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キミと僕の約束、それは世界を守る誓いの聖約  作者: はるたん
第一章 『彩菜サルベーション』
16/46

16 序章終幕


 ——記憶は、酷く薄かった。


 目が覚めたとき、希愛が少しだけ青ざめた様子で自分の身体を支えてくれていた。

 どうしてそんな風になっていたのかに覚えがなくて、手に握られていた翡翠の宝石が粉々に砕けてた。


「—————」


 わかっていることは、何かが違うことだった。

 言葉に出来ないから説明のしようもないのだけれど、確かに先刻の自分とは決定的に違っていた。


 ——細く、縺れるように。


 自分という存在が何かと共に研ぎ澄まされていくような感覚。


——深く、広く。


 自分という存在が何かと共に世界に溶けていくような感覚。

 式部茉弘という人間の全身に、不思議な感覚が走っていた。

 生まれて初めて味わう感覚。五感とは異なる別の感覚器官が目覚めたかのようなそれは、どこか懐かしくも思えた。

 その理由は、茉弘がこの感覚を外的に感じていたから。

 そう。この感覚は。この感触は。


 ——茉弘が初めて、『魔力』を見た時の感覚と同じだったのだ。


「ああ————」


 魔力が見えた。自分の身体から発される魔力を。

 酷いもんだ。彩菜のような綺麗で洗練されたでも無ければ側に居る希愛のように忠実な形でもない。茉弘が初めて見た自分の魔力の流れは、煙のように不規則に揺れ動く不安定なものだった。

 けれど。

 嗚呼、けれど。

 少しだけだけど。近づけた気がした。なれる気がした。

 目覚めたばかりの感覚を、直感で丁寧になぞるだけ。

そうして目覚めた魔術オリジナルはこの瞬間、式部茉弘を魔術師にしたのだ。


「……っ⁉ 茉弘さん、それは——」


 目を開けた茉弘の頭上に、希愛の目線が釘付けになる。

 それも当然だ。

 茉弘の頭上には今、か細い角か棘を生やした弧の形状をした、まるで王冠のような透き通る星紋が二画、前触れもなくいきなり発現したのだから。


「希愛さん」


 茉弘は小さく呟くように呼んで、こう紡いだ。


「——僕は〈庭園〉を守りたい。力を貸し……いや、僕を見張っててください。多分無理します」

「…………」


 希愛は、返答に迷っているようだった。

 突然色んなことが起きて動揺しているんだ。でもわかる。

彼女が自分のお目付け役であるなら、この申し出への答えは一つしかないのだ。


「……わかりました。ただ、あとで色々聞かせてください」

「はい。ありがとうございます、希愛さん」


 茉弘は希愛手を握り、もう一度中央学舎の屋上へと飛び、現状を見た上でその更に上の上空へと魔術で飛んだ。

 そして——式部茉弘は、空から落ちた。




「うぎゃああああああああああああ——ッ⁉」


 凄まじい風が、まだ着慣れない制服や頬の肉をばさばさぶるぶるとはためかせる。

 転移して早々にあっ、という希愛の声が聞こえたが気にするが気にしてる暇なんて一秒とない。ジェットコースターが可愛く思えるほどの加速と、フリーフォールが優しく思えるほどの浮遊感。もう、コワイモノナイカモ。

 と——今すぐ死にたいと思えるような恐怖の中、茉弘の視界の中に二つの影を見つけた。


「——ッ!」


 テレビで見たスカイダイビングでやっていた空中でも姿勢を安定されるポーズ(名称は覚えてない)を取るべく、手足を突っ張る。姿勢はある程度維持できたが、視界はぶれっぶれでか細くしか目が開けられない中、剣を構える少女の姿と水色の蠢く人型の怪物を捉える。


「凛祢ぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇ—————ッ!!」


 己を奮い立たせるように声を張り上げ、その名を呼んだ。


「—————」


 凛祢が、茉弘の声に気づいてか、数百の槍を迎撃しようとしていた剣を止めたまま、降り注がんとする槍の雨の更に奥へと目を向ける。


「にい——さま……?」


 完全に手が止まってしまった凛祢を見て、茉弘はやらかしたと気づく。

 状況を見るに凛祢は、あの終末因子からの攻撃を凌ごうとしていたのだろう。だが茉弘が叫んでしまったことで凛祢のその意識を茉弘がずらしてしまったのだ。


「——ッ!」


 ——どうする。

今の自分は魔力が知覚出来るようになり、星紋も浮き出ている。何も知らない自分でも、今の自分が『何者』になれているのかは分かっている。

 何でも出来そうな全能感に包まれているこの状態、だがその全能を統べ、放つ術を持ちえない。そんな自分に——何が為せるのかを思考しろ。意識を研ぎ澄ませ。

 何か、何か————ッ!



(——慌てることはない。今の君は、最強の矛を持っているのだから——)



 と。


「あ——」


 思考の波に落ちていた茉弘の頭にそんな声が響いてきて。

瞬間、世界が止まった。正確には時の流れが異常なほど遅くなった。

微かであったが、幻聴というにはあまりに鮮明な声音。

どうしてそんな声が聞こえたのかはわからない。

けれど、その声を聞いた瞬間、茉弘は不思議と安心感を覚えた。

その声は——庭園で過ごした日々において、茉弘が抱いた憧憬の声そのものであった。

恐怖が、消えた。迷いが消えた。

だって。あの人なら、絶対に逃げだりなんかしないから。


「—————ッ!!!」


 瞳に、炎が灯る。

 やるべきことと為すべきことを見据えた瞳が発露し、未熟すぎるその左手を力強く握りしめた

 茉弘は、静かに右手を天に掲げた。


「【目覚めろ(アフィプニスィ)】」


 そして、唱えた。

 『自分』を起こす呪文を。

 もう一度、今度は意志を以て目覚めるための同調の祝詞を。

 次の瞬間、己を取り巻く世界が豹変した。

 落下で生じる激しい逆風の叫びが一瞬、茉弘の聴覚から全ての音をかき消す。

 視界は酷く鮮明に、怪物だけを見据える景色へ。

 生じるのは打ち付ける風よりも強く、巻き起こるのは純然な力の余波だ。

 初めて目覚めたときの制限なく荒れた力ではない。

 彩菜と出会い、己の正体と脅威を自覚した上で——式部茉弘の瞋恚の炎を持って呼び覚ました『精霊』の力との同調である。


「アア、ア、アアアァァァァァァァァァァ—————ッッッ⁉」


 同時。

 凛祢だけを見据えていた『精霊』が初めて、それ以外を見据えて絶叫した。


「なっ……⁉」


 凛祢、ガンヴェルトゥ、そして茉弘を空へと送り届けた希愛が目の当たりにする。

 一匹の格好の獲物に目移りしていた怪物の視線が茉弘へと移り、苦し気に頭を掴みながら悲鳴を放つ。目の前に差し迫った氷槍は、凛祢に当たることを避けるかのように不自然な弾道の線を描き、その他の氷槍も決して周りを狙わず、自分の『体内』に生まれた『それ』のみを恐れるように——忌々しき『同胞』を恐れるように、恐怖に陥る。


「———————」


 茉弘の時は、未だに緩やかだった。

 けれども目はハッキリと開かれている。

 真性の怪物である『同胞』の双眸が見開かれているのを、茉弘の双眸が映した。

 妹の姿など、今の茉弘には見えていない。その余裕がない。

 溢れ出た力は際限なく漏れ出し、あの時のように外に飛び出ようと暴れ狂っている。


 ——身体を寄越せ、と。

 渡すどおりなんてない。


 ——暴れさせろ、と。

 尚更渡すわけにはいかない。


 ——お前では無理だ、と。

 勝手に決めつけてるんじゃねえ。


 ——お前は人間だろう、と。

 そうだ。でも言われたから戦う。


 ——それは、どうして?

 妹がピンチだから。あいつのお兄ちゃんだから守りたいんだ。


 ——じゃあ、『()』を呼ぶのだ。

 ——『私』は、お前の力になりたいのだ。


 声との問答が終わると同時。


「——第二顕現」


 茉弘は、詠唱を開始する。

 身体が熱くなる。まるで、全身を巡る血潮が熱を帯びるかのように。

 次の瞬間、茉弘の視界を輝きが覆う。

 先ほどまで淡い光しか灯っていなかった頭上の星紋に強い光が灯る。


「アアアァァァァァァァァァァ—————ッッッ!」


 精霊が再び叫喚を上げる。

 だが、もう遅い。瞋恚の炎は灯った。意志という鉄はくべられた。

 叩きあげられたそれは、もう砕けることはない。

 故に——少年は紡ぐ。


「【最後の剣(サンダルフォン)】————ッッッ!」


 自分の中にあるもう一つの名。

 流れる血に与えられた——【天使(てんし)】の名を冠する精霊の真名(まな)を。

 顕現するは、巨大な剣。不規則な紋様が描かれ、そこに闇色の光が走るそれを握りしめ。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ‼」


 一閃した。

 それに音はない。余波もない。

 剣閃によって街が壊れたなんてこともない。

 ただ——


「あああ、ああ、ああああああああああああああああああァァァ⁉」


 放たれた闇色の光の中から、『怪物』の断末魔だけが響いて。

 次の瞬間には、精霊の姿は影も形もなく、闇色の光だけが微かに残ってそこを彩った。






「——やはり、そっちに至るんだね」


 それはどこか期待してたような、けれどそうはなって欲しくなかったかのような呟き。

 ただ、魔女は称賛した。

 その意思を。その覚悟を。

 そして残念に思う。その道は、その未来が最も過酷なものになると知り得ているから。


「迷いは消えた。憂いは消えた。ならばもう構うまい。

 ——君の『覚醒』を以て、『私』も決断しようじゃないか」


 魔女は語る。

 ——これは『序章』だと。


 魔女は蔑む。

 ——これは君たちの『物語』では無いと。


 これは、自らに『罪』を問い、だれよりも『未来』を願う『罪人の物語』であると。


「精々足掻いて見せろ——無華花彩菜。私はお前を殺し、茉弘を殺してでも『未来』を掴む」



 黒い決意を灯し、魔女は〈庭園〉の暗がりに溶け込んだ。




初めまして皆さん。はるたんです。

毎日投稿という名のストック投稿で少しずつ進んでいく物語に追いつかれまいと今も書いてますが既に息が切れてる。お話書くのってツラいね……。


さて——ひとまず今回のお話で序章は終わりなんですが、こんだけやってまだ序章なのか……などと思う方もいると思います。なんでこんなことになったのかというと、私が書きたいように書いたせいとしか言えません(笑)。まとめ力の無さに溜息出ちゃいますよほんとに。約四万字の序章ってなんだよ……。


本編的には今は30~40%くらい進行してます。伏線等も徐々に回収していきますが既に本人の手に負えない状態のものもあるのでもしかしたら1章無いで全回収は無理かもです。迷宮入りしそう。

17話以降は茉弘が本格的に魔術を学んでいきますが、育ててしまうとすぐインフレする潜在能力秘めてる茉弘には僕が色んな邪魔をして強くならないようにしようと思います。

どんな邪魔をしてくるのか、この先この作品がどうなっていくのか。長い目で見て頂けると幸いです。


最後に、感想等があれば遠慮なく頂けると幸いです。

『おまえコレどっかのパクリだろ!』って意見でもいいです!(ぶっちゃけそう思われたほうが血を吐いて書いた甲斐があるので笑)

では、次回は予約投稿ではないリアルタイムの投稿分でお会いしましょう。失礼します。



※3月14日の作者から。

予約投稿分の制作がギリギリ追いついてるのでまだまだ予約投稿は続きます。

追いつかれたら2日に1回とかのペースで投稿すると思いますのでその時はよろしくお願い致します_(._.)_ 


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