ん? そんな微妙な顔をして、もしかして苦手なものがあるのかい?」

「あ、いや。そういう訳じゃないんですけど、ちょっと拍子抜けというかある意味安心したというか……なんで同じメニューなのかなあって思って……」

「要約するに高級料理を期待してたという訳かい? 申し訳ないがあのような繊細な食材たちを扱える自信が無くてね。だから素直に先程食べて貰えなかったものと同じものを作ってみたのさ」

「あはは、なるほ……、え? やってみたって……これ手作りなんですか⁉」


 茉弘は並べられた料理を見やりながら驚いていると、彩菜が微かに微笑みながら茉弘のカップに飲み物を注ぐ。


「学園長になってからはすっかり肩身が狭くなって世話役がいたりもするが、基本自分の食事は自分で用意している。意外かい?」

「はい……無花華さんの身なり的にそういう事は給仕さんとかに一任してそうだったので」

「彩菜でいいよ。私は基本、自分のことは自分でして学園を離れる時だけ一任している。今回のこれも客人を自分でもてなしているようなものだね。まあ一口食べてみるといいよ」


 茉弘は、ならお言葉に甘えて、と言ってまず最初にから揚げを頬張った。


「……おいしいです……」

「喉を通りやすいように味は少し薄めてみたんだけれど、無事にお気に召したようで何よりだ」

「味付けも僕の好みです」

「そう言ってもらえると作った甲斐がある。さ、まずは互いに完食するとしようか」


 そう言って彩菜も食事を頬張る。

 なんとも言い難い奇妙な感覚を覚えつつも、茉弘も淡々と食事を食べ進めた。

それから二〇分後、互いに食事を完食し終えて外に待機していた彩菜の給仕に食器等を受け渡し、学園長室に備え付けられた応接室へと移動した。


「——さて。ここに来るまでに軽く説明したけど、正直どこまで理解できてそうかな?」

「えっと……彩菜さんの言った事を復唱するような形にはなるんですけど、自分が『人』と『精霊』との間に生まれた子供で精霊の力に目覚めてかけている。だから彩菜さんに保護された……っていう流れは把握できたんですけど、精霊とか力とかに……あまり良くわからないというか……」


 茉弘が頬を掻きながら話すと、彩菜は自身で淹れた紅茶を飲みながら小さく頷く。


「まあ無理もないだろう。なにせ突拍子もない話だ。それに君の聞いた限り、君は自分の両親を覚えていないんだろう?」

「……はい。物心つく前に捨てられたらしいので……」


 茉弘は、今の時代では珍しい捨て子だった。

 どういった経緯、理由で捨てられたのかは一切知らず、今暮らしている家に養子として引き取られて育った。親に捨てられたという自覚が芽生えたのは八歳の頃でその事実を知ってから一年ほど部屋にふさぎ込んだりもしたが、妹の強情さに根負けする形で学校に戻り、今はそのことに対して特段抱く感情はなかった。

 けど、今は——少しだけ苛立つ気持ちがあった。


「憤るのも無理ないだろう。きっと誰だって同じ目に合えば自然と抱くものだ」


 紅茶を飲みながら共感を抱くようにこちらを見つめる彩菜に、茉弘は少し俯きながら頷く。


「……僕は、これからどうなるんですか。さっきの話の内容を訊く限りだと多分まともな扱いを受けないですよね」


 そこは問題ないよ、と彩菜はカップを置いて答えた。


「君を排除しようと躍起になる者達は少なからず現れるだろう。けどこの庭園にいる限り、君は私にとって守るべき対象だ。君は排除しようとする者に一切の容赦しないし、そも庭園に侵入させはしない。君の安全は必ず保障すると約束しよう」

「それはとても助かりますけど……そもそもなんで彩菜さんは僕を保護したんですか? ……魔術師にとって、精霊は『敵』だっておっしゃってましたよね?」


 完全に理解したわけではないが、彩菜たち——魔術師は一〇〇〇年前から世界の裏側で活動を続けており、これまでに幾度となく世界を誰にも知られることなく救ってきた者達らしい。

 そして彩菜たちは、今なお世界を滅ぼす可能性を秘めた存在——通称〈終末因子〉と呼ばれる厄災を退け続けており、精霊もまたその厄災の一種だ。

 つまり茉弘は、魔術師である彼女の『敵』なのだ。


「確かにそうだね。——精霊は私たち魔術師にとっても世界にとっても、放置してはならない世界を殺す怪物だ。本来なら今すぐにでも君は殺さなければいけない」

「……だったら、なんで保護なんて……」

「簡単だよ。君が精霊の力が目覚めたなら自分たちの代わりに君を守り、そして導いてほしいと——君の両親と約束を交わしたからさ」

「な——」


 茉弘は思わず眉根を寄せた。

 自分を捨てたはずの両親が、この人にそんな頼みごとをしていた——?


「なんで……そんな事を……」

「理由は言えない。ただ——あの時の彼らはそうするしかなかった。君に危険から遠ざけるためには袂を分かつのが最善策だったんだろう」

「……っ」


 なんだよ、それ。

茉弘が太ももに添えていた両手の拳を握りしめる中、彩菜はその様子を見つめながら話を続けた。


「わたしは君をずっと陰ながら見守ってきた。歳月にして約一五年。彼らの予見した通り君は精霊の力に目覚め始めた。が、それと同時に君の中でもう一つの力が目覚めた。彼らですら予見していなかった出来事だった。私が君を庭園に招いたのはむしろそちらの力が理由だ」

「……もう一つの力……?」


 茉弘が小さく呟くと、彩菜はおもむろに手を見せてきた。


「……えと、急にどうしたんですか?」


 意図が読めず、茉弘は問いかける。


「——何か見えないかい?」

「細くて綺麗な指先と手のひらなら見えますけど」

「褒めてくれるのは喜ばしいが、見て欲しいのはその周りだよ。何か見えてるんじゃないかい?」

「………………うーんと」


 言われて、よーく目を凝らしてみる。

 確かに何となく彩菜の手の周囲がぼんやりと光っているような気がした。


「えっ……なんですかそれ」

「これはわたしの魔力さ。わたしの言葉に従って視ることに意識を集中させたことで、魔力を可視化できるようになったのだろう」

「えと、そんな簡単に見えちゃうもんなんですか?」

「まさか。本来なら魔力を知覚するのには、半年から一年程度はかかる。それに普通の人間では一生かけたとしても知覚出来ない。もっと簡単に言えば——特異的な力を持っているか、魔術師でなければ知覚が出来ないんだ」

「つまり——僕が精霊だからその魔力を知覚出来たってことですか?」

「不正解。確かに君が精霊として完全に目覚めていたなら知覚出来るだろうけど、まだ魔力を知覚出来るほど君のそれは目覚めていない。君が魔力を見ることが出来たのは、君の目が魔術師たちのそれと同じものになっているからだ」

「……へ?」


 茉弘が口をぽかんと開けると同時、彩菜がいつの間にか側にいて頭を撫でてきた。


「とんでもない話だが、今の君は精霊の力と魔術師の力。二つの力が内在している状態なんだ」

「………………まじですか?」

「マジだとも」


 なにその設定過多……、とツッコみたくなるが事実見えてしまったのだからまちがいないのだろう。


「でも、それと僕を保護してくれた話がどうつながるんですか?」

「単純な話さ。ここは魔術師養成機関〈極彩の庭園〉。私は魔術師の卵が通うこの学園の学園長。魔術師になれる資質があるのなら誰でも誰でも受け入れ、一人前の魔術師になるまで育て、何があろうとも守る。たとえそれが精霊であろうともだ」


 その言葉と同時、空気が軋んだ。

 いや、正確に言うならそんな気がしただけだ。

 けれど今、彼女の発した言葉には、式部茉弘という人間を構成している全ての細胞や感覚が無意識に身震いしてしまうほどの強い意志と覚悟があったのだ。


「だから……僕を保護してくれたんですね」

「君が魔術師でなければ違った形の保護をしていたけどね」


 あはは……、と苦笑いをしながらその場合の保護のされ方が気になった。

 が、なんとなく彩菜なら今と似た扱いをしてきそうだなと思った。

 ともあれ一番厄介だった問題には納得出来た。


「なら——」


ようやく回り始めた頭で考え、茉弘は言葉を紡いた。


「僕は今後、ここで過ごすことになる……ってことですよね」

「心苦しいがそうなるね。力に目覚めてしまった以上、今までの日常に帰すわけにはいかない。それと君が取れる道は大きく分けて二つになる」

「というと?」


 茉弘が問うと、彩菜は大仰にうなずき、人差し指を立てた。


「一つは、君の寿命が尽きる時までわたしに一生守られてこの庭園で過ごす道。この道を取るならほぼ軟禁状態になると考えてもらっていい。自由もかなり制限されることになるだろう」


 次いで、中指を立てる。


「もう一つは……魔術師として世界の脅威と戦う道。魔術師の道に進めば最初の選択肢よりも君が得られる恩恵が多い。庭園のルールを使えば元の場所に一時的に戻ることも可能になるし、なによりこちらから君の自由を制限しなくて済む。ただしそれなりに身の危険もあるし、重要な約束をふたつしてもらう必要があるんだ」

「どういった約束ですか?」

「精霊の力の使用の禁止、及び精霊であることを口外しないこと。当然庭園への転入許可を出すのはわたしだが、君が精霊だということが露呈した場合、いくつかの展開は想定は出来るが……恐らく君を排除するために他の育成機関の学園長、そして八大使徒が大義名分を得て君を全力で殺しに来るだろう」

「……っ」


 彩菜の言葉をまったく予想してなかったわけではない。

 しかし——実際にその言葉を耳にすると、茉弘は心臓が引き絞られるかのような感覚に襲われた。


「つまり——多くの迷惑にもならないのが最初の選択肢で、リスクを負いながら魔術師を目指しつつ自由を得るのがもう一つの選択肢になる」

「ああ……どっちを選ぶのかは君の自由だ」


 ただ、と言って彩菜が言葉を続ける。


「わたしは君に魔術師になってほしいな……なんて思ってはいるけどね」

「…………」


 (——なんだよ、その顔)


 思わず声になりかけたその言葉を呑みこみながら、この場にもし生徒たちがいたなら阿鼻叫喚するであろう、暴力的な笑顔でそう小さくぼやいた彩菜から、ほんの一瞬だけ目を逸らした。

 学園長なんていう大きな看板を背負ってるうえに口調もご丁寧過ぎてすっかり忘れていたが、彩菜の容姿はドレスから少しはみ出ている大きく実った胸を除けば茉弘の知る同学年の女子たちとそう大差はないのだ。

 そういう表情を見せることもあるのだろうが、このタイミングでそれをしてくるのは、正直反則だ。

そんな顔をされてしまったら——もう一択しかないじゃないか。


「……っ、わかりました。僕……魔術師になります」


 茉弘が苦々しくそう答えると、彩菜は満面の笑みを作った。


「——〈極彩の庭園〉へようこそ。君の編入を心から歓迎しよう。改めてよろしく頼むよ、茉弘」

「ふ、不束者ですがよろしくお願いしますっ!」


 テンパってうっかり彩菜に握手を求めながらそう返すと、男の子がよろしくしちゃだめだろう、と苦笑混じりの楽しそうな表情で茉弘の握手を受け取てくれた。

 こうして——分からないことだらけの、式部茉弘の新しい生活が始まった。


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