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「魔物になったので、ダンジョンコア食ってみた!」 ~騙されて、殺されたらゾンビになりましたが、進化しまくって無双しようと思います~【書籍化&コミカライズ】  作者: 幸運ピエロ
第11章 修羅咲ク都 武京編

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第290話 深淵への扉


~禅視点~


 スフィン7ヶ国協議会終了後、阿吽と別れてからもう一年以上が経つ。

 魔族という存在やそれを退けた阿吽達を間近で見て、心の底から自分の力不足を痛感した。


「まだ……足りない。私の武は、まだ“(いただき)”に届かない」


 阿吽の強さは眩しく、どこまでも真っ直ぐで……遥か遠い。

 私の得た【四霊獣召喚】という力も、まだ白虎(ミーちゃん)1体を召喚する事しかできずにいる。


 私は弱い。

 そして、このままでは終われない。


 ……だから、私は旅に出た。


 “武”とは何か。

 “義”とは何か。

 “己”とは何か。

 “モフモフ”とは……何か。


 その命題の先に、新たなる世界が広がっていると確信して。



 この一年は決して平坦な道のりではなかった。

 私はまず武の鍛錬をひたすら積んだ。

 魔力の練度、呼吸、武術。

 剣の振り方や間合いの取り方も一から見直し、時には危険地帯にも足を踏み入れた。

 命を掛けて戦い、己を磨き上げる日々。

 そんな厳しい鍛錬に耐えきる事ができたのは、間違いなく“ミーちゃん”という存在のお陰だ。


 様々な経験を共にし、ミーちゃんとの絆は以前より深まった。

 一緒に狩りに行き、魔物の巣を掃討し、時には盗賊の相手もした。


 もちろん新たな四霊獣召喚の挑戦も続けていた。

 ……しかし、その成果は本当に酷かった。

 魔法陣を制御しきれず暴発し、時には周囲の魔物を呼び寄せ、ミーちゃんに叱られる日常。


 それでも諦めずに続け、自問自答を繰り返した。


 ――私は、真にモフモフを理解できていないのではないか。

 ――モフモフ愛が足らないのかもしれない。

 ――足らないのは、私の力量……。つまりレベル……?

 ――それにしても、ミーちゃんに叱られるのはご褒美だ。……もっと叱られたい。


 雑念とも欲望とも捉えられる思考。

 だが、これでいい。モフモフは全てを許容してくれる。


 私は、阿吽のような天性の才があるわけではない。

 奇才と呼ばれる思考を有してもいない。

 変人というわけでもない。

 ならば、“ただの凡人”として少しずつでも積み上げていくしかない。


 敗走も、失敗も、全てを積み上げろ。

 反省し、改善し、挑み、研ぎ澄ませ。

 失敗しても、転んでも、折れずに次の一歩を踏み出すのだ。



 そうして迎えた、ある日のことだ。

 朝の冷たい空気を吸い込みながら瞑想していると、精神の奥で“何か”が揺らめいた。


 ――深く。

 ――より深く。

 ――もっと深く。

 唯々(ただただ)自らと向き合うだけの、そんな時間。


 どれ程の時間、潜っていただろう……。

 呼吸すらも忘れるほどの集中の果て、思考の海の遥か深くで、深淵へと繋がる扉に触れた。


(今なら、できる)


 そう確信し、【四霊獣召喚】のスキルを発動した。


 召喚陣が淡く脈動し始める。

 胸の鼓動と共鳴するように、魔力が光の線になって地面を走り、円環を描いていく。


 目で、耳で、肌で、心で己の魔力を感じながら、思い出す。

 召喚とは荒業のようでいて、本質は“呼びかける”という穏やかな行為だったと。


 ――呼び、応え、繋がる。


 ミーちゃんを初めて召喚したとき、私は世界の理を知った。

 『モフモフこそ真理』である、と。


 あの“極上触感(モフモフ)”に触れた瞬間、心が浄化され、価値観が生まれ変わった。

 ……しかし、どこかミーちゃんの居る日々が、“当たり前”になってしまっていたのではないか……。


 初めてミーちゃんと出会った、あの時の熱い気持ちが鮮明に蘇る。


 召喚陣が赤い光を帯び始め、それが宙へと浮き上がり出したとき、私は直感した。

 この召喚は、私の予想を遥かに上回ってくると。


 空気が震える。周囲の草がわずかに揺れ、光が反射して赤金に染まる。

 まるで、世界が私を祝福しているようだった。


 魔法陣を中心に空気が柔らかく変形し、光が揺らめく。その中心から、赤い羽根が一本ふわりと舞い落ちた。


 その羽根は『燃えている』と錯覚させるような “赤”。

 自然と視線がその羽根の持ち主に移っていくと、私の目に映ったのは火を体現したかのような、神秘的な鳥だった。


 ――朱雀。


 召喚した主だからか、私の頭にはその情報が降りてくる。

 だが、この瞬間の私にはそんな肩書きなど、どうでも良かった。


「ふっ……、ふわっふわだぁ……」


 羽根の1本1本が炎のように揺れながらも、どこか布団の中に潜り込む時のような優しい空気をまとっている。

 そう想像したのが早いか、私は既に言葉を発し終えていた。


「触らせて頂いても、よろしいでしょうか」


 自分でも驚くほどに真剣な声だった。

 その瞬間の私は、間違いなく見紛(みまご)う事なき紳士であっただろう。


 朱雀は不思議そうに首を傾げ、低い鳴き声で「ピィ」と応えた。



 ――許された。

 私は少し震えながらもそっと手を伸ばす。


 触れた瞬間、指先がじんわりと温まる。

 火鳥のような姿だからだろうか。心のどこかで“熱い”と思い込んでいた。

 だが違う。痛くも熱くもない。癒しすら感じる不思議な熱。

 これは……肌を包む優しいぬくもりだ。


 思わず息が漏れた。


「……これは、……反則では?」


 温かい。柔らかい。

 胸元の羽毛に触れた瞬間、ふわりと膨らむような軽やかな感触が返ってくる。そして、自然とフワフワの奥に吸い込まれたかと思えば、指が溶けて羽毛と一体になったような錯覚に陥った。


 ミーちゃんのモフモフが『癒し』だとするのなら、朱雀の“フワフワ”は『(ゆる)し』だ。


 癒され、赦される――もしそれを同時に味わったら、人間はどうなるのだろう。

 その問いに対する答えを理解する前に、私の頭がふわっと軽くなった。


 ――ああ、そうか。

 私は今、またひとつ世界の真理に触れてしまったのか。


 モフモフだけ(・・)が頂ではなかった。

 フワフワこそ、もうひとつの(ことわり)だったのだ。


 脳がとろける。

 ふわふわ、ぬくぬく、ぽかぽか……。

 語彙力が、思考が、幸福の波で押し流される。


 危険だ。

 これは本当に危険だ。

 モフモフに続く“第二の真理”が、私を完全に虜にしようとしている。


 それでも触れるのを止められない。止めたくない。

 ……いや、止める理由はどこにもない!!


「世界はこんなにも、優しくてあたたかい」


 ミーちゃんが穏やかに見つめる中、朱雀はまるで母のように私を翼で包み込む。

 朱雀……いや、これからは相応しい名前で呼ぶべきだろう。


「君の名は、ピィちゃんだ」



 ――そうだ、今夜は野宿をしよう。

 満天の星空の下、芝生の上でミーちゃんに添い寝をしてもらい、ピィちゃんに覆いかぶさってもらって眠るのだ。

 フワフワの中で、モフモフ――


「おっふ……」


 ヤバい。

 想像しただけで気絶しかけた。

 ……これはさすがに、思考を戻さねば。


 世界はきっと、もっと広い。

 そして私は、次の霊獣を召喚できるように、もっと精進せねばならぬのだ。

 全ての霊獣を召喚したその時、真に『水月(みなつき) (ぜん)』という存在は完成する。


「待っていてください、父上。

 あなたの息子は――深淵への扉を、ブチ壊します!!」




 この二か月後、禅は武京国へと帰郷する。

 奇しくもそれは、阿吽達が武京へと向けて出発した日の事であった。


次話は12/19(金)投稿予定です♪

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― 新着の感想 ―
残りの青龍や玄武はモフモフか? 違うよね? 禅は召喚してその存在に絶望? それとも新たな境地に達する?
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