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第92話 非公式会合①


〜阿吽視点〜


 イブルディア帝国軍との衝突から1週間が経過した。

 帝国陸軍大将のクヌート・ベックは、仲間からの反逆により死亡し、変わって指揮官になったクヌートの息子であるジェフ・ベック大佐が全面降伏したことにより、今回の戦争は一旦の終結を迎えた。


 この1週間、俺達はアルラインのクランハウスに滞在し、被害の確認や捕虜からの事情聴取、復興作業の手伝いなどを行ってきたことで、だんだんとこの戦争の不透明であった部分が見えてきた。


 今回のイブルディア帝国軍侵攻での被害に関しては、アルト王国全体で考えると決して小さいものではなかった。王都であるアルラインの街は大きく破壊され、住む場所がなくなってしまった住民もたくさんいる。

 民間人の被害の確認はごく軽微に抑える事ができたが、兵士の人的被害は少なくともは500人以上の戦死者がでているらしい。


 俺とシンクがブチギレちゃった件に関しては、若干やり過ぎた感じはあったものの、途中でキヌ達が止めてくれたことや、ルザルクが上手く兵士の思考を誘導してくれたことにより、アルト王国の兵士や民衆からは特に負の感情を向けられてはいない。

 そればかりか、ドレイクの活躍も相まって【星覇】の株はさらに上がったようである。


 ひとまず、今回の戦争に関しては落ち着いたと言えるのだが、皇帝が魔族に操られている事を考えると、今後に関してはまだ何を仕掛けてくるかは分からない。

 それに降伏をしたジェフ・ベック大佐の話では、陸軍の指揮を執っていた父親のクヌート・ベック大将は、この戦争直前から急に性格が変貌したと言っていた。

 以前は敵を皆殺しにしようとするような指揮官ではなく、優しく人格者であったと……これに関しては疑いの耳で聞いたとしても、戦争前に指揮官クラスが魔族に洗脳されていたという仮説も立つ。そのため、今後も帝国側の人間が洗脳されるだろう事を視野に入れておいた方がよさそうだ。

 しかし、帝国軍はかなりの戦死者を出していることや、所有している魔導飛空戦艇10隻のうち8隻を撃沈されたことにより今すぐ何かを仕掛けてくるという事はなさそうではある。


 俺は数日前にルザルクから「情報を整理し、今後の方針や捕虜の取り扱いについて話し合いをしたい」と言われており、今日がその話し合いの日だ。

 そして現在、『黄金の葡萄亭206号室』には俺とルザルク、レジェンダ、ルナ皇女に加え、なぜか禅も話し合いに参加をしているという状況である。


「早朝にも関わらず集まってくれてありがとう。

 まず、今回の会合には戦争前の会合メンバーに加え、禅君にも参加してもらった。禅君は、帝国軍の魔導飛空戦艇の発進を逸早く察知するために裏で動いてもらっていたんだ。阿吽と禅君は初めて話をするのかな?」


「あぁ、そうだな。準決勝でキヌと戦っているのを見たきりだが、かなりの剣の使い手のようだな。俺のことは阿吽と呼んでくれ」


「わかりました。私のことは禅と呼んでください。それに阿吽とは個人的に話したい事が色々あります。もし良かったら、この会合の後に話をしましょう」


「あぁ。俺も禅に聞きたいことがあったし、ゆっくり話をしよう。

 ルザルク、とりあえずは戦後処理の事から話をするか?」


 するとルナ・イブルディア皇女が立ち上がり深々と頭を下げた。


「あの、まずはお礼と謝罪からさせてください!

 この度は、我がイブルディア帝国の仕掛けた戦争により多くの被害、犠牲者を出してしまい、本当に申し訳ございませんでした……

 また、被害を最小限にとどめて頂くために、命を懸けてご尽力いただいた皆様に感謝申し上げます」


 顔を上げたルナ皇女の表情は、悲痛、安堵、不安など様々な感情が込められており、綺麗な顔が歪んでいる。

 だが、ルナ皇女からの事前情報のお陰で、これだけの被害で済んだのは間違いない。


「俺個人としては、ルナ皇女殿下のお陰でこれだけの被害で済んだと思っているし、ルナ皇女殿下に対して負の感情は持ち合わせていない。が、謝罪と礼は受け取っておく」


「そうだね。ルナ皇女は複雑な心境だとは思うけど……

 ここに居る4人は、ルナ皇女殿下に対して感謝しているくらいだ。今後の事もあるし、あなたの事は協力者として考えさせてもらうよ」


「だな。まずは情報の整理からしていくか?」


 ルナ皇女は涙を浮かべながらもしっかりと頷く。

 そして、ルザルクが情報の整理のために現状挙がっている大きな問題点を話していった。


「現状問題となっている事をまずは整理するとしよう。

 まず、一番大きな問題は魔族についてだ。皇帝が帝都から動いていないことを考えると、魔族も帝都に潜んでいるという可能性が高い。そして、今すぐどうこうできるという事も考えにくい。

 次に問題となってくるのが、捕虜の取り扱いだ。全員で2865人の捕虜が居るのだが、この国にそんな数の捕虜を収容できる場所も無ければ、食糧などの問題もある。だが、帝国に送り返すにしても、また戦争を起こされては困る。

 三つ目は復興に関する問題だ。この街のおおよそ40%が破壊されたことを考えると、復興するまでに長期間かかりそうだ。周辺の村や街に、家をなくした被災者を受け入れてもらうようにお願いはしているが、すぐに受け入れられるような態勢も整っていない」


「とりあえず、被災者の受け入れについてから話していくか? というか、これはルザルクの仕事だろ。もう大枠は決まっているんじゃないのか?」


「そうだね。取れる手段は現状少ないという事もあるが、ミラルダ、レクリア、プレンヌヴェルトへの移住者を募ろうと思う。しかし、移住したがらない者も居るだろう。その人たちはアルラインの闘技場を復興までの避難所として開放しつつ、順次復興作業をしていくという感じかな」


「まぁ、それしかないよな。

 んで? 何でこの場でその話を持ち出したんだ?」


「ははっ……やっぱりバレてる? いやー実はさぁ、予想ではプレンヌヴェルトへの移住希望者がかなり多そうで……割合としてはミラルダ3:レクリア2:プレンヌヴェルト5ってトコなんだよ」


「……バルバル過労死するぞ? それにプレンヌヴェルトは今の移住者だけでも住居が足りてないのに……」


「うん、分かってる。分かってるんだけど……今、この国で建築関係の仕事をしている人たちは軒並みプレンヌヴェルトに居るでしょ? 他の街を拡張するとなると、外壁を一度壊したり、建築ギルドの人たちを他の街に回したりって手間が増えるんだ。

 だから、もう年単位の計画でプレンヌヴェルトの街の大きさを今の3倍くらいに広げちゃわない? って相談なんだよ。もちろん予算や人員はもっと増やすから……」


「あー、いやコレ俺の一存で決めれないだろ。それこそバルバルとかステッドリウス伯爵とかとの相談も必要だ」


「そのことなら心配しなくていいよ。ステッドリウス伯爵は了承してくれたし、バルバル君は阿吽が良いと言うならやりますと言ってくれている」


「手を回すのが早いな……ってか、それ俺もオッケーするしかないだろ」


「ハハッ、まぁそういう事かな?」


 確かにダンジョンポイントの事も考えたら、俺たちにとってもメリットは大きい。願ったり叶ったりなんだが、街の拡張が急すぎてバルバルの負担がかなり心配だ……


「なら、条件付きで了承する。一つ目は優秀で扱いやすい文官をバルバルの補佐に付けてほしい。

 それと領主はバルバルがやるって事の確約と、今後の事を考えて爵位を男爵じゃなくて子爵にしてやってくれ。何かと融通も利くようになるだろ?」


「爵位については段階的に上げていくことになると思うけど、それは陛下に進言しておくよ。

 文官に関しては、文官養成学校を卒業した優秀な者で、貴族の跡取りとならない者を選んで数名付ける事にする」


「まぁ……それなら構わない」


「よし、じゃあ次の話に進もうか!」


 戦争で家を失った被災者の対応に関しては大枠だけを決め、実働に関してはルザルク指示の元、貴族や王国軍に所属している兵士たちが行っていくだろう。

 となると話の流れとして、次の話題は捕虜の事になりそうだな。



次話は6/8に投稿予定です!

早く投稿できそうであれば6/7に投稿させていただきます♪


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[一言] バルバル禿げそう・・・おいたわしや・・・
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