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第69話 雷帝


 腹部を深く斬り裂かれたブライドは魔剣を手放し、ふらつく。

 そして、ブライドの身体から黒色の羽が消え、肥大していた筋肉も徐々に戻っていった。


 人間の身体に戻ったブライドは、肩で大きく息をしており、動くことができない。

 しかし、それでも倒れないのは執念なのだろう。


「うぐっ……くそっ……もう最後の手段しか」


「もう動けないだろ。大人しく捕まって、今までの悪行に対する報いを受けろ」


「まだだ! ハァ、ハァ……俺は負けてない!

 おい、グランパルズ!! 居るんだろ!? 計画はどうした!!」


「グランパルズ? 誰だ……」


「フ、フハハハハ! 魔族だよ!

 もうお前らは終わりだ!

 この街も、この国もだ!」


「!? お前と契約していた魔族のことか?」


「そうだ! おい、グランパルズ!! まだか! 聞こえているのだろ!!」


 ブライドは空に向かって叫ぶ。

 しかし、周囲には魔族らしき姿は見えない。


 どこまでも澄み渡る青い空が広がっているだけだ。


「……? どこから来るんだ?」


「な、何をしているグランパルズ!!

 おい! 答えろ!!

 ……おい、 おいぃぃぃ!!!!」


「どうやら来ないようだな。見捨てられたんじゃないか?」


「お、俺が見捨てられた?

 俺が……使い捨ての駒だとでもいうのか!」


「そうだろ? そうじゃなきゃ、なんで来ないんだ?」


「おい! なぜ出てこないんだ!

 ……ここまでやってきた俺の人生はなんだったんだ!

 くそぉぉぉ……」


 ブライドが両膝を地面に突く。その顔には今にも泣きそうな表情が張り付いており、もう戦う気力はなくなっているようだ。


「あははは、俺が……駒……使い捨ての……くはははは……ハハ……」


 ブライドは大粒の涙を流し、空を見上げながら壊れた人形のよう肩を震わせ笑い続けている。


 そして、追い打ちをかけるようにマイケルのアナウンスが流れた。


『し、勝負あり!!

 勝者は…………【雷帝】阿吽っ!!! 

 これにより、クラン対抗武闘大会の優勝、そしてアルト王国クラン序列1位は、【星覇】に決定だぁぁぁ!!!』


 マイケルのアナウンスを皮切りに、歓声が濁流のように押し寄せ、闘技場全体を揺らし続けた。


 それにしても【雷帝】か。

 随分と大袈裟な異名を付けてくれたもんだ。


 主賓席を見上げるとルザルク第二王子と目が合った。


(俺達は約束通り優勝したぞ、ここからはキッチリ仕事しろよ?)


 俺が考えていたことが伝わったのか、ルザルクは微笑みながらマイクを手に立ち上がる。

 そして映像にもその姿が映し出された。


『諸君! 私はアルト王国第二王子、ルザルク・アルトだ! 

 【星覇】よ! この度の武闘大会、誠に素晴らしい戦いぶりであった!! 優勝褒賞の授与、記念式典は後日とり行うこととする!

 それと……ブライド・イシュロワ、及び【デイトナ】クランメンバーは国家反逆罪の疑いがある!

 “ルザルク・アルト”の名において命ずる! デイトナのクランメンバー全員を捕えろ!!』


 この一言で王国騎士団の精鋭部隊が試合会場へと突入してくる。

 中にはレジェンダの姿もあった。しっかりと準備はしていたようだな。


 こうしてクラン対抗武闘大会は【星覇】の優勝で幕を閉じた。

 記念式典は10日後に行われることとなり、その後キヌとシンクの二人と合流した俺は、正式にルザルク第二王子と謁見えっけん、ブライドのことやミラルダでの誘拐事件のことなどを詳しく説明した。


 これにより、【デイトナ】はクラン解体。

 メンバー及び誘拐事件に関わったとされる貴族や奴隷商、冒険者も含め全員が、正式な判決が下されるまで投獄されることとなった。


 ブライドに関しては、魔力を封じる牢に入れられ、取り調べをされたのだが、譫言うわごとのように「捨て駒……無駄な人生……フハハ……」と笑いながら呟いていただけのようだ。

 そのためブライドの判決もこの場では一旦保留ということになった。


 まぁ、二度と牢から出られることはないだろうし、極刑も十分あり得るのだが、“魔族と繋がっていた”という事実は、長い歴史でも初めてのことであったようであり、魔族の存在やその危険性から情報を引き出すための拷問や自白剤などの使用なども検討されるのではないだろうか。


 ドレイク達とは念話で情報共有は行なったのだが、一度全員がフォレノワールに帰還し、改めて詳しく話をすることとなった。



◇  ◇  ◇  ◇



 フォレノワールに帰還した俺達は、まずキヌ達の報告から受けた。


 “ゾア”という魔族との戦闘になったようだが、その強さは凄まじく、シンクと2人がかりでも余裕で対応されたということ。

 俺の名前を出した途端に状況が変わったこと。

 家名『百目鬼どうめき』が魔族と何かしらの関係がありそうであること。

 そして俺に“強くなれ”と言っていたこと。


 その中でも一番気になるのはブライドが口にしていた“グランパルズ”とは別の名前であったということだ。


 そもそも名前とは、人間・亜人・獣人だけでなく、魔物までもが特別な意味を持つ。これは、その個体の存在を示すものであるからだ。

 俺やキヌゼンのように漢字が当てられる者は、どちらか片方を冒険者などの登録時に使うということはある。

 しかし、偽名を使うというのは、自分の存在そのものを否定しているのと同義だ。

 魔族であったとしても同様の価値観であるとするならば、アルライン付近に2人の魔族が居た可能性も出てくる。


 ただ、ここから先は想像の域を超えないため、真相が分かるまでは一旦保留ということになった。

 ただし、俺たち以上の強者がこの世界にはまだまだいるという事実は変わらない。今後はより一層自分たちの強化にも力を入れていく必要がある。


 また、『百目鬼』の家名についても俺はよく知らない。

 武京国へ行けば何かしら分かるかもしれないが、島国であることやアルト王国から距離が離れていること、武京国が半鎖国状態であることから、今のところ行く手段がないためこれも保留という結論に至った。


 次にドレイク達が捕獲したナイトメアだ。

 こいつはフォレノワールの一階層に隔離されていたが、シンクが【他種族言語】を使い会話を行なった。

 暴走していたのはナイトメアへ変異したばかりであり混乱していたことや、角が折られてユニコーンという種族の存在証明ができなくなったことによる憤りや不安で自分が抑えられなくなっていたことが原因のようだ。

 角を折った犯人は、その特徴から【赤銀の月】の3人である可能性が高い。

 アイツらは、俺を殺す前にユニコーンの角を折り、逃亡を許していたようだ。

 本当に周囲に迷惑しかかけない奴らだったな……


 ナイトメアも俺と従属契約を結び、隔離から解放されている。

 意外だったのは、このナイトメアがドレイクに懐いていたことだ。

 俺達が帰還するまでの間、目が覚めたナイトメアを傷つけることなくなだめ続けたことにより、心を許してくれたらしい。


 俺が初めて会った時も暴れることなく大人しくしていたため、本当にコイツが大暴れしていたのかと不思議に思ったほどだった。

 現在はこのフォレノワールを守るという仕事を与えているが、基本的に敵が入ってくることはないため、獣人たちと3階層の平原エリアを駆け回って遊んでいる。

 ちなみに名前はドレイクが『メア』と付けた。


 その後は、久しぶりにダンジョンに帰ってきたこともあり、獣人村のことやダンジョンの整備などを行いながら忙しくも充実した数日を過ごしていた。



 そして……すっかり忘れていたことを思い出した。


「あ……記念式典、今日の午後じゃん……」


朝からテンション上がってたので一話分投稿してみました!笑

今日は夜にもう一話投稿します♪


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― 新着の感想 ―
[一言] 使い捨てとはどんまいどんまい! 遅刻はいかんぞ遅刻は~!w
[一言] >そして……すっかり忘れていた事を思い出した。 経営コンサルタントはぬいぐるみ(?)に任せるとして…そこら辺にいる野良マネージャーを今すぐスカウトだ!
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