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「魔物になったので、ダンジョンコア食ってみた!」 ~騙されて、殺されたらゾンビになりましたが、進化しまくって無双しようと思います~【書籍化&コミカライズ】  作者: 幸運ピエロ
第11章 修羅咲ク都 武京編

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第305話 支配の断罪

 

 時を追うごとに激しさを増す風圧は、もはや空気と呼べる範疇を越えていた。

 大抵の者なら呼吸すらままならず、地面に張り付かされるだろう。


 天刑の技巧(アーツ)――それは風と重力を束ねた範囲環境支配。

 使える地形は限局されるのだろうが、その完成度は非常に高い。むしろ、この切り立った岩壁に囲まれた天狗谷であるからこそ、ここまで凶悪なものになっているとも言える。


 一歩踏み出すごとに骨が軋む。

 呼吸一つで肺が潰れそうになる。

 そんな中、天刑の持つ鋼扇が、ゆるりと開かれる。


「この谷は、私の定めた掟の中にある」


 発せられる言葉の音圧と共に、空気の重さがさらに増す。


「それに抗うというのならば――潰れろ」


 周囲の地面には槌に叩かれたような凹みが走り、不可視の重力がこちらに迫る。

 だが俺は、敢えて笑みを作った。

 気持ちで負ける事は、絶対にしない。


「何度でも言ってやる。そんな掟……、俺がブチ壊してやんよ!」


 全魔力を右手に集中させ高く掲げる。

 これが俺の、新しい技巧(アーツ)――


「――【第一獄:黒縄(こくじょう)地獄】」


 その瞬間、世界が――静止した。


 音が消え、

 風が止み、

 重力の唸りが凍りつく。

 そして大地に刻まれる――黒い紋様。


 梵字のような縄目が谷全体へと広がっていく。

 空間が焼け焦げる匂いを放ち、見えなかった干渉線が、浮かび上がる。


 幾千。

 幾万。

 谷を覆う支配の網がくっきり可視化されると……俺の背後に、巨大な門が現れた。


 重々しくゆっくりと開いていくその隙間からは、黒い縄がまるで意思を持つ蛇のように這い出てくる。

 熱でも冷気でもない。

 それは正に、“断罪”の気配。


 その縄を掴むと、俺の皮膚の表面に焼印のような紋様が走った。

 空間が悲鳴を上げ、天刑の支配領域を構成していた干渉線が、一本、また一本と黒く染まっていく。


「馬鹿な……、私の空間支配を上書きする程の、技巧(アーツ)だと?」


 初めて、天刑の声が揺らいだ。


「掟を作るのは構わねぇ。……でもな、自由を縛り選択を奪う事は、誰にも許される事じゃねぇんだよ!」


 黒縄を引く。

 すると、谷全体を覆う風に亀裂が走った。


 空間がガラスのように砕け、見えないはずの重力が破片となって舞う。

 バチバチと放電を散らしながら支配の線が弾けていき、透明な壁が内側から押し破られ、崩壊し始める。


 地面が沈み、雲が裂け、衝撃波が谷を薙ぐ。

 それらの現象と共に、天刑の持つ鋼扇に一本の黒縄が絡み付いた。


「なっ……!」


 黒縄を嫌うように天刑が扇を振り払う。

 だが遅い。


 天刑が振り払おうとするほど絡み付いた縄が締まり、金属が悲鳴を上げる。


「砕けろ」


 ――次の瞬間、

 慟哭(どうこく)にも似た音と共に、鋼扇の持ち手が砕け散った。

 それは、天狗谷から支配が消えた瞬間だった。


 役目を終えた門が軋む音を響かせながら、ゆっくり閉じる。

 門から溢れ出す黒い光が消え、この地に残ったのは焼き付いた黒縄の紋様。


「私の技巧が、掟が……否定された、だと?」


 谷は、風すらも眠ったように沈黙する。

 そんな中、天刑はゆっくりと膝をつきながら口を開いた。


「……谷を守るには、掟が要る。だが一族を守るために、自由を縛ってはならぬのか……」


 天刑の目が揺れる。

 今まで己の力こそが掟であり、裁きであると信じて疑わなかったのだろう。

 しかし、それを全て打ち砕かれたことで、天刑は価値観の根っこが揺らいでいる。

 なら、ここから先に必要なのは暴力じゃない。


「俺は天狗族を滅ぼしに来たわけじゃねぇし、縛りに来たわけでもねぇ」


 握っていた拳をゆっくりと脱力し、小さく息を整える。


「ただ腑に落ちない事に対して、“気に食わねぇ”って言っただけだ」


 天狗族の悶着に思いっきり首を突っ込んで大暴れしたが、元々俺たちは武鋼を採りに来ただけ。

 掟云々(うんぬん)に関しては完全に部外者。当然だが、決めるのは当人たちであるべきだ。


「……自由には責任が伴う。それを若い衆に背負わせるのは……」


「アホ抜かしてんじゃねぇよ。その責任を、丸っと全部背負ってやんのが“ボスの役目”だろが」


 その言葉を聞いた天刑はゆっくりと目を閉じる。

 そして長い沈黙のあと、再び口を開いた。


「確かに……、その通りであるな。私は己で自身の思考をも縛り付けていたというわけか」


「やっと気づいたか。これからは自分の立場から逃げんじゃねぇぞ」


 つまりは、長という立場を裁くための役割としか認識していなかった。

 掟を作り、守らせ、違反者には罰を与える。その反復だったのだろう。ってか、そんなクソつまんねぇ事をよく何年も続けてきたもんだ。


 まぁ、それが理解できた今なら、天刑もこの谷も今より良い方向に変わっていくだろう。



次話は4/3(金)投稿予定です♪

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