第98話 トラップ
3階層へと続く階段を下りると、壁や天井が石材で囲まれた通路型のエリアが見えてきた。
魔物のランクは少し上がり、『ガーゴイル』という石の身体を持つ魔物や『リビングアーマー』という鎧を装備したアンデッドのBランクの魔物が出現している。
ガーゴイルは魔法に強い耐性があり、物理攻撃でダメージを与える必要があるが、リビングアーマーは物理に対しての耐性が強い。単体であれば問題ない魔物も組み合わせ次第で討伐難易度が高くなる典型のような組み合わせだ。
「シンクはヘイトを稼いで敵の分断、キヌとネルフィーは魔法でリビングアーマーを受け持ってくれ。俺とドレイクでガーゴイルを叩く」
「ん。分かった」 「了解した」
「阿吽様、先にガーゴイルを引き付けます」
「あぁ、サクッと潰すぞ」
シンクはガーゴイルに向け【挑発】を行い、ヘイトを自分へと向けると、振り下ろされた腕を盾で弾き、【ガードインパクト】でダメージを与える。ガーゴイルは仰け反りながらもアースバレットを放ってくるが、それもシンクの地属性魔法【アースウォール】に阻まれ、回り込んだ俺とドレイクの連撃を受け身体がバラバラに砕けた。
キヌとネルフィーの方を見ると、ガーゴイルが砕けたタイミングを見計らい、魔法でリビングアーマーへとダメージを与えていた。
ネルフィーは雪山でのクエレブレの特訓以降、アーブルアークに魔力そのものをエンチャントし、樹属性魔法にて『魔法矢』という魔力で出来た矢を放つことを習得するに至っていた。物理のダメージはないものの、魔法を矢のように放つことができ、ネルフィーにとっては今までの魔法よりも使い勝手が良いらしい。
もちろん通常の矢を番えて放つことで物理ダメージを与えることも出来るため、遠距離からの対応力が大きく向上している。
リビングアーマーも二人の魔法をまともに受けると、何もできずにバラバラと鎧が崩れ落ちダンジョンへと吸収されていった。
「対応さえ間違えなければ問題なさそうだな。とりあえず攻略できるところまで攻略して、もしセーフティーエリアがあればそこで休息をとる事にしよう」
その後も10体ほどリビングアーマーやガーゴイルを倒し、順調に3階層のエリアを進んでいく。HPやMPも余裕をもって攻略できていた。
だが、その次の戦闘に入った瞬間、後方からネルフィーの焦った声が聞こえてきた。
「阿吽、ドレイクっ! 後ろに跳べ!!」
直後、踏み抜いた場所の床が一気に崩落した。咄嗟に【空踏】を発動し、後衛の所まで飛び退くと、ドレイクも【飛行】で落下を回避しているのが見えた。崩落に巻き込まれたリビングアーマーは姿が見えない。
「あっぶねぇ……油断してた。トラップか」
「焦ったっす!」
「すまない! もっと早く気付くべきだった……斥候失格だ……」
「いや、ネルフィーは悪くねぇよ。後衛に配置した俺のせいだ。これから前衛に来てもらっても良いか?」
「わかった。もうこんなミスは冒さない」
順調に進んでいただけに慢心があったのは事実だ。ダンジョン内はそれだけ危険な所であるという感覚も薄れていた。この場所がわずかな油断が命取りとなる事を改めて認識し直せただけ良かったとしよう。
その後はネルフィーを先頭にして探索を進めていくと、この階層の先には3つのトラップが仕掛けられていた。最後に見つけたトラップは階段の直前にあった宝箱に仕掛けられていたため、解除をするか迷ったのだが、まずは安全に攻略することを優先して今回は宝箱をスルーし階段を下りていった。
階段を下り4階層に入ると、3階層同様石造りのフロアとなっていたのだが、小さな部屋となっており、セーフティーエリアとなっているようだ。念のためHPやMP、疲労回復のため小休止を挟みつつ作戦会議を行うこととなった。
「とりあえず、この先もトラップは警戒していこう。だが、突然の魔物との遭遇を避けるために俺も最前列に行って【探知】のスキルを使おうと思う」
「ん。それが良いと思う。ネルフィーにかかる負担も軽減できそう」
「そうだな。ネルフィーの【観察眼】では魔物の気配までは見切れないし、精神的な負担も大きいだろ?」
「疲労は溜まるが、このパーティーの為になっている事は嬉しく思う。実際、戦闘面では他のみんなに頼っている場面も多いし、足手まといにはなりたくはないからな」
「いや、でもネルフィーがいなかったら引っかかっていたトラップも多かったと思う。それに戦闘場面でも全体を見ながらフォローしてくれている。足手まといなんてことは全くないぞ」
「このメンバーの中で明らかに戦闘力が一番劣っているのは私だからな。言葉が足りなかったが、一緒に戦っていると向上心が沸いてくる。という意味だ」
「わたくしは、ネルフィーさんから学ぶことは多くあります。捌ききれない数のモンスターが来た時などは、適切にヘイトを切ってくれる場面もありますし、全体を見渡せる目を持っているのは本当に凄い事だと思います」
「ありがとう、シンク。この後は阿吽も隣に来てくれるのだし、安心してトラップに専念できる」
「おう。それと、もしボスクラスの魔物が出てきたときの対処法も事前に考えておきたい。実際パーティーでボスと対峙するというのは、初めてになるからな」
「そうっすね! とりあえず前衛は俺とシンクねぇさんっすか?」
「だな。会敵したらすぐに陣形を変える。
複数の敵が出現するパターンも考えて、シンクはすぐに【挑発】でヘイトコントロールと防御だ。ドレイクは早めに処理できる敵を殲滅しつつ、出来るだけシンクのフォロー。
ネルフィーは最後列まで下がって雑魚処理やボスへの弱点攻撃を状況に合わせて頼む。
俺とキヌは中衛として魔法攻撃と近接攻撃を使い分けて戦いつつ、キヌはダメージを負ったヤツの回復も頼む。MPの管理が大変だと思うがその辺は任せた」
「ん。あと戦闘中は念話使った方がいいかも」
「そうだな。戦闘音で指示や注意喚起が聞こえないかもしれない。確実に意思疎通は行うようにしよう。
それと初めて戦うボスの場合、ランクに関係なくシンクは早めにバフスキルを使ってくれ。シンクが崩れるとパーティー自体が崩壊しかねない」
「承知いたしました。しかし、このダンジョンはそれほどまでに危険な敵が出現しそうなのですか?」
「そうだな。実はプレンヌヴェルトダンジョンを改造して色々分かってきたんだ。ダンジョンポイントの溜まり方とか、どのランクの魔物がどれくらいダンジョンポイントが必要なのかとかな。
んで、このダンジョンの構成を考えてみると、1階層にAランクの属性付きゴーレムが16体も配置されてたり、3階層に危険な罠が仕掛けられてたりしたろ? この先のフロアがどれくらいあるかは分かんねぇが、少なくともボスは1階層のAランクよりは格上の可能性が高い」
「確かにそう考えるとSランク以上の魔物が出そうっすね!」
「あぁ、Sランクの魔物であれば、今の俺達のレベルでも経験値は結構入りそうだが、その分危険もある。気合い入れて臨んだ方がよさそうだ」
作戦会議を終えた俺達は、セーフティーエリアでの小休止を終え次の階層へと続く階段を下りて行った。
次話は6/25に投稿予定です♪
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