表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/284

第37話 ドレイクのプライド


〜ドレイク視点〜


 2か月前、竜人族の里で次期里長を決める闘いが行われ、その決勝戦で俺は兄のファーヴニルと闘った。


「がはっ! クソっ……なんで力が出ねぇんだよ……」


「どうしたドレイク、お前の力はそんなもんじゃないはずだろ」


「てめぇ……何か仕込みやがったな……」


「私はそんな事はしていない。それはお前が未熟だからなのではないか?」


「くっ……」


「……そこまで。ファーヴニルの勝利だ」


 こんな勝負の付き方ってねぇだろ……普段だったらもっとやれるのに……

 俺はまだまだこんなもんじゃねぇ!


「親父……何か力が出ないんだ! 明日! もう一回試合させてくれ!」


 試合は序盤、互角の勝負を行えていた。しかし10分ほど経った時から俺の身体に違和感が生まれ始め、後半は防戦一方となってしまった。

 今までこんな事になったことはない。

 兄の攻撃で致命的なものを食らったわけでもない。


「里長を決める重要な試合に、やり直しなど行わぬ!! 力が出ないのはお前が未熟者だからだ! 精進が足らぬのだ!!」


「くそっ……」


 俺も試合のやり直しができるなんて本当は思っちゃいない。

 竜人族は、たとえどんな状況でも勝たなければならない。力がなければこの里を治める事はできない。そんなことは知っている。

 次期里長なんか正直なりたいとは思わない。ただ、自分の全力を出せずに終わるのは、許せなかった。

 それに俺は、尊敬する親父に……俺の強さを認めてもらいたかった。


「ファヴ兄! もう一回だ!! まだ俺は戦える!!」


「勝負はついたと言っておる! ……取り押さえろ」


「ガァァァァ!! 離せ! 俺はまだやれる!! 俺はこんなもんじゃねぇ!!」


 それから俺は大暴れをした。

 やはり全力は出せなかったが、少しでも里のみんなに、兄に、親父に俺の実力はもっと出せるという事を知ってほしかった。


 夢中で暴れていたからか、その先の事は曖昧だが、気付いた時には取り押さえられて檻に入れられた。

 “神聖な試合にケチを付けて暴れまわった”。それがどれだけ竜人族の中で重罪か、知らないはずもない。


 2日後、俺に対する処分が決まった。


「ドレイク、お前をこの里から……追放する」


「つ、追放……」


 殺されると思っていた。親父からの情けなのだろうか……

 真意は分からないが、その時の俺はプライドが勝ってしまった。


 別れの挨拶くらい、もっとあったはずなのに……


「ッチ、こんな所、俺の方から出ていってやるよ!」


 その後、自分に対しての不甲斐なさや悔しさ、後悔の念が抑えられず、赤の渓谷でもドラゴンの姿で暴れ回った。

 今思えば短慮な思考だった。

 でも、その時は何かに気持ちをぶつけなければ、自分が壊れてしまいそうだった。


 数日暴れると、流石に疲れてドラゴンの姿のまま眠ってしまった。


 ……何者かが背中に乗った感覚がした。


「……ほう、ドラゴンか。コイツを試すにはちょうど良さそうだ」


——ザクッ


「ギュォアァァァァ!!!!」


 なんだこれは! 背中が熱い! 誰だコイツ……赤い髪の男……


『血ガ足リナイ……血ヲ!! 吸ワセロォォォ!!!』


 突然、頭の中に俺のモノではない思考が混ざりこんできた。


 なんだ? 何が起こった!? クソ、負けてたまるかよ!


 それからどれくらい耐えただろうか。

 必死にあらがい続けたが、徐々に身体の自由を奪われだした。

 周囲に赤髪の姿は無い。アイツはいったい誰なんだ……いや、そんな事よりもこの身体をなんとかしないと!


 無我夢中で抵抗を続けたが、身体は森の木々をなぎ倒し、何人かの冒険者を、風魔法で吹き飛ばしていた。

 その後、どれだけの時間抵抗できていたかは分からない。しかし、ついに体の自由を奪われ、身体はドラゴンのまま空に舞い上がる。

 そして、視界には大きな街が見えだした。


『ギャーッハッハハ!! ニンゲンだァ!! 血ダぁぁァァ!!!』


 まずい。このままでは俺があの街を壊滅させちまう。

 嫌だ、そんな事したくない! 怖い、苦しい……だが、もう抵抗できない。


 ……意識も……

 誰でもいい。止めて、くれ……



 次に意識が回復してきた時、俺は地面に墜落していた。

 何があった。誰かが止めてくれたのか……?


 ダメだ。ぼんやりとしか分からない。

 ただ、誰かが俺を攻撃しているのは分かる。

 バチバチと放電音を鳴らしながら俺を殴りつけ、殴られるたびに身体が痺れ、体力が目減りしていく。

 こんな強い奴が、里の外に居たなんて知らなかった。


 他の二人も魔法や防御力が凄まじい。しかも連携がしっかりできていて攻撃を的確に捌かれる。

 コイツら、めちゃくちゃ強い……それに、信頼し合っている。


 ……羨ましいな。


 だめだ、もう意識が……



◇  ◇  ◇  ◇



「ぐ……グフッ、ここは……」


「よう、起きたか? お前はあの黒いドラゴンで間違いないのか?」


「っ、貴様きさま! 何者だ! 俺様を誰だと思ってンゲフゥ!!」


「阿吽様に向かって……貴様とは……クソガキが。今からでも叩き潰してやろうか」


 え? 誰? マジで誰!? なんで蹴られた!?


……そうか、俺は暴走して……

コイツらが止めてくれたのか。



◇  ◇  ◇  ◇



 その後、俺は兄貴と従属契約をし、フォレノワールというダンジョンでシンクねぇさんに色々話を聞いた。

 なぜダンジョンに転移できるのか、ここがどういう場所なのか、アルスとイルスの事や俺達従属者ができる事。


 それだけでなく、兄貴達がどんな大変な道のりを歩き、今の環境を手に入れたのか。兄貴の強さ、キヌねぇさんの優しさ。


 それに、話をしてくれているシンクねぇさんの優しさも分かってきた。実は怖い人じゃない。

 俺の事を考え、言葉を選んで分かりやすく話をしてくれている。

 それだけでなく、できるだけ俺を一人にしないように、傍に居てくれた。


 俺は……なんて運が良いんだろう。

 こんなにも優しくて、俺の事を大切にしてくれる人たちに囲まれて……


 これから俺は、この人たちのために生きていこう。

 俺の守れる範囲を広げていこう。

 仲間のために強くなろう。

 この気持ちを……忘れないようにしよう。


 竜人族の里に居た時の俺のプライドは、ちっぽけなものだったと今なら言える。

 ただ自分の強さを他人に見せつけたい、知らしめたいだけだった。


 でも、この人達に出会って分かった。

 強さとは、誇りプライドとは、仲間を大切にするためにあるのだと。


 今の俺の誇りは……この仲間たちだ!


次話(明日投稿)から『第4章 アルト王国クラン対抗武闘大会編』

に入ります!!


少しでも、「面白そう!」「続きがきになる!」

と思っていただけましたら、

ブックマークや、広告の下にある★を入れていただけますと嬉しいです!

★でも、★★★★★でも、思った評価で結構です!

モチベーションとテンションが爆上がって最高の応援となります!


何卒応援のほど宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 次の更新楽しみにしてます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ