序章 鐘の音、心揺れて
——その音に、初めて心が揺れた。
音は嫌い。いつもあたしの傍でザーザーと鳴る音が不快で、気持ち悪くて、何かに付きまとわられてる感じがして嫌い。
音を吐く生き物が嫌い。普段聞こえる音よりもより不愉快で、ぐちゃぐちゃにて黙らせないとおかしくなりそうだから。
死音が嫌い。聞くに堪えない雑音。死の間際に響く音が不快。黙って死ねないのかなって思う。だからまず初めに、のどと肺をよく壊すようにしている。
私はただ、静かに生きたい。だからうるさいものは大嫌い。
音のなるものは全部壊したい。でも——うるさくない音もある。
学園長——あたしの通う魔術師たちの学び舎〈極彩の庭園〉の長にして、最強の魔術師。
あの人の音だけはきれい。あの人の周囲にいる人たちも、他に比べたら少しマシな雑音で、殺すほどじゃない。
だから——それ以外はきれいにしなきゃいけない。
丁寧に、じっくりと、時間をかけて。
世界はずっと危険だもん。あの人たちは因子を滅ぼして世界を救う。
あたしも魔術師だから、当然救うよ。雑音のない——あたしのための世界を。
五月蠅いのも、キモイのもいない、綺麗な音だけがある世界にして、邪魔な音は消さなきゃ、生きれないから。
あ、でもその前に探さなきゃ。
あの夜、この五月蠅い世界に鳴り響いた、優しくて暖かで、あの人よりも猛々しい音を奏でた、この世界でただ一つ、愛おしさすら感じた最愛の音を。
その音を見つけるために、どれほどの犠牲が転がっても構わない。だって——あたしには要らない不出来なもので、あの音をもう一度聴いて、守ることがあたしの生きがいになったんだから。




