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蒔島家の事情  作者: JUN
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フラグ

 どこからか聞こえてくる「あの地味なやつが?」「廊下でばったりと」「これってフラグだよな」などという声と視線に落ち着かない思いをしながらも、どうにか最後の授業も終了した。

「あ、お前でいい。集めたノート、教官室まで持ってきてくれ」

 城崎に言われ、お前とは誰だと周囲を見回して、自分の事だとわかった。

「頼むぞ」

 そう言われ、かばんを右肩から下げ、左肩からはバイオリンケースを下げ、ノートの山を持った。

 ノートなんて自分が覚えやすいように書いていればいいだろうが、教師はほぼ皆、時々こうしてノートを集めて確認する。それで平常点とかいうおまけが付くのだから、文句もそうそう言えないが。

 ただ、出席番号と日付や、目があったとかいう理由でノートを運べと言われると面倒くさい。

「当番だから先に部室に行ってるね」

「おう」

 百山がにこやかに言うのに応え、教室を出る。

 生徒が行き交う廊下は、混み合い、避けたりぶつかったりする度にかばんやバイオリンケースが肩からずり落ちそうになる。

 が、どうにかがんばっていたのに、急いでいたらしい生徒にタックルされてバイオリンケースが落ちかけ、それをどうにかしようとしたらノートを廊下にぶちまけた。

「柊弥!大丈夫!?」

タタタタッと足音がして、そばに誰かがしゃがみ込んだ。

「何やってんの、柊弥!」

 春弥と前川だった。

「おう、すまん。今からクラブか」

 前川はうんと頷ながら、2人とも手伝ってくれる。

 いや、もう1人いた。

「大丈夫か。持って行くの手伝おうか」

 声をかけてくれたのは、剣道部部長の田代先輩だった。手伝ってくれたあげく見かねて声をかけてくれたらしい。

「ありがとうございます。すぐそこだから大丈夫ですよ」

 言って、ノートの山を持ち直し、歩きだす。

 その俺に、春弥も着いてきて小声で文句を言った。

「なんで手伝ってもらわないの!」

「え。だって、混んでる箇所は過ぎたし大丈夫だろ」

「それでもここは手伝ってもらうべきなの!」

「たかがこれくらいだぞ。深窓のご令嬢じゃあるまいし」

 笑う俺に春弥は頬を膨らませ、前川は困ったような顔をした。

「ええっと、春弥。今日は写真部あるんだろ。終わったら一緒に帰ろう」

 気をそらすように前川が言ってくれ、春弥もそれで機嫌を直す程度だから、そう本気でもないのだろうが。

「わかった。迎えに行くね。

 あと、柊弥。もうちょっとちゃんと一覧表を見ておくようにね」

 春弥と前川は、慌ただしくそう言って去って行った。

「興味ないっていうのに。はあ」

 嘆息したら、横からもうひとつ嘆息が聞こえて俺は驚いた。幽霊かとすら思った。

「うわっ!?」

 そこには、俺と同じタイプの、すなわち地味な生徒がいた。

「なな何」

「生徒会長のフラグも無視。剣道部部長のフラグも無視。それは好みじゃないとかでござるか」

 言葉の意味はわかったが、どういうことかわからない。脳内で2回繰り返してようやく理解した。

「好みもなにも」

「チチチッ。ここは保険の意味でも、乗っておくのが定石というものなのに」

「……」

 わかった。こいつが腐男子というやつだな。

「館倉の生徒なら館倉の空気を読むでござる」

「空気……」

「では」

 その生徒はスタスタと歩き去って行き、俺はそれを、戦慄とともに見送った。

「え。春弥だけでなく、誰かからもダメ出しされんの、俺!?」

 館倉に来たことを、早くも後悔し始めていた。






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