第284話 進化の条件
~プレンヌヴェルトダンジョン コアルーム~
あの狂った劇場型ダンジョンからウィスロに帰還し2週間、俺達はウィスロでの報告や片付けを済ませ、プレンヌヴェルトへと帰還した。
「何か、すげー懐かしい感じがするな」
コアルームから確認するだけでもプレンヌヴェルト街の発展は目覚ましく、建物の数だけでなく人口もかなり増えているのが分かった。
ウィスロでは冒険者が街の主役のような雰囲気だったが、ここは冒険者だけでなく、それ以外の職種にも活気があり、発展途上独特の喧騒も感じられる。
「ん。後で、街の様子を歩いて見に行こ」
「そうだな! 久しぶりにみんなで散歩でもしてみるか。っと、その前にバルバルやコア達とも会って情報共有からか」
そんな話をしているとアルス、イルス、バルバル、クエレブレがコアルームへと転移してきた。
「皆、おかえりなのじゃ!!」
「おう、ただいま! こっちの発展は順調みたいだな!」
「はい、万事順調に進んでいます! カルヴァドスのメンバーも順々にこちらに移動してきているようで、先日クランハウスの申請や拠点の変更登録なども行っていました」
「そかそか!! ってことは、本格的にダンジョン攻略を始めるのは1カ月後くらいからかな?」
「そんなところですね! プレンヌヴェルトダンジョンも40階層まで増築を終え、SSランクの魔物である氷魔導屍も召喚済み。ボスエリアの特殊ギミックも無事配置する事ができました!」
「41階層から先50階層までの増築は、ダンジョンポイントが増え次第行っていく予定でござるよー!」
うんうん。カルヴァドスが本格的に攻略をし始めてもしばらくは大丈夫そうだな! それに、攻略が始まればダンジョンポイントの貯まり方も加速度的に増えるだろう。そうなれば50階層までは順当に増築もできるだろうし、もしそれすら超えてくるパーティーが出てきても先に控える幻影城ダンジョンは簡単に攻略できる難易度ではない。
幻影城ダンジョンを完成させるとなると途方も無いほど膨大なダンジョンポイントが必要ってのもあるし、カルヴァドスをプレンヌヴェルトに誘導できたのはかなり美味しい状況と言えるな。
「プレンヌヴェルトの状況報告は以上なのじゃ! 卵の事もあるのじゃが、その前に阿吽達がどんな遠征をしてきたか聞きたいのじゃよ」
「そうだな。その前に……実は、みんなに伝えておきたい事がある」
今回、ウィスロへの遠征を行ったのは各自の強化を目的としていたところが大きい。『狂雅の万罪劇場迷宮』で俺が進化する事もでき、他の4人も強化の糸口は掴んだ様子だ。そして何より、今回の進化で色々と分かったことがある。
それは、“進化の条件”。
これまで、「レベルを上げれば進化をするのではないか」と考えていた部分があったが……どうもこの先の進化となると、そう単純な話ではなさそうなのだ。
それに、成り立ちが魔物からではなく亜人種であるドレイクとネルフィーの進化。この辺りについてもそれぞれで考えている事があるようだが、まずは俺から考えている事を話すべきだろう。
「ずっと考えてたんだ。進化する為には何が必要なのか、ってな。それが閻魔羅王への進化で見えてきたことがある」
突然の話題に皆が目を見開き、息を飲んだ。
それもそのはずだ。“進化の条件”など世界中の文献を漁っても信憑性のある答えなど見つけられないレベルなのだ。
少しだけ間を置いて、指を一本ずつ立てながらできるだけ慎重に言葉を選ぶ。
「まず、“レベル”。
例えるなら、これは器だ。どれだけの力を注ぎ込めるか、その上限を決める。けど、器がデカくても中身が足りて無ければ意味がねぇ」
進化の条件の一つ目。これは分かっていた事だが、単純にレベルを上げるだけでは進化は出来ないという問題に対する考え方が、『器である』という視点の切り替えだ。
それによりこの先の話が理解しやすくなる。
「次に、“属性”。
器に注ぐ液体の種類――それが“属性”だ。火や氷、闇や光。イメージとしては、どんな色の力を宿すかって話だな」
どんな力を器に注ぐか。恐らく注ぎ込んだ各属性のバランスも進化先に影響を与えているのだろう。
「三つ目は、“感情”。
進化の引き金となるものだ。恐怖でも、怒りでも、悲しみでも……強く魂が揺れた時、初めて殻を破ることができる」
俺の場合は、怒りの感情が特異進化の引き金となった。この部分は間違いないだろう。
「四つ目、“経験”。
器に注ぎ込む液体がこれに当たる。それに、どんなに強い感情でも過去の積み重ねがなきゃ大きく爆ぜねぇ。敢えて難しい言い方をすれば、魂に刻まれていく思考の癖みたいなやつだな。戦いの中でどう動き、どう決断するか――その積み重ねが“魂の形”を作る」
魂の殻を破る程の強い意志、それは過去の経験が積み重なって初めて得られる自信や確信のようなもの。
魔物に関しては、一つの選択が生死を分けるという場面が多い。過酷な環境には強い魔物が生息するというのもこれに由来しているのではないだろうか。
「五つ目、“血”。
これは、進化先の傾向を左右する“因子”だと思う。
だが逆に言えば、それだけで全てが決まるわけじゃねぇ。血は“起点”に過ぎねぇんだ。」
ゾアはしきりに『百目鬼の血』という言葉を使っていた。
こいつは不明な事も多いが、進化先に大きく影響する可能性がある。でも裏を返せば、進化できるかどうかは“種族の差”じゃねぇってことだ。
どんな血統であったとしても進化が出来ないという事は無いのだろう。魔物の方が進化しやすいのは間違いないだろうが、人族の方が様々な種類の経験は出来る。そう言った意味でも自身のルーツを知る事が、その先の未来を見据える指標となる場合もあるはずだ。
「そして最後が――“魂の方向性”だ。
どれだけ力があっても、自分がどうなりたいかってのが見つからねぇうちは、進化なんてしねぇ。
つまり進化ってのは、“強さ”じゃなく“在り方”の変化なんだと思う」
言葉を締めくくると、部屋の空気がぴたりと止まった。
誰もが何かを考えている――そんな沈黙だった。
視線を向ければ、ネルフィーは眉を寄せ、ドレイクは拳を握りしめ、キヌやシンクはただ静かに俺を見つめ、その表情の一つひとつに言葉以上の決意が滲んでいた。
(……ああ、きっとみんなも感じてるんだ。この先に進むためには、強さじゃなく“覚悟”がいるってことを)
誰もまだ口にはしていなかったが、この時既にそれぞれが自らの選ぶ道を決め始めていた。
次話は11/7(金)投稿予定です♪




