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キミと僕の約束、それは世界を守る誓いの聖約  作者: はるたん
第一章 『彩菜サルベーション』
25/46

25 強襲——【慟哭】

「…………凛祢?」


 避難誘導に従う最中、消えゆくような凛祢の声が茉弘の耳を通り過ぎた。そんな気がしただけだが、その声を聞いた瞬間に心臓が跳ねるような鼓動が少し早まった。

 それだけじゃない。その声が聞こえる直前に茉弘は感じたのだ。

 妹が、どこか遠くに行ってしまった……いや、どこか遠い場所に連れていかれたかのような。繋がりが切れてしまったかのような嫌な胸騒ぎを。


「希愛」

「はい、どうされましたか」


 同じく誘導に従って茉弘の隣を歩く希愛が小さく返す。


「その……戻っちゃだめですか」


 先ほど危険な目に遭わせてしまった少女にこんなことを言うのは、とも考えたがどんどん強まっていく胸騒ぎを無視も出来ない茉弘は無理を承知で言った。


「どういう意味ですか?」


 当然の反応だった。

 無力感を知り、素直に避難した矢先でやっぱりやめようと言ったようなものだ。

 それでも、気にかけないわけにはいかなかった。説明も出来ないし、ただの杞憂なのかもしれない。でも、確かめないわけにもいかない。

 それほどに身体が何かを訴えかけ続けているのだ。


「……上手く、説明できない、……でも、嫌な予感がするんです」

「嫌な予感、ですか? ……具体的には?」

「その、……凛祢が危ない、かもしれないって……なんでか思ってて」

「…………」


 変わらず困惑の表情で茉弘を見やる希愛の反応は真っ当、当然の反応だった。

 茉弘自身にすら言語化が出来ない、感じている本人でもよくわからない感覚なのだ。説明が出来るはずもない。

 しかし。


「わかりました。戻りましょう」


 彼女は、それを即決した。


「えっ⁉」

「なにを驚かれてるんですか。凛祢さんが心配なのでしょう」

「いや、そうですけど……反対とかしないんですか」

「したいですよ」

「だったらどうして——」


 と。

 茉弘の言葉を遮るように〈庭園〉中にけたたましい轟雷が響き渡った。


「……っ⁉」

「今のって……」


 この音を茉弘は知っている。ただ——知っている音よりもずっと力強く、余裕の無さが消えた荒々しい響きだった。

 まさにその瞬間である。

 まるでもう、手遅れであるかのような胸騒ぎが絶頂に達したのは。

 避難通路の先が、崩落した。


「な……⁉」

「————!」


 多くの避難生徒が入り乱れる中での突如の崩落。

 崩落の中心点から無数の悲鳴と慟哭が響き、避難列を誘導していた二人の魔術師が即座にその場に駆け出していく。


「なんでいきなり崩落が——」

「終末因子しかないだろ! とにかく生徒の安否を!」


 突然のことに同時ながらも即座に人命救助の行動を起こした彼らの行動は、人間としても〈庭園〉に通う魔術師の端くてとして正しい選択だった。

 けれども、この瞬間だけは——駄目だった。


「————」


 先んじて駆け出した男子生徒が、その場所を足を踏み込もうと瞬間。

 音も無くその生徒の身体の一部が抉れた。


「ぇ————」


 目の前で何が起きたのかわからず、茉弘が声を漏らし、そこから中身を溢して倒れる生徒を姿を見つめることしか出来なかった。


「う、うわああああああああ————⁉」


 もう一人の駆け出していた生徒の悲鳴が通路に響き渡ると同時に、周囲の生徒全てが皆一同に各々の星紋を出現させる。

 それが魔術師として鍛えられてきた彼ら彼女らの感覚から生じた本能なのか、それとも命の危機を察知した生物としての本能による行動だったのかはわからない。

 星紋のの同時顕現により生まれた魔力の渦が空間を包む。目の前に現れた「何か」を迎え撃とうと。

 そうして、崩落した先の土煙から現れたのは、ローブに身を包んだ性別も定かではない、星紋を二画浮かべた人物だった。

 ローブの人物がゆっくりと前へと歩むと、一人の男子生徒が即座にその場所に到達し、首元に第二顕現を添えた。


「止まれ、何者かは知らぬが〈庭園〉と我らの同胞を傷つけておいてこれ以上の侵入は私が認めん」


 そう告げる人物は、茉弘と同じクラスメートの石累。茉弘の編入初日に凛祢と揉めて殺されかけた男子生徒。凛祢がいなければクラス首席の座に就けるほどの実力者であり、彩菜から一目を置かれている生徒の一人であった。


「…………」


 ローブの人物は一瞬立ち止まるものの、気に留める様子も無く歩み出そうとした。


「——ッ!」


 その素振りを見るや否や即座に石累は第二顕現に力を込めた。

 ローブの人物が袖から指を覗かせ、その指をパチンと鳴らした瞬間。


「————へ?」


 石累の手にしていた第二顕現の刃が、突然の膨らんだかと思うと、無数の矢じりと化して、石累の全身を、貫いた。


「ぁ————」


 自分に何が起きたのかさえ分かっていない様子で、石累が声を漏らし、全身から噴き出す血の海に膝をから崩れ落ちていく。

 これが僅か数秒。

 まさに、一瞬の出来事であった。


「————、あ、ああ——ああああああああああああああ——ッッッ!」


 茉弘は悲鳴染みた声を上げると、無意識に星紋を二画出現させた。


「まっ——」


 それを見て希愛が静止させようと手を伸ばす。

 が、それよりも速く人の域を超えた超加速で血塗れで横たわった石累ともう一人の生徒の元に到達し、激情のままにローブの人物めがけて茉弘が漆黒のナイフを一閃しようとする。

 が、深く被られたフードの奥。その奥に隠れた口元が浮き上がったのを見て茉弘は反射的にナイフを地面に突き刺した。

 突き刺したナイフを起爆点にするように、ローブの人物の地面から光の奔流が沸き上がり、地面がせりあがると大爆発を起こした。


「……!」


 ローブの人物が爆風に驚き、息を漏らす。

 茉弘は自壊していくナイフから手を離して、吹き飛んでいく二人の首根っこをつかみ、両脇に抱え込んで宙を舞う瓦礫の中を蹴って希愛の元へと戻った。


「希愛っ……二人を!」

「なんという無茶を――」

「叱りは後でいくらでも聞きますし、受けます。それよりも二人を! 僕じゃどうにも——」


 と、言葉を告げきる前に後方へ視線を向ける。

 先の一撃で周囲が瓦礫で埋め尽くされていた。幸い、他の生徒やクラスメートたちは壁の端に逃げ込んでいたので被害は出ていなかった。

 けれども——状況はなにも変わってなどいない。


「…………」


 まるで何事もなかったかのように、ローブの人物は悠々と瓦礫の上に立っていた。

 一つ違うとすれば浮かんでいる星紋の層が三重になっている事だった。


「第三顕現……」


 茉弘と同じようにそれを見た希愛は苦言するようにその名称を呟いた。

 第三顕現。〈現象〉と〈物質〉を同調させる顕現術式。つまり今目の前にいるのは魔術師。

 それも彩菜直属の騎士に匹敵しうるほどの力を持った。


「————っ、ぁ」


 後ろから石累たちが苦しむ声が聞こえる。

 彼らを回収した段階では息があるのかも分からなかったが、どうやらまだ息はあるらしい。

 けれどもどちらも重態なのは一目瞭然であった。第一顕現は発動させた希愛が治療に当たっているが、二人の身体からは血が溢れ続けている。

 特に、腹部を抉られている少女の方は、何らかの重要な臓器を傷つけられている恐れがあった。

 一刻も早く優れた医療を受けさせなければ命に関わるだろ。いや、あの出血量ではもう——


「……っ、————」


 同じ学び舎で過ごす仲間の痛ましい姿に、茉弘は心臓がぎゅっと引き絞られるかのような感覚を覚えた。


「おまえ……ッ!」


 彩菜の庭園を傷つけ、仲間に致命傷を負わせ、未だ不敵な笑みで茉弘を見据える魔術師。

 世界を殺す怪物たちすらも凌駕する、人為の悪意をもった魔術師。

 ——やらなければならない。今、ここで。

 たとえこの場で、自分の正体を晒すことになろうとも。こいつだけはここでやらないと!

 でなければ、希愛も、茉弘も、他の皆も、こいつに殺されてしまう!


「ッッッ!!」


 怒りのままに、身体を立ち上がらせる。

 理性の絶叫が聞こえた。——無視しろ。

 全身の警告が轟いた。——無視しろ。

 彩菜が来るまで何もするな。——無視しろ。

 式部茉弘の身体を動かす脳と心が、茉弘の決意を全力で否定する。——無視しろ。

 皆を助けろ、と魂の叫びが聞こえた。——肯定した。


「第二顕現【最後の剣】——ッッッ!」


 〈庭園〉での二度目となる『精霊の力』の完全顕現。

 【天使】の名を冠する闇色の大剣を顕現し、煌びやかな王冠の星紋が二つ浮かび上がった直後に身体の一部が破裂した。


「かはっ、ぁ!?」


 当然の結果だった。今の茉弘の身体ではこの力に身体がついていくことは出来ない。

 あと数秒もすれば再び魔術回路が焼き切れるだろう。

 だから、一撃だ。あのウンディーネすらも滅したあの『一撃』で決着をつける。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああ——ッッ‼」


 壮烈な雄叫び。

 白く染まる世界。力の奔流に包まれる大通路。

 最悪の敵へと向けられし、『精霊の一撃』が放たれ。


「——()()()()


 世界を滅ぼす可能性を持った希望の光は、その呟きの前に音も無く消失した。


「な…………っ⁉」


 渾身の一撃を振り抜いた茉弘の目の前に大通路の景色は無く。

 あるのは——果ての知れない無限の闇。全てが黒く塗りつぶされた世界。


「——素晴らしい決断だった」

「……っ!」


 不意に、後方から低い声が響く。

 振り返るといたのは、四重の星紋を浮かべたローブの人物。


「でもやはり、まだ足りない」

「……っ、どういう意味だ。」

「知る必要はないよ。——ああ、でも。彼女は返しておこう。」


 そう言って指をパチンと鳴らすと、次の瞬間に広がったのは——果ての知れない花園。

 そして目にしたものに、茉弘は目を疑った。

 緑生い茂る世界を彩るように、周囲に鮮血の花を散らして横たわる血塗れの妹がそこにいた。


「………………りん、ね……?」


 呆然と、か細い声で名を呼ぶも、声が返ってくることは無かった。

 分かるのは手と、足と、腹に穴を開け、口元は血に汚れ、生きているのかもわからないほどの重傷を負っている事だけだった。


 なんだ、なにがあった、なにが起きた、誰がこんなことを——⁉


「私がやった」


 心から発された問いに答えるように、魔術師が答えた。

 その瞬間、身を焦がすような怒りと怨嗟が心の奥底から湧き出て、手に握ったままの大剣を前方に立つ魔術師に向けて一閃する。

 が、あの一撃が放たれることは無く、どころか容易く刀身を受け止められてしまった。


「な…………っ⁉」

「無駄だよ。この世界は、君たちの為だけに用意した。【天使】は使えない」


 いって、魔術師は指先に力を込めて茉弘の第二顕現を握りつぶしてしまった。


「おまえは……ッ、誰なんだ……ッ! なんで、こんなことを——」

「それは答えよう。——()()()()の為だ。そして私は、その為ならすべてを犠牲する醜い()()だよ」


 そう告げて、魔術師が小さく息を漏らし、踵を返す。

 まるで、茉弘を見逃すかのように。

 あるいは——もう既に、目的を果たしたとでも言うかのように。


「待——」


 待て、と言おうとして、茉弘は言葉を止めた。

 止めてどうする。勝てるのか、渾身の第二顕現が届かなかった相手に。今、ここで。

 そもそも凛祢はどうする。いっときの激情でまだ救えるかも知れない凛祢の命をみすみす放置して奴を追うなんで出来るわけない。茉弘は拳を握り、唇を噛み締めながら、去りゆく魔術師の背を睨み付けた。


「絶対に許さない……ッ」

「…………」

「おまえだけは……ッ!」

「……好きなだけ恨むといい。次で、終わりにしよう」


 そう一瞥を残して、魔術師が闇の中に消える。

 ——やがて、茉弘を包んでいた花園の景色が崩れていく。

 崩落の土煙が舞う、大通路に戻ってくる。

 周りの生徒たち、そして希愛が立ち尽くす茉弘に視線を向け、その両手に抱えられた少女に気づいて混乱と動揺に包まれる。


「——ああ、あああ……」


 床に膝をつき、静かに血に濡れた妹の手を握りしめながら。


「——ああああああああああああああああ————ッ——」


 茉弘は、己の無力を嘆くような声を響かせた。


どうも、3月17日のはるたんです。

まずはお礼を。

数々のいいねとブクマ、そして評価をしてくださった方。本当にありがとうございます。

評価されているという事実があるおかげて何とかここまで毎日更新できています。

今後ともよろしくお願いいたします。



さて、突然の急展開に多分読んだ人たちの頭の上にたくさんの疑問符があると思います。

はい、僕自身もこんなの読んだら「は???」ってなります。どうせ最強なんだろ?って思われてた茉弘があまりにも不憫な扱いを受けてて、本当に主人公なのかこいつは、と私も時々思います。

でも予定通りなので安心してください。なんならここからが本番です。

〈極彩の庭園〉で何が起きているのか、ローブの魔術師の目的はなんなのか、茉弘たちが行きつく先、〈庭園〉で渦巻く陰謀と思惑の全てが明かされる終章——【憧憬決戦編】は、【3月31日——23時】より開幕します。

どうか最後まで、この物語にお付き合いいただけると幸いです。


2024年12月24日 更新



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