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「魔物になったので、ダンジョンコア食ってみた!」 ~騙されて、殺されたらゾンビになりましたが、進化しまくって無双しようと思います~【書籍化&コミカライズ】  作者: 幸運ピエロ
第11章 修羅咲ク都 武京編

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第304話 掟の重み

 

~阿吽視点~


 天狗谷の最奥。岩棚から円形にくり貫かれた谷底へと飛び降りた瞬間、空気の密度が変化した。


 空気が重い。

 まるで頭を上から風に押さえつけられているようだ。


 奥で仁王立ちする天狗族の長、天刑。

 ヤツは一歩も動いていない。

 それなのに、この谷全体があいつの呼吸に合わせて脈打っている。


(……なるほどな、コイツは強ぇ)


 単純な魔力量だけじゃない。長年この谷を背負ってきた奴の“圧”が、天刑の身体から溢れ出ている。


「武器は持たぬのか?」


 威圧ではない静かな問い。


「まぁな。今は散歩の途中なんだよ」


 皮肉交じりに短く返す。

 ただ、白鵺丸があれば……そう思わせる程の強敵なのは確かだ。

 しかし、今はそれを嘆いても仕方ない。


(國光にも大見栄(おおみえ)切っちまったしな。「武鋼は持ち帰れなかった」なんてカッコ悪くて死んでも言えねぇわ)


「そうか。なれば、この地に足を踏み入れた事……後悔しながら、死ね」


 次の瞬間、周辺の地面が沈み込んだ。

 足が地面に食い込み、肺が圧縮され、全身の血流が(とどこお)る。


(……こいつ、俺と同じ重力を操るのか)


 しかも雑じゃない。

 周囲にかける圧を強く、中心にかける圧を弱くする事で、逃げ場を無くしている。


「この谷は、軽い覚悟で立ち入れる場所ではない」


 その言葉と同時に、重力がさらに増す。

 地面に亀裂が走り、骨が軋む。


 ……最初から本気だな。

 ならこっちも、遠慮しねぇ。


「【雷鼓】、【疾風迅雷】。……【雷動】っ!!」


 初手から二重の強化(バフ)スキルを重ね掛け、切り札の一つである雷動を使う。

 脱力できない状況からの発動だが、無理やり筋繊維を稼働させる。

 重力で全身に負荷をかけられているが、閻魔羅王へと進化した事でステータスは大きく向上している今なら耐えられる。


(ちょっと位の無理は、許容範囲だ)


 爆発的な推進力を得た身体が、地面を踏み抜く。


 だが――横から視認できない程の速度で風刃が飛び、掠った左頬が浅く裂けた。

 さらに上空から、不可視の気圧の塊が降ってくる。


 谷底の地面がボコボコと押し潰されるほどの圧力。

 反応が一瞬遅れていたら、内臓が潰れていてもおかしくは無かった。


「めんどくせぇ攻撃してきやがんなっ!」


 風の流れを読みながら四方八方から襲い掛かる風刃と、頭上から降ってくる風弾を【空舞】を駆使して避け続ける。

 着地を一度挟んでからの四歩目、上から押しつぶすような過重力がさらに一段階上がった。


 体が沈み、周囲の空気が鉛のように重く感じる。


「どれだけ足掻こうが、私の“技巧(アーツ)の中”では無駄な努力だ」


 これは、ウィスロの頂上対決でシエルやガルシアが使っていた『範囲環境支配型の技巧(アーツ)』ってわけか。

 天刑は鋼扇をわずかに開く動作だけで、周囲の空間を従えている。

 しかもこれは単なる重力魔法じゃない。風と重力を融合させた二属性混合魔法の、更に応用。


 ヤツは、ここの地形を完璧に把握し、天狗谷での防衛戦に特化した戦い方をしている。

 完全に支配された領域と言っても過言ではない。


(上にも横にも、逃げ場がねぇ)


 そう感じた数瞬後、衝撃が幾重にも重なり周囲の岩が砕け、肺の中の空気が無理やり外へ吐き出された。


 ――強い。

 素直にそう思う。

 俺が今まで出会ってきた中でも上位だ。

 強者が蔓延るこの武京国で、一地域を危険地帯認定させるだけの事はある。


「谷を守るのは、感情ではない。――規律だ」


 天刑はさも当然かのように言葉を紡ぐ。

 しかし、そこで声のトーンが少しだけ下がった。


「……だがな。若き日の私は、お前のようだった」


 その間にも風の勢いは激しさを増し、俺の身体からは軋んだ音が聞こえてくる。


「掟を緩め、谷を開いた」


 さらに重力が増す。

 まるで後悔という感情を、押し付けるように。


「結果、侵略されたのだ。……若き者が大勢死んだ」


 声に、重みと激情が混ざっていく。

 これは、守れなかった奴の静かなる叫びだ。


「一度崩れた秩序は、すぐには戻らぬ。何より……亡くした者は、永久に戻らぬのだ」


 だから閉ざした。

 だから疑問を折った。

 だから、真鴉の翼を奪った。

 そういうことか。


 気持ちは理解できる。

 俺だって、人間だった頃は大切なものを守れず、多くを失った。


 ――でもな、それは到底納得(・・)できるモンじゃねぇ。


「……だからって、一族の自由を全て縛ったのか?」


 俺はゆっくり立ち上がる。

 風刃が装備を貫通し、身体に傷を付けていくが、そんな事は関係ねぇ。

 天刑に触発されたわけじゃない。だが、この感情の高ぶりはどうにも抑えられそうにない。


 ――俺はいつも仲間に「好きに戦え」と言っている。

 今ドレイクやシンク、ネルフィーが……各々の壁を越えようと努力しているのも、「自由に決めろ」と言った俺の一言が切っ掛けだ。

 あいつらが不器用ながらも、前を向こうと足掻く姿を見てきた。


 俺は……俺の好きな奴らが、不安なく未来に向けて一歩を踏み出せる、そんな場所を作りたい。

 何者にも奪われない。何者にも邪魔されない。そんな力を……“我儘(わがまま)を押し通す力”を得るために武京に来た。


 そんな俺がここで折れるのは、【星覇】を否定するのと同義だ。

 自分の吐いた言葉のケツも拭けねぇで、何がクランマスターだ!!


「【祭囃子(まつりばやし)】」


 身体全体を流れる血液が沸騰したように熱くなり、心臓が大太鼓を叩くように強く拍動する。


「縛るために作った掟はな……」


 地面が砕ける中、力強く一歩踏み出す。


「――“檻”って言うんだよっ!!」


「……何とでも言うが良い。私は、己の思想を曲げぬ。我を通したいのならば、私を越えることだ」


「なら、見せてやんよ。俺の“我儘(アーツ)”ってやつをな!」




次話は3/27(金)投稿予定です♪

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