第84話 四霊獣
〜ゼン視点〜
今、私は幸せの絶頂にいる。
人生でこんなにも感謝を捧げたことなどなかった。
私が“この世の真理”に辿り着いた直後、新しいスキルが発現したのだ。
【スキル】四霊獣召喚:自分と同レベルの霊獣を召喚(1体に付きMP消費:150)
このスキルを初めて見た時は、これがどんなスキルなのか全く分からなかった。
だがこの【四霊獣召喚】は、今後の人生において大きな意味を持っているという予感は、ビンビンと感じる。
そこで周囲に危険が及ぶ可能性も考慮し、アルラインのダンジョンにて一度使用してみることにしたのだ。
周囲に人がいないことを確認し【四霊獣召喚】を行うと、なんと、『白虎』というモフモ……霊獣が召喚された。
しかもこの霊獣の考えている事は、私の脳に直接イメージとして伝わってくる。
戸惑いながらもそのままダンジョンの攻略を進めていき、ボスであるナーガとの戦闘は白虎をメインとして行ってみた。
結論を言うと、戦闘力は想像以上だった。
このモフ……霊獣1体で私と同等の戦闘力があるのだ。
MPの消費は多いものの、共闘できる仲間ができただけでなく、それ以上に“心を許せる存在が居る”という安心感と充実感は、今までの苦悩・苦労を全て上書きするほどの幸福感があった。
しかし、今の私では熟練度が足らないようであり、白虎しか召喚する事ができない。
だが、スキル名や効果・説明から考えると、修練次第で最大で4体の霊獣を召喚できるようになるのではないだろうか……
そして、アルラインダンジョンを攻略し終えた頃には、間違いなくこの霊獣の力を最大限発揮させる事こそが、今後の私の目標であり課題であると確信した。
さて、話は変わるが、昨晩ルザルク第二王子から『黄金の葡萄亭206号室』という宿屋に呼び出されていた。なんでも俺の力を借りたいという。
宿屋での話の内容は、驚くべきものであった。なんでもイブルディア帝国との戦争が起きる可能性が高いという事らしい……
(戦争なんか起きたら、モフモフたちの住処がなくなってしまう!)
「……そんなことさせてたまるか」
「禅君は序列戦の後から、なんだかフッ切れた顔をしているね。闘志が漲っているのを感じるよ。
それで……僕の力になってくれるかい?」
「もちろんです! 具体的には、私は何をすれば?」
「アルラインから東に進んだところに、『沈黙の遺跡』と呼ばれる場所がある。そこに行って安全を確保しつつ待機してほしい」
「沈黙の遺跡……確か、大昔に繫栄していた都市の遺跡があるってところですか? 周囲にはゴーレムたちがいるっていう危険地帯、人が入るようなところではないと聞いたことがありますが……」
「あぁ、だから実力的に頼めるのは禅君だけなんだ。そして遺跡の中に入る必要はない。
実は、地理的にソコから北へ進むと山脈がある。そして、山脈を越えた先はイブルディア帝国のボットロックという工業都市があるんだ。そこに飛空戦艇が10隻も配置されているらしい。
帝国が侵攻を開始するとなった場合、間違いなくそこから飛空戦艇が発進するだろう。
だから、飛び立った飛空戦艇の数と方角を逸早く僕に報告してほしいんだ。
僕への連絡方法は、この小型通信用魔導具を使ってくれ。
危険な任務となるが……頼めるか?」
「フッ……今の私は、誰にも負ける気がしません。任せてください。」
その後、ルザルク殿下から小型通信用魔導具を受け取り、夜が明けてからすぐに沈黙の遺跡へと向かう事となった。
◇ ◇ ◇ ◇
一週間後、私は『沈黙の遺跡』へと辿り着いていた。
ここに来るまでの間は、ゴブリンやオーガなどの魔物が居たが、“私達”の敵ではなかった。
白虎を召喚することで索敵や迎撃などを行ってくれる。
また、その戦闘力もさることながら、眠る必要が無いようであり、夜間も見張りをしてくれているため安心して眠る事ができる事と、眠るときに私を守るように包み込んでくれることが特に素晴らしい。
もうモフモフしながら眠れるのであるのであれば、『ずっと森に棲んでいたい』と本気で思うくらいには幸せだ!
宿屋ではさすがに霊獣を出すことを憚られるため、アルラインに戻ったら本気で一軒家の購入を検討しようと思っている。
“ノーモフモフ、ノーライフ”というやつだ。
そして、ふと思い出す。【星覇】の阿吽というヤツも、こんな幸せを守るために強くなったのではないか。
だとしたら……
「阿吽は同志ということになるな! ケモノ好きに悪い奴は居ない!」
改めて阿吽と話してみたいと思うようになった。
祖国の事も勿論なのだが、『モフモフ談議に花を咲かせたい!』こう思うのは、ごく自然な思考なのだ。
次に阿吽を見かけたら必ず声をかけよう。そう心に誓うのだった。
沈黙の遺跡では、多種多様な属性のゴーレムが巡回していた。
そのうちの一体と戦闘をしたのだが、あまりにも耐久が高い。攻撃自体は単純だが囲まれたら厄介だ。
ランクで言えば、Aランク程度はありそうなゴーレムたちに守られているこの遺跡の中には、何か特別なものがあるのではないか……そう思いはするものの、今は殿下から申し受けたクエストが最優先事項だ。
それに戦争なんか起こされ、この国の自然が破壊されるようなことになれば、森で暮らしている獣達が住処を失うだけでなく、直接的に危険が及ぶ可能性もある。
(そんな事、断固として許すわけにはいかない!)
再度気持ちを引き締める。そして、日中は一時も気を抜くことなく、白虎をモフりつつ少し遺跡から離れた森の中から山脈の方角を偵察し続けた。
それから2日後、竜人族の里の方角へ5隻、アルラインの方角へ3隻の巨大な飛空戦艇が飛んで行くのを発見した私は、即座にルザルク殿下に報告を入れ、白虎に乗ってアルラインへ向かい風のように森の中を走り抜けるのだった。
「急ぐぞ、ミーちゃん!!」
次話は明後日(5/21)に投稿予定です!
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