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蒔島家の事情  作者: JUN
25/28

放課後のカノン

 館駒祭の翌日、俺たちのステージの話が学校中で広まっていた。

 考えればそれもあり得る話だった。何せこの学校は館駒市にあり、生徒は館駒市近隣の人間なのだ。見られていないと思う方がおかしい。

 目立ってなかったはずだと思ったが、ステージにあがった人数が人数だ。メンバーとしてきっちりと認識されていた。

 それでさらに視線は増えたがもう無視できるようになった。毅然としていればどうという事もない。

 弦楽部でもステージのことは知られており、面白そうだと、アレンジや弾き方についての話で熱中した。

 練習が終わり、俺たちのグループが後片付けをする。

「鍵は俺が返しておくから」

 友田部長が言い、それでほかのメンバーは教室を出て行った。

 俺はその後に掃除道具を戻して帰ってきた。

「蒔島か。もう終わったから帰らせたところだ。蒔島も帰っていいぞ」

 言いながら友田部長は改めて雑務をしている。次の練習に使う楽譜をコピーしたものを、準備しているところだった。

「手伝いますよ」

 そう言って、一人分ずつ作っては何のパートかわかるようにまとめておく。

 指揮者は全部のパートのものが載ったフルスコアになるが、それはここにはなく、顧問の先生のところにある。

 2人でかかると、思ったよりも早く済んだ。

「随分楽しそうなことをしてたんだって」

「頼まれた時はロックなんてどうやればいいのかって思ったんですけど、やってみたら楽しかったですよ」

「羨ましい。息の合う仲間で合わせるのはやっぱりいいからな」

 友田部長はそう言って小さく笑う。

「部長と約束した、カノン。あれも楽しみにしてるんですけどね」

 言うと、友田部長は楽しそうにバイオリンケースを引き寄せた。

「やるか?」

 断る理由はなかった。

 念のためというか習慣で音を確かめ、改めて構える。そうして、目の合図で、友田部長から弾き始める。嫋々と響く音が、人気のない校舎に流れていく。

 その音を追いかけ、俺の音が流れていく。

 音は追い、誘い、絡んで流れた。

 息が合ったアンサンブルは何よりも気分が良く、この時間が永遠に続けばいいとさえ思うものだった。


 いい加減にしろと顧問が職員室から言いに来て、それで俺たちは時間が経っていたことにようやく気づき、名残を惜しみながらもおしまいにした。

 昇降口は学年毎に場所が分かれているので、入り口で別れる。

 すると俺のロッカーの前で、この前の小田先輩が待ち構えていた。

 どうしようかと思ったが、避けようもないし、姿をお互いに認めてから回れ右するのもどうかと思う。それに、今日何とかなっても、根本的に何とかしないと、繰り返すだけだ。

「蒔島」

「お疲れ様です」

 言って、南京錠を外して扉を開け、靴を履き替える。

 その間にも小田先輩は、自分のアピールをしていた。

「なあ、蒔島」

 いい加減じれたのか、腕を掴んでロッカーに押しつけられた。壁ドンならぬロッカードンだが、それはゴロが悪いと思った次の瞬間、思いもかけない強い力で腕を掴み直されて半分上の空だったのが現実に引き戻された。

「お前は誰とも付き合ったことないんだろう。見たらわかる」

「大きなお世話です」

 それに失礼だ。

「なあ。俺にしろって。蒔島の当主に釣書を受け取ってはもらえなかったが、それは俺が高校生だからだ」

 絶対に違う。そうじゃない。

 しかし、声を出せばみっともなく震えそうで、悔しくて黙っていた。

 相手は上級生だ。この後もまだ校内で顔を合わせることになるかもしれないと思えば、あんまり角の立つ断り方はできないと思っていたが、これなら何の遠慮もいらないようだ。

 俺は思いきり小田先輩の足の甲を踏んづけた。

 護身術で、そう言っていたのだ。

 しかし、

「痛て」

で終わった。

 え、何で!?力が緩むとか言ってたのに!

 それで思い出した。底が堅い靴ならともかく、ゴム底の靴程度でのダメージは小さい。

 うわあ、失敗した!俺は本格的に焦った。焦って暴れたら、クリーンヒットしてしまった。膝が、ナニに。

「く、下手に出てやれば、この……!」

「下手?いつ?

 ともかく、俺はお断りしたはずです。これ以上付きまとうようなら法的手段も辞しません」

 言いながら、少しずつ距離をとろうとかに歩きで逃げにかかる。

 痛そうにしながらも怒りで赤く顔を染めて小田先輩は追いかけて来ようとしたが、かかった声にビクリと動きを止めた。

「しつこい」

 友田部長である。





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