04 学園長と生徒
牢屋での再会からおよそ三〇分後。
茉弘は彩菜に連れられながら、地上を目指してひたすら階段を昇り——その施設の外へと出ていた。
照り付ける陽光に綺麗な雲。まっすぐに延びた舗装路。道の合間に噴水や発光する街路樹
などが配置され、申し訳程度の自然と街並みが溶け合っている。
そしてその道の先には、壮麗かつ豪奢な屋舎が玉座に座して国を一望する王の如く泰然と聳え下ろしていた。
茉弘が知るものとは異なる様相ではあったが、どことなく学校施設を思わせる景色であった。
「ここは……」
ぽつり、とそう呟いて目の前に広がる光景に目を四苦八苦させたがそうしていられそうになかった。
理由は単純なものである。当然先ほどまでいた人気のない牢屋と異なり、街中にはちらほらと人の姿があった。まあ外に出たのだから当然と言えば当然なのだろうが、問題はそこではない。
揃いの制服を纏った少年少女たちが、驚くように目を丸くしてこちらを見てきていたのである。
「え、えと……」
どう反応したものかと悩む茉弘を他所に、彩菜は彼ら彼女ににこやかに微笑んで、
「やあ、みんな。おはよう」
そう挨拶すると、
「——おはようございます、魔女様」
彩菜から見て、もっとも手短にいた女子生徒が恭しく礼をしながら丁寧な挨拶を返した。
それに呼応するように、周囲にいた他の生徒たちも、遠巻きにではあるが次々と会釈をしてきた。
「おはようございます」
「魔女様、おはでーす」
「今日は早起きですね、魔女様」
生徒たちと彩菜の間で交わされるそれは、生徒と教師の間柄というより憧れの存在に憧憬の目を向けながら交わされているもののように見えた。
どういう振る舞いでこの場にいるべきなのか分からず、とりあえずそれとなく茉弘も生徒たちに軽く礼をする。
そこでようやく、周辺の生徒たちの目が彩菜が伴っている茉弘に向いた。
「魔女様、そちらの方は——?」
「ん、彼は式部茉弘。君たちと同じ魔術師の卵で、今庭園の案内を——」
「な——」
と、彩菜の言葉が言葉を続けようとしたとき、生徒たちが目を丸くした。
正確には生徒全員の目が血走った。
「ま、魔女様自ら案内……ダト……ッ⁉」
「なんて羨ましいことを……っ」
「どんな得を積めば魔女様の横を歩けるんだよ畜生っ!」
生徒たちが、皆一同に膝から崩れ落ちる光景に困惑していると、彩菜が肩に手を置いてきた。
「まあそういうわけだ。いずれ君たちと学びを深めていくことにはなると思うからその時はよろしく頼むよ」
「お、お任せください!」
「必ずやご期待に添えてみせます!」
「ああ、期待しているよ。愛弟子たち」
そう言って彩菜が学舎へと歩いていく生徒たちを見送ると、茉弘の方を見てくすりと笑った。
「な、なんですか……?」
「いやなに、君が困惑している顔を見るのは面白いなと思ってね」
「……もしかしてちょっと馬鹿にされてます?」
「そんなことはないさ。面白がってはいるけれどね」
そう言い、まるでいたずらっ子のような笑みを浮かべながら茉弘の右手を握りしめてきた。
「うひゃっ⁉」
「うんうん、期待通りすぎていいね」
嬉しげに笑う彩菜を横目に、茉弘は周囲の生徒たちから熱い視線(妬みや嫉妬、または殺意)を向けられている気がし、二重の意味でむず痒い気分を覚えた。
そんな茉弘の気も知らずに、彩菜は茉弘の手を引きながら目の前の学舎へと向かって歩いていくのでそれにひたすらついていった。




