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第283話 理解を超えた領域

 

~キュルラリオ視点~


――なんだ、コレ。


 ハイルの合図とともに始まった師匠とシエルの“喧嘩(タイマン)”。目の前で起きてるはずなのに、僕には何がどうなっているのかほとんど分からない……。

 シエルが踏み込んだと思った瞬間には、阿吽師匠の頬から血が飛んでいる。

 師匠の拳が振り抜かれたと思った刹那にシエルが吹き飛び、着地した足で大地を(えぐ)っている。


 行動と結果の()が、ない。

 見えた結果とそれまでの過程が、頭の中で繋がらない。

 それなのに……、分からないことで心が高揚し、この上なく気持ちイイ。


――戦闘音が振動として体に伝わってくる度に呼吸を忘れ、視界が焼け、瞳孔が開き、脳が痺れる。

 心臓が激しく脈打ち、全身の血液が沸き立つのを敏感に感じ取れる。


 これが、阿吽師匠やシエルの立っている“高み”。

 今僕は……僕の知らない、僕の届かない次元を疑似的に体験させてもらっている事に他ならない。


(目で追えないなら、耳で感じるしかない)


 風が千切れる甲高(かんだか)い音、血が弾ける湿った音、骨が軋む乾いた音。

 それら全部が、僕の鼓膜を(つんざ)き、脳を直接叩いてくる。

 気づけば口角が上がっていた。酸素なんてどうでもよくなって、ただその現象を吸い込むことにだけ集中する。

 あぁ――これが“強さ”の音か。


 信じられない程の戦闘速度の中、弾ける二人の血飛沫だけがあちらこちらでゆっくりと舞い散る。

 それは、夜風に舞う赤い花びらを連想させた。


(狂ってる。それでいて……美しい)


 周辺視野でしかとらえる事ができない二人の喧嘩を、必死に目と耳で追っていると――突然、激しく空気が爆ぜた。


 音か、衝撃か……。それすらも曖昧な轟きと共に、目の前では二人の拳が互いの頬にめり込んでいた。

 世界が割れたのかと錯覚するほどに視界が白み、僕は思わず息を呑む。


(いつまでも、この瞬間が終わって欲しくない。でも……)


 一瞬、二人の瞳が交錯する。

 憎しみも敵意もない。お互い満足したようなその表情。

 その光景は、僕の中の何かを目覚めさせた。

 胸の奥が灼けるように熱くなる。


 次の瞬間、シエルが片膝を折り片手が地に着いた。

 立っている師匠も全身が血にまみれ、肩で大きく呼吸している姿はこの戦いの壮絶さを物語っている。

 どちらも限界に近かったのだ――けれど、最後に踏みとどまったのは阿吽師匠だった。


 いつの間にか静かに吹いていた風すら止まっていた。

 夜の虫の声すら、恐れをなしたかのように沈黙する。

 残ったのは血の匂いと、月光に照らされたふたりの影だけ。


「あ、は……はは、はははッ」


 僕の喉からは、思わず笑いが漏れた。

 感情がコントロールを失い、戻れなくなっていた。

 止められない震えが全身を駆け巡り、理性が吹き飛ぶ。

 怖い。でも嬉しい。

 戦闘内容は全くと言っていいくらい理解できなかったが、それでも得られたものは大きかった。


(追いつきたい。限りなく遠い、あの背中に……)


 でも、僕一人じゃ絶対に届かない。ソロで突っ走るだけじゃ、あの高みには立てない……。


 ああ、クソッ! たまらない!!

 僕は決めたぞ。

 絶対に追いつく。今は理解できなくてもいい。それでも、自分の伸びしろだけは自覚した。

 その理想に肩を並べるまで、何度でも血反吐を吐き、脳汁を垂れ流し、生死の境界線(ダンジョン)を生き抜いてやる。


――隣にいるハイルへと視線を向ける。

 まだ全身が強張り指先の感覚は曖昧だが、僕の口は自然に動いていた。


「……ハイル。僕を正式に、テキラナに加入させてくれ」


 今の師匠に追いつく頃には、その背中はさらに遠くなっているかもしれない。

 それでも僕は諦めない。進むのを辞めた時、僕の夢は一生手の届かないものになってしまうのだから。


今話にて長かった第10章『巨大迷宮都市ウィスロ編』が完結し、次話から第11章『修羅咲ク都 武京編』が始まります♪

これに伴い、改稿や書き溜めを作っていく作業の時間をいただく為、来週はお休みとさせて頂き、次話の投稿は10/31(金)予定となります!


また、告知となりますが、11/7(金)に本作のコミック第三巻が発売となります★

第三巻もテンションブチ上る仕上がりとなっておりますので、お手に取っていただけたら踊り狂うほど喜びますw

挿絵(By みてみん)


次話からもノリノリで執筆していくので、応援よろしくお願いいたします!!

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