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「魔物になったので、ダンジョンコア食ってみた!」 ~騙されて、殺されたらゾンビになりましたが、進化しまくって無双しようと思います~【書籍化&コミカライズ】  作者: 幸運ピエロ
第11章 修羅咲ク都 武京編

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第294話 水月の神童

 

 鎌鼬(カマイタチ)との一戦を終えた後、俺達は助けた子供の案内で次の町へと歩みを進めていた。


「オレの名は、宗次(そうじ)! 十歳だ!」


 やけに堂々と胸を張りながら名乗る宗次は、さっきまでの怯えが嘘のように元気を取り戻している。

 もっとも、時折こちらをチラチラと窺いながら歩いているあたり、内心ではまだ緊張が解けていないのだろう。


「水月道場があるのは、港町の隣にある町だ。月影町(つきかげちょう)って言うんだぜ」


「港町じゃないんだな」


「うん。町の真ん中に道場がどーんってあるから、港だと逆に邪魔なんだってさ」


 なるほど、と納得しながら歩を進める。

 宗次の話によれば、水月道場は武京国でも屈指の名門で、剣を志す者なら一度は耳にする存在らしい。


「師範代の人たちも、みんな化け物みたいに強いんだぞ! でもな……オレが一番すげぇって思うのは――」


 そこで宗次は、少し声を潜めた。


「【剣王】の水月 禅様だ」


 その呼び名に、思わずキヌと視線を交わす。


「無口な方でさ、剣を抜くだけで空気がピリッてなるらしいんだ!」


「へぇ……」


 隣で聞いていたキヌが、小さく相槌を打つ。

 その評価が“外聞用”であることを俺達は知っていたが、わざわざ訂正するような事でもない。

 それに、禅がストイックで何事にも全力なのは間違いないし、容姿端麗で実力も折り紙付きだ。傍から見ればクールとも捉えられるのかもしれないし、歴代最年少での【剣王】の称号獲得も相まって子供達からは尊敬の眼差しを送られるような存在なのだろう。


 そうして歩いていくと、ぽつぽつと平屋が目に入りだし、徐々にその数を増していく。数分もすれば道は綺麗に(なら)され、その両側に建物がぎっしりと並ぶ街並みへと変化する。


 月影町は、港町よりも落ち着いた雰囲気の町だった。

 通りは整然としており、無駄な喧騒がない。行き交う人々もどこか背筋が伸びているように見える。


 そして――町の中心に、それはあった。


「……おぉ……」


 思わず、声が漏れる。

 高い塀に囲まれた広大な敷地。

 黒塗りの門には、無駄な装飾のない堂々とした木札が掲げられている。


 『水月道場』。


 中からは、木刀を打ち合う乾いた音と、張りのある気合の入った声が響いてきた。

 この周辺だけ空気が、明らかに違う。


「……すげぇだろ?」


 宗次が誇らしげに続ける。


「ここが、水月道場だ!」


 門の前に立った瞬間、自然と背筋が伸びた。

 ここが武京国における“剣の中心”。そう思わせるだけの風格が、全体から溢れ出ている。


「よし……」


 少し気合いを入れ、門をくぐる。

 すると、すぐに詰所のような建物があり、武士然とした門番が一礼してきた。


「御用件は?」


「百目鬼 阿吽という。港町で水月 禅からの伝言を聞き、会いに来たんだが……」


 自分の名を告げた瞬間、門番の空気が変わった。そして一瞬だけこちらを値踏みするような視線を向けた後、静かに頷く。


「少々、お待ちを」


 恐らく禅を呼びに行ったのだろう。俺達は代わって現れた女性に案内され、道場奥の畳敷きの部屋へと通される。

 その部屋に余計な装飾は一切なく、壁には古びた掛け軸が一本。

 整えられた室内には、張り詰めた静寂が満ちている。

 促されるまま俺やキヌ、ユラが座ると、宗次も姿勢を正して正座をした。


(……間違いなく、一流の道場だな)


 外から聞こえてくる稽古の音は規則正しく、発せられる声には迷いが無い。

 誰もが強さを求めてこの場に居るのが伝わってくる。


 それから、少しして――廊下の奥から、床板を踏みしめる足音が一つ。

 規則正しく、無駄のない歩調。

 それだけで、来る人物が“ただ者ではない”と分かる。


 そして、向かいの(ふすま)が静かに開かれた。


「お待たせしました。……阿吽、お久しぶりですね」


 現れたのは、以前よりも雰囲気が落ち着き、剣士としての凄みを隠しきれない青年だった。

 整った和装を着こなすその姿は、アルト王国で会った頃とはまた違う一面を見せている。


(……こいつ、かなり強くなってんな)


 鋭く澄んだ眼差し。

 所作の一つ一つには、全く隙がない。


 ――【剣王】水月 禅。


 宗次から息を呑む音が聞こえた。

 この部屋にいる全員が禅へと視線を向ける中、禅の視線は俺からゆっくりと外れ……次の瞬間、ピタリと止まる。

 その先にいたのは――ユラ(・・)だった。


「…………」


 禅は目を見開いたまま、完全に動きを止める。


「…………え?」


 一拍。


「…………あの」


 二拍。

 次の瞬間――


「ぶっふぉっっーー!?」


 禅の鼻から、勢いよく赤い液体が噴き出した。


「えっ!? ちょ、禅!?」


「す、すみません!! ちがっ、違うんですこれは!!

 あのっ、生理現象というか!! ……そう、必然の産物なんです!!」


 意味不明な言葉を勢いのまま並べ、慌てふためく“神童”。

 そして、その勢いは衰える事を知らず……、


「え、えっ、何ですかその子!?

 新種の モフ!? え、モフで合ってます!? 合ってますよね!!

 あ、あの、撫でっ……撫でても――」


「ダメだ」


「ですよねっ!!」


 いっそ清々(すがすが)しいほどの笑顔。

 その鼻から滴り落ちる血液は、もはや気にも留められていない。


 そんな一連の流れに、普段は冷静なキヌも表情が若干引きつっている。

 それでも必死に声を絞り出した。


「……鼻、血が出てる」


「っ!! し、失礼しました!!」


 大事な事を思い出したかのように、慌てて懐紙で鼻を押さえる禅。

 さっきまでの(おごそか)かな空気は、見る影もない。


 混沌を煮詰めたような状況の中、ユラはというと……禅を不思議そうに見上げ――


「キャゥゥン?」


 と、一声鳴いた。


「――っ!!」


 静かに膝から崩れ落ちる【剣王】。


「……無理です……。尊い……」


「お、おい。しっかりしろ」


「モフモフで、きゃわわなんて……もぅメロ過ぎて、死ねます……」


 ユラが尊くて、きゃわたんなモフモフであるのは激しく同意する。


 ……だが、禅よ。その顔はダメだ。

 整った顔面が完全に崩壊しているぞ。


 あれだけ隙の無かった所作から一変、今のコイツは四つん這いとなり全身が隙だらけになっている。

 そんな禅を見て、宗次が呆然とした表情のまま口を開いた。


「……【剣王】の水月 禅様は……、無口でクールなお方だって……」


 (なげ)きにも取れる宗次の(つぶや)きに、キヌが涼しい顔で答える。


「ん。……それ、多分別人」


 併せて俺も小さく肩をすくめた。


「少なくとも、俺達の知ってる“水月 禅”じゃねぇな……」



ついに禅くんと阿吽が再会!!笑

ここから武京編が動き出します★


次話は1/23(金)投稿予定です♪

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