38-3 そうだ、京都に行こう ~準備編~
準備編、ラストです。
明日からまた頻度落ちますがゆっくりと進めていきます。
太陽が西の空に沈む時間帯。
「お、終わったあ~…………」
両手に花、ではなく荷物をこれでもかと抱えてショッピングモールから出てきた茉弘がぜえはあ、と息を荒げて近くのベンチに荷物を置くと、そのままベンチに倒れこんだ。
お昼ご飯からかれこれ五時間弱かけて彩菜さんと凛祢が色々と見繕ってくれたが、かなりの物量になっている。
――これ、何泊想定なんだろう。
そんなことを考えながら、ふと手のひらを見つめた。
「……んっ」
力を込めてみると、握りこぶしが作れた。
でも――やっぱり感じられない。
二か月前――僕は二つの力を使って、ある人との一騎打ちに勝った。
魔術師としての非凡な素養で行使できる『魔力』。
精霊という世界を殺す厄災の力である『霊力』。
短い期間ではあったけれど、式部茉弘という人間が不器用ながらに扱っていた二つの力は、まるで最初からいなかったかのように二か月の間、静まり返っているのだ。
寂しいとか、そういう感情ではないけど。
なんというか――自分の中にぽっかりと穴が開いてしまっているような、そんな感覚なのだ。
「取り戻すっていうのも変だけど、今回の旅で戻るといいな」
(――本当に?)
「え……」
頭をかすめるように聞こえた声に振り返る。
だが、そこに誰もおらず、代わりに大勢の買い物客やらがあふれかえっていた。
「気のせい……か?」
「なにがですか」
「あ、希愛。戻ってきたんですね。――凛祢は?」
「だいぶお疲れのようでしたので、一足先に戻っていただきました。――彼女も、あなたほどでないにしろ被害を受け、いまだにその傷は癒えていないですし」
「そういえばそうでしたね」
凛祢もまた、来訪者の被害に遭い、一時期は命の危機に陥っていたことがある。
今は日常生活を送る分には問題ないくらいに回復しているけど、いまだに騎士復帰はできていない。
騎士において必殺であり証明となる顕現術式――第三顕現が使えなくなっているからだ。
僕も彩菜さんとの座学で知ったことなのだが、顕現の階位が上がれば上がるほど使用者の魔力回路や肉体に襲い掛かる負荷というのは増していくようで、今の凛祢が第三顕現を使ったとしても顕現体を維持ができないらしい。
とはいえ第二顕現までであれば使うことはできるから、本人はリハビリといってよく第二級因子を討伐している。(その都度、イリ―ティアさんに怒られていることは彩菜さん経由で知ったけど……)
「茉弘のほうは、少しぼーっとしていたようですが何か買い忘れがありましたか?」
「あ、いえ。自分の手を眺めてただけです」
「手相でも見ていたと? そういうのを信じる方なのは少し意外です」
「全然違いますよ! ただ――その……」
と、言葉を濁すように舌が止まり、周囲を見渡した。
ここで言っていいものなのかを悩んだのだ。
それを見た希愛が半眼を作りながら僕の手を引いて、息遣いが聞こえるほどの距離まで顔を近づけてきた。
「わたしに隠し事とは……いけない子だね」
「……っ、っっっ!?!?」
妖艶なその声を聞いて、反射的に身を物凄い速度で引いた。
その際にかかとを石にぶつけ、ちょっと痛かった。
その反応が面白かったのか、希愛は口元に手を添えて小さく微笑していた。
「ふ、不意打ちは卑怯ですよ……」
「さて、何のことでしょうか?」
頬を赤く染めながら不貞腐れたように僕がそういうと、彩菜さんは大人びた顔には似合わない子供のような笑みを浮かべて、荷物を抱えた。
その顔を見れてうれしかった半面、ちょっと悔しいと。
そう素直に、僕は思ってしまいながら帰路を歩く彼女の背を小走りに追いかけた。
付き合いたてのカップルみたいな感じだな、こいつら。
でもこの二人、年の差300歳以上あるんだぜ?
人類史においてこんなカップル予備軍いないよマジ(^^)




