第281話 ゾンビ先輩の大冒険⑩
~ハードボイルドな元ゾンビ視点~
夕焼けに染まる空を裂いて、灰色の羽根を散らしながら怪鳥ドレッドロックが上空を旋回する。
そのサイズは両翼を広げると15m程にもなり、ラヴァンにも引けを取らない大きさや。
加えて上空から滑空してきた時の速度は翼が風を切り、甲高い音を響かせるほど。
これ、単純な最高速度はラヴァンより速いか? デカい図体も相まって単純な体当たりだけでも相当な攻撃力がありそうやな……。
(って、うわっと!?)
アイツ、飛び回りながら風属性魔法で攻撃してきよったぞ!
しかも狙いはラヴァンやなくてワイか!!
たしかに、ワイ単体では飛行能力がないからな……。仕留めやすい方から狙ってきたって事か。
(って、ちょ!? 急な方向転換も可能なんか!? 咄嗟に矛でガードは出来たけど、イカした赤マントが少し切れてしまったやないか!)
これは地面に誘導せんと、こっちが圧倒的に不利や。何とかしてヤツを地面に……
そう考えていた時、突風が背後から吹き抜け、ラヴァンの背で耐えきれずに体勢を崩す。次の瞬間、不可視の風の刃が連続して襲い掛かり、ギリギリで防御はしたものの腰から下がふらついた。
そして、その隙を見計らってさらに追い打ちとばかりに魔法攻撃が放たれる。
(この……、ボンジリがぁぁっ!)
――キィィィン!!!
グッと力を入れて攻撃に耐えようとした時、赤い半透明の膜が一瞬にしてワイの周囲を覆い、飛来した魔法をはじき返す。その膜は硝子のように光り、かなりの硬度を感じさせた。
(な、なんや? 今、一瞬バリアみたいなん出たけど……)
もう一度ケツの穴をギュッっと締めるように力を入れる。すると再び、赤い硝子のような膜がワイの周囲に出現し、飛来する風魔法をことごとく弾いていく。
(おぉ!? このバリア、アホほど硬いやん!)
それを見たドレッドロックはムキになって何度も風魔法での攻撃を繰り返すが、甲高い音を響かせるだけで全て無効化されている。
何やようわからんけど、これが“ハードボイルドな男の魅力”ってやつか? 魔法をも無手で防ぐほどの魅力が無意識に漏れ出てしまったと……。うんうん、それなら説明がつくな! なんせワイは近付いたら火傷するほどのハードボイルドなんやから!
とにかくワイは最強の防御方法を手に入れたでぇ!
――キィィン!
(フハハハハ!! 温い! 温いぞっ!!)
――キィィン! キイィィン!!
(そんなやわな攻撃では、この防御壁を貫通することなど――)
――キィィーン!
――パキッ……
(……え?)
――バリバリバリバリィィィン!!
(アカーーーーーン!! バリア全然最強やなかったぁぁぁ!)
驚いたのもつかの間、頭蓋の奥が痺れる程の甲高い破砕音とともに、赤い硝子片が四方に飛び散る。
調子ぶっこいて腕組みしてたワイの姿は、周囲から見たらただのポーズ決めたアホがノーガードで爆風に巻き込まれたんにしか見えんかったんやろな。くっそ恥ずいわ……。
てか、ここまで一方的にやられてしまってるけど、空中じゃあワイは攻撃しにくいんよな。今思い出したけど、ワイの攻撃手段って近接攻撃しかあらへんかったしやな……。
まぁやんや言うても、あのクソバードを焼き鳥にするんは決定事項や。問題はどうやって倒すか。
中途半端な攻撃当てて逃げられてしもたら厄介やし、できれば一撃で致命傷を与えたい。
うーん、ここは熟成された脳みそを持つワイがすんごい作戦を……
ん? 脳みそあるんかって?
そんなモン、火山島で火龍はんに燃やされてしまったわ!
ついでにギュッと締めるケツの穴もあらへんわ!!
見ろや、この剥き出しの骨盤をっ!! カッチカチやぞ!!
「ギュル!」
って、何やラヴァン? 今えげつない作戦考えてるんやけど……、
「ギャギャイ!!」
「グルルァ!」
……え? ワイが邪魔で飛行速度が出せんって?
本気出したら、あんなクソバードに速さで負ける気がしないってか??
今までワイが振り落とされんように加減してくれてたんか。たしかに進化してから本気で飛んでるトコ見たことないけど……。
「「「ガルァ!」」」
いやいやいや、ちょっと待って。
「降りろ!」って言われても……。
今、ワイ等が居るところってドコかご存じ??
めっちゃ高いところにおるんやけど!?
ちょっ! 待って、待って!!
ほらっ、こない雲が近くに……って、上下逆さに飛ぶんは反則やから!!
せ、せめて自分のタイミングでっ――
――ぎょえぇぇぇ!!
ラヴァンの背から振り落とされたワイの身体は、数秒のフリーフォールの後奇跡的に足から地面に着地した。なぜか腕組みしたままの状態で。
てか、砂煙ヤバッ! 骨の間まで砂まみれやん。
砂がクッションになったからかダメージはほとんど無かったものの、まだ胸がドキドキしとるわ。
骨密度低かったら両足バッキバキやったで……。
そのままの姿勢でゆっくりと空を見上げると、ラヴァンとドレッドロックが高速で旋回しながら激しいドックファイトを繰り広げとるトコやった。
その動きを見とると、ラヴァンの言うた通り今までワイを落とさんように気を付けて飛んでたって事がすぐに分かった。
(……逆に振り落としてもらって良かったわ。あんなに高速で飛び回られたら、背中の鱗に捕まってるだけで精一杯やった……。てか、ラヴァンが優勢っぽいな)
ドレッドロックの背後を取ったラヴァンの三つの頭がドレッドロックの行動を予測しながらブレスを吐き、行動を限局していく。
ドレッドロックは魔法攻撃すらできんくらい余裕が無いように見える。避けるだけで精一杯って感じや。
「グルルアァァ!」
大迫力の怪獣バトルをじっくりと鑑賞してると、ラヴァンの頭の一つがこっちを向いて叫んだ。何かを伝えようとしてるんやろか?
「ギャギャル!!」
(あー、なるほど! それは確かに一石二鳥やな。よし、その案で行こか!)
まさに鳥肌モンの作戦や! 相手が鳥だけに、ってか! ハッハッハー!
えっ、それどころやない? ご、ごめんやで……。
ワイに作戦が伝わったと分かった途端、ラヴァンの動きがさらに一段階加速する。そして、ドレッドロックを瞬時に追い越すと、身体をクルっと回転させて12本の尾を鞭のように叩き付け、ワイの居るところを目掛けてドレッドロックを落としてきた。
良い軌道や! ナイスコントロールっ!!
(っし、行くでぇぇ!! 【銘肌鏤骨】、【八熱地獄】っ!!)
身体強化スキルを二重でかけつつ武器にも魔力を流すと、ワイの全身と矛に炎が纏っていく。
その轟々と燃え盛る炎は周囲の空気を歪ませ、プスプスと黒煙まで上げはじめる。
それだけではなく、目に映る景色の流れる速度が遅くなっていく感覚に囚われた。
ジャイアントワームを倒した時と同じや……。この爆発的に上がった集中力と全能感、所謂“ゾーン”に入ったっちゅうヤツやろな。
(こうなった時のワイは、もう誰にも止められんでぇぇぇ!!)
超高速で墜落してくるドレッドロック。それに合わせ大きく振りかぶった矛を勢いよく振り下ろした。
炎を纏った矛はドレッドロックの頭蓋を叩き割り、そのまま尾の先まで綺麗に刃が通ると、炎が骨の髄を駆け抜ける。
真っ二つとなったドレッドロックの身体からは白煙が噴き上がり、一瞬後れて怪鳥の断末魔が地面を震わせた。周囲を見渡すと、余波で半径30mほどの砂がドロドロに溶け、一部は硝子のように硬化してキラキラと夕焼けの光を反射しとる。
空からは、黒焦げになった羽根の残骸が雪のように舞い落ち――、風には肉の焼ける香ばしい香りが乗り、食事が必要ないワイでも食欲をそそられる。
(っしゃぁぁぁ!! 焼き鳥、一丁上がりぃぃぃ!!)
ちょびーっと火力調整ミスって、胸肉あたりは一部焦げてしもたが……、まぁそれもご愛敬やろ。
「「「ギャルルェェ」」」
(おぉ、ラヴァンもお疲れさん! っと、この焼き鳥は晩飯用やからな? 今は食うたらアカンでぇ!)
いやいや、不服そうな顔してるけど、君らさっき芋虫食うてたやん……。そんな目でこっち見てもダメやで?
食われる前に、さっさとバッグにしまっとこ!
さてと、食料も確保できたし、次はドコ行こかー?
やっぱラヴァンの食料が確保しやすい場所がい……い?
――あっ……、なんか、ふと核心的な事思い出してしまった。
(ワイ等が砂漠だらけのこの国に居る理由って、……なに?)
そうやん! 食料の事だけ考えたら自然豊かな国に行けばいいだけやったわ!!
何ならラヴァンの餌になりそうな巨大な魔物が蔓延る場所だって、この世界のどこかにはあるはずや!!
うわー、盲点やったで! 移動手段も飛行できるラヴァンがおるわけやし、ワイ等は何に縛られてる訳でもない。どこへ行くにも自由なんや。
んなら、行先は敢えて決めへん!
適当に矛ぶん投げて、刃先が向いた方向にでも進むとしよかー!
(ラヴァン行くでぇ!! ワイ等の目的地は……ワクワクする未来やっ!!)
次話は10/10(金)投稿予定です♪