第93話 非公式会合②
「次の話は捕虜の事か?」
「そうだね。それに関しても取れる手段が限られているから、次はその話題にしよう」
確かに、これからの復興や移住を考えると、アルト王国に捕虜を養うだけの食料や資金がそこまであるとは思えない。となれば、送還一択という事にはなる。だが、無償で送還してしまっても良いのかどうか……また、帝国が話し合いに応じるか否かと言ったところだろうか。
「アルト王国で捕虜を養えないとなると送還って事になるが……そのまま送り返すとなると、また戦争を仕掛けられかねないよな……」
「阿吽の言う通りだね。そこで、ルナ皇女殿下に聞きたいのですが、皇帝は話し合いに応じると思われますか?」
「正直に申し上げると、応じるとは思えません……魔族の思惑としては、両国が破滅するのを望んでいると考えられます。洗脳されている皇帝が、“敗戦した”というこの場面に至っても、アルト王国の有利になる交渉に応じるというのも考えにくいです」
「となると……捕虜たちはアルト王国の為に労働を課すか、無償で送り返すか……」
「わたくしといたしましては、アルラインにて復興作業に従事させるのが良いかと。食料問題に関しては厳しくなるとは思いますが……そもそも帝国軍が破壊した街ですし、復興が完了した後に送還するという事を陸軍の総指揮となったジェフ・ベック大佐にも言い含めておけば、反乱は起きないかと」
皇帝が話し合いに応じないのであれば、現状はそれが最良な手段ではありそうだ。食料問題は確かに厳しくはなるが、復興するまでの半年程度なら他の街からの支援でどうにかなりそうではある。
というか、そもそも皇帝の独裁政治となっている帝国で、魔族が暗躍している現状を打破しなければ、この話はその先に進められないだろう。
ルザルクも同様の事を考えていたようであり、話題は魔族の事についてに切り替わる。
「とりあえず捕虜に関しては、ルナ皇女殿下の提案の方向で考えましょう。捕虜の監視については王国軍の巡回でなんとかしておきます。
最後に、魔族に関してですが……ルナ皇女殿下は何か詳しい事は知っていますか?」
「実は、あまり詳しい事は知らないというのが本当のところです。ただ、お父様……皇帝と魔族が会って話をしているのは帝都の城内です。私が洗脳されそうになったのも、皇帝の自室を訪ねた時でした……」
「ということは、城の最奥に潜入する必要があるってことになるね……」
「そうですね……しかし、皇帝を狙うのであれば、別の手段も取る事ができます……」
ルナ皇女からその提案が出てくるというのは正直意外だった。
もちろん皇帝を暗殺し、新たに皇帝となる人物をルナ皇女にしてしまうのが、魔族を倒すよりも難易度が低くなる方法ではある。
「……いいのか? 皇女の父親なんだろ?」
「仕方がありません。洗脳されているとはいえ、このような戦争を引き起こした張本人なのです。然るべき罰が下るのは……当然です」
「まずは、その“別の手段”というのを聞かせてもらってもよろしいですか?」
「はい。皇帝は滅多な事がない限り城内からは出ません。しかし、各国の首脳陣が集まる場には出席するはずです」
「スフィン7ヶ国協議会……」
「その通りです。このような戦争を一方的に仕掛けておいて欠席するとなると、他国からの心証も悪くなるのは目に見えており、内部から反乱されるという可能性も高くなります。魔族に関しても、今回の戦争で思ったような戦果があげられていないため、まだ帝国を潰すという思考の転換には至れないのではないでしょうか……」
「協議会の開催は今から3か月後……。皇帝もそこが危険な場所であるという事は分かっているはず……ということは、皇帝を失うわけにはいかない魔族もそこに来る可能性も高くなるということか」
「その通りです。そこで私が帝国の内部事情や魔族について暴露すれば、他の国も私たちに協力をしてもらえる可能性も高くなります」
「3か月……ギリギリではありますが、各国に使者を派遣する事も含めて対応を考えておきましょう。その場合、禅君は指名依頼で武京国へ行ってもらいたいのですがよろしいですか?」
「……そうですね。一度師匠にも話さなければならないこともありますし、ちょうどいい機会です。その依頼、受けましょう」
「ありがとうございます。魔族に関しての対応は、もう少し僕たちの方で考えてみます。それと、ここで話し合った内容を陛下にも上申し、国としての意見として通しておきます。その際に皇帝が魔族に洗脳されている事も含めてお伝えする必要が出てきますが、それはご了承ください。
あとはスフィン7ヶ国協議会への出席と、そこでの発言権が増すように僕が“次期国王”として出席させてもらえるように話をしておきます。これに関しては、了承してもらえるかは分からないですが……」
ここまでスムーズに話は進んできたが、実際のところ一番解決しなければならない問題が残っている。
「ひとつ、問題がある……」
「ん? 阿吽なにかあるのか?」
「実際に直接魔族と戦う事となった場合、俺達はその魔族に勝てない可能性もあるってことだ」
俺の発言に、その場にいた全員の目が見開かれる。
「さすがにそれは……こう言うのもなんだけど、阿吽達の戦闘力は他者と比べて圧倒的に群を抜いている。個人やパーティ単位で帝国の一軍を相手にできるのに……」
「あぁ、だが実際にキヌとシンクが戦った魔族には、二人が全力で戦っても軽い傷をつける事しかできなかった。だから、俺達の戦闘力をもっと高める必要がある……」
「何か、手はあるのか?」
「この国にAランク以上の魔物が多く出現する可能性のある場所があれば、俺達のレベルをもっと上げられる。プレンヌヴェルトダンジョンも考えたが、あそこは他の冒険者も多く潜っているし、効率を考えると短期間で大きくレベルを上げられない可能性もある。
もし、他に知られていないダンジョンやSランクの魔物が出現する場所がこの国にあれば、そちらを優先したい」
そもそも俺がダンジョンマスターとなっているプレンヌヴェルトダンジョンでは俺達のレベルは上げられない。
クエレブレに修行を付けてもらうことも考えられるが、その事もこの場で話すと色々面倒なことになりそうなので隠しておく。それに今後魔族との戦闘も視野に入れるなら、このタイミングでレベルとステータスを上げる事も必要なはずだ。
すると、それまで黙って話を聞いていた禅が口を開いた。
次話は6/11に更新予定です!
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