第66話 魔族
〜キヌ視点〜
決勝戦を阿吽に託し、私とシンクは巨大な魔力反応があった方へと向かって走った。
でも闘技場から出ても街中で膨大な魔力を放っているような人物の姿は見えない。ただ【危険察知】はしっかり反応してる。
(これ……街の外?)
街から出ると、よりその魔力の強さがわかってきた。強い力に引き付けられるように、アルラインの北東へ向かっていくと一本の大きな木があった。
その上空に人型の黒い影が見える。
人間のようだが、明らかに人間とは違うナニか。
街の方角を凝視し、悪いことをしそうな雰囲気。
目視すると相手の強さもおのずと理解できる。
確実に、私よりも強い……
でも……今はシンクも居る。二人なら戦える。
私は阿吽に言ったんだ。
『信じて。私たちは強い』って。
「キ、キヌ様……最悪の場合、わたくしを置いて転移してくださいませ……」
「シンク……そういうこと言うと、また阿吽に怒られる。それに二人なら戦える」
“倒せる”……そう言えなかった自分が悔しかった。
まだまだ私は弱い。
……でも絶対なんとかしてみせる。
黒色の影はこちらを見るとゆっくりと近付いてくる。
「シンク、いつでも戦えるようにしておいて」
「分かっております。一瞬でも気は抜きません」
浅黒い肌に白髪、そして真っ赤な瞳。
額から生えた羊のような2本の太い角と、コウモリのような真っ黒の羽。
……今まで一度も見たことが無い種族。
「ほぉ? 人族にも強そうなヤツらもいるじゃないか。ゴミばかりかと思っていたが……」
「あなたは……何者?」
「フハハハ! そうだな……特別に教えてやろう。
私の名前はゾア……魔族だ。
そこそこ強い方だから、もし戦う気なら本気で来たほうがいい」
これが魔族……確かに阿吽がヤバいというだけのことはある。
だからこそ、阿吽には近づけさせない!
「戦う前に教えてくださいませ。何が目的でございますか?」
「……今日は気分が良いんだ。
それに、お前らみたいな美人の前だと、なんでも話してしまいそうになる」
「……答えて」
「フゥ……そうだな。端的に言うと『抹殺』。これ以上は秘密だ」
「なら、無理やり吐かせるしかありませんね……」
シンクはノーモーションで【アイアンバレット】を放つが、透明な壁に阻まれダメージを与えられない。
「いきなりとは酷いじゃないか。
……まぁ良い。少し遊んでやろう」
ゾアが手を開くと黒い玉が浮かび上がる。
闇属性の魔法……見ただけでもかなり危険ということはすぐに分かった。
シンクは『怒簾虎威』を盾の形状にして防御するが、黒い玉は盾にぶつかると爆発を起こし、ダメージを負っている。
すかさず私も【フレイムランス】を放ち牽制したが、また透明な壁に防がれてしまう。
でも、今はシンクの回復が優先。そのための時間は作れた。
吹っ飛んできたシンクに【ヒーリング】を当てる。
「お嬢ちゃんの回復は厄介だな」
今度は私に向けて魔法を放とうとしていたが、シンクが立ちはだかる。
一度目とは違い、【勇猛果敢】を発動したことによりしっかりと受けきることができていた。
その爆風に紛れて突っ込み、怒簾虎威を斧に変形させるとゾアに向かって思いっきり叩きつけた。
——パリィィィン……
ガラスが割れたような音が響き、ゾアの目が一瞬見開く。
(今しかない……)
「【光焔万丈】、【狐火】、【フレイムブレイド】」
バフスキルを発動させ、防御策を施しつつ7本の炎の剣を発現させる。そして、私の最高火力をゾアに叩き込んだ。
しかし、ゾアの身体からは血が流れてはいるものの、思ったようなダメージは与えることができていない。
「私に傷をつけるか。見どころがある。
……だが分からんな。
お前等は何のために私と戦っている。私には勝てないと分からないわけがないのだろ?」
何のため?
そんなの決まっている。
「仲間が……“阿吽”が信じてくれているから」
「阿吽だと? ……お前等、“百目鬼”という家名に聞き覚えはないか?」
百目鬼は阿吽の家名……なんで魔族が知ってるの?
なんか嫌な予感がする。
でも……阿吽は、必ず私達が守る!
「……知らない!」
「クックック……お嬢ちゃんのその顔は“知っている”と言っているようなものだよ。
そうか、これは“あの御方”に良い土産話ができた……」
そう言うとゾアは空へと舞い上がり、飛んでいく。
「待ちなさい! まだ終わってなどおりません! わたくしと戦いなさい!」
「いや、やめだ。既に目的は達成しているしな。
今日は大人しく帰ることにする。
ただし、“阿吽 百目鬼”に伝えろ。『いずれ来る。それまでに俺を超えるくらいにはなっていろ』とね……」
ゾアはそう言って空高く飛んでいくと、何かの魔法を発動させ、忽然と姿を消した。
次話から、ついに阿吽の出番です!!
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