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「魔物になったので、ダンジョンコア食ってみた!」 ~騙されて、殺されたらゾンビになりましたが、進化しまくって無双しようと思います~【書籍化&コミカライズ】  作者: 幸運ピエロ
第11章 修羅咲ク都 武京編

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第295話 修羅咲く祭

 

 畳に付いた鼻血の掃除を終えた女中さんが一礼して退出すると、禅は懐紙を畳み、姿勢を正して正座し直す。

 その背筋は、先ほどまでの醜態が嘘のように真っ直ぐで、視線も澄み切っていた。

 ……もっとも、ユラの方を見ないようにしているあたり、完全復活とは言い難いが。


 少しの混乱はあったものの、部屋には再び静けさが戻ってきた。

 咳払いを一つして空気を整えると、静かに禅が口を開く。


「……改めまして。遠路はるばる、よく来てくださいました」


 先ほどまで顔面をグチャグチャにして床を転がっていた人物と、同一人物とは到底思えない……。

 だが、深く一礼するその所作に、宗次がごくりと息を呑むのが分かった。

 モフモフが絡まなければ、水月禅という男はれっきとした【剣王】なのだ。


 禅はそれらを承知の上で、淡々と話を続ける。

 というか、もしかすると宗次を俺の従者か何かと勘違いしているのかもしれない。


「阿吽。実はあなたが武京へ来ることは――ある程度、予想していました」


 唐突な言葉に、思わず眉を上げる。


「港町に伝言を残したのも、そのためです」


「……何で俺が武京に来ると思ったんだ?」


 問いかけに、禅はわずかに苦笑を浮かべながら答えた。


「私が旅に出た後も、だいぶやんちゃ(・・・・)をしたようですね。特に、ウィスロでの【星覇】の武勇は、この国の上層部にも伝わっていました。

 そして、あれほどの戦果を挙げたクランが、唐突にウィスロから姿を消したとなれば……」


「なるほど。俺のことを知ってる禅に、情報を聞き出そうとしてきたわけか」


「ええ。色々と考えた結果、阿吽たちが武京へ来る可能性が高いと考え、それを前提に動きました。

 星覇の情報と今後の予測は、どうしても伝えざるを得ませんでしたが……あなた方が不利にならないよう、重要な部分は伏せています」


 将軍とは元々面識があったとはいえ、半鎖国状態の武京への入国が、あれほどスムーズだった理由が腑に落ちた。

 それにしても、ウィスロでの大規模解放戦の内情や、序列争いにまで一枚噛んでいたことを知られていたとは……。


(……この国の情報網、ちょっと舐めてたな)


 そこまで考えた時、不意に背中を冷たいものが走る。


 これほど迅速かつ正確な情報収集が可能ということは、【カルヴァドス】か【テキラナ】、あるいはその両方に、武京国の密偵が潜んでいた可能性が高い。

 それに、当然のことながらアルラインで起きたフェルナンド王子の反乱も知られているはずだ。

 ハイルやガルシア、それにルザルクをも欺くほどの密偵を、この国はいったいどれほど抱えているのだろうか。


 思考を巡らせていると、不意に禅の表情が和らいだ。

 口角を上げたその顔は、悪戯(イタズラ)を思いついた子供のようでもあり、相手が喜ぶと分かっていて仕掛ける悪友のようでもある。


「この一カ月、私が同志(・・)である阿吽のためにしていたことは、入国準備だけではありませんよ?」


「ん? ……というと?」


「あなたの祖父――百目鬼 大嶽様の所在……。ある程度、掴めました」


 その一言に、胸の奥が強く脈打つ。


「マジか!!」


「ええ。現在は、奈落迦(ならか)島に居られるようです」


「……奈落迦って、あのダンジョンの?」


「はい。武京国の中で、最も特異(・・)な場所と言える島です」


 禅は視線を伏せ、静かに続けた。


「奈落迦島は、武京では“神域”として扱われています。

 島そのものが信仰の対象であり、許された者以外は近づくことすらできません」


「随分と厳重だな」


「それだけの理由があります」


 奈落迦ダンジョン。

 ソロでのみ入ることができる、スフィン大陸最難関級の特殊ダンジョンって話だが……、そんな島に爺ちゃんが居るとなると、まるで何かを試されているみてぇだな。


「ってか、そんな島に何で爺ちゃんがいるんだ?」


「なんでも、“守人(もりびと)”という役割を担っているとか……。話によると、圧倒的な強者でなければあの島では生きていけないそうですから」


「……で? どうすりゃ、その島に渡れる?」


 俺の問いに、禅は一度だけ目を閉じる。


「正規の方法は、ただ一つ。

 『修羅咲祭』と呼ばれる武闘大会で、優勝することです」


 宗次が、思わず声を上げそうになるのを必死に堪えているのが分かった。

 聞きたいことは山ほどあるのだろうが、今は空気を読むことを優先しているらしい。


「年に一度、首都・天音京で開催される、国内最大規模の武闘大会。

 武京全土から、剣士、拳闘士、槍術士など、あらゆる武人が集います。

 そして――優勝者のみが、奈落迦島へと渡る権利を得られます」


「……なるほど。奈落迦ダンジョンに挑めるのは、年に一人ってわけか。

 でも、ただの武闘大会じゃない、って顔だな」


「はい」


 禅は、はっきりと頷いた。


「修羅咲祭には、儀式としての側面もあります。

 戦いによって放たれる“魔素”や“エネルギー”を、とある(・・・)魔導具へ充填するのです」


「……とある、魔導具?」


「その魔導具は、荒ぶる海を割り、奈落迦島へ至る“道”を作ります」


「……海を、割る?」


「一時的に、ですが」


 淡々と語られる内容に、思わず小さく息を吐いた。


「つまり、その大会は……」


「真に強き者を決める戦いであり、

 同時に“神域へ至る道を開く”ための祭りでもあります」


 ――武をもって、神域へ至る資格を示す。

 全くもって、武京らしい(・・・)発想だ。


 加えて、ダンジョンマスターである俺には分かる。

 溜められた魔素は、『スタンピードを抑えるための供物』としての意味も持っている。

 そんな複雑な機構を持つダンジョンってことは、つまり――


(……奈落迦ダンジョンにはダンジョンマスターが居る)


「面白れぇ」


 思わず、笑みが零れた。


「フフッ。阿吽なら、そう言うと思っていました」


 禅のニヤリとした笑みには、次に告げる言葉への感情が滲んでいた。


「修羅咲祭は、二か月後に開催されます」


 そう言って、禅は真っ直ぐこちらを見据える。


「……阿吽。手加減はしませんよ」


 ――禅もまた、修羅咲祭へ参加する。

 それは、好敵手(ライバル)としての宣言だった。


「上等だ。全力でぶつかろうぜ!」


 祖父に会うために。

 奈落迦ダンジョンへ挑むために。

 そして、武京という国に真正面から踏み込むために。


 二か月後、天音京。

 そこでは、どんな修羅(・・)たちが待ち構えているのだろうか。


(武京って国は……ほんっと、ゾクゾクさせてくれるな)



次話は1/30(金)投稿予定です♪

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