第280話 ゾンビ先輩の大冒険⑨
~迷子の元ゾンビ視点~
迷子の、迷子の、ゾンビちゃん~♪
あなたのお家は、どこですか~♪
まいどっ! 迷子でゾンビのおっちゃんやでー!
最初っからワイに家なんてあらへんのやけどなっ!!
(フッ……。ワイは根無し草、行先は……風まかせや)
ドヤっ! これぞハードボイルド系ゾンビやろ!?
こんな感じに背中で語るイケオジにならんと、アウンって呼ばれとった兄ちゃんと再会した時に失望させてしまうからな! 今から雰囲気イケメンになる練習しとかなあかん!
ん? 顔面? 骨だけやのにイケメンもクソもあるかいな!
まっ、これ全部現実逃避なんやけどな?
いやいや、ちゃうねん! こんな現実逃避してたんも、涙無しでは語れぬ事情ってのがあったんよ。
え? どんな事情かって?
そんなもん、ワイの後ろで立食パーティーしてるラヴァンを見たら分かるわ……。
――グチャグチャ……
――ムシャムシャ……
――ゴクンッ。ゲプッ……
今彼女らが食ってるんは、前に倒したクソデカ芋虫の残りなんやけどな、
あの巨体をたったの二日で食いきりよったんよ……。
要するに、もう飯のストックが無いっちゅうこっちゃ!!
まぁな? しゃーないよ?
だって、ラヴァンも15メートル級の巨体なんやもん! 頭なんか三つもあんねんで!? そりゃ食費もかかるってもんやわ。
それに、可愛いラヴァンに木の皮食わせるような、ひもじい思いさせるなんて……、そんな甲斐性無しなことできん!
ただ問題なんは、この環境や。
周り見てみぃ! どこを見ても砂、砂、砂っ!!
蜃気楼が揺れる灼熱の大砂漠やぞ!? 当たり前のように木の皮すらもあらへんわ!!
ハァ……、言うてても埒明かんか。
(おーい、ラヴァンー! 腹膨れたかー??)
「「「ギャルルル!」」」
あれ? ラヴァン、ちょっとデカなってない?
……え、もしかして、食い過ぎ?
「「「……」」」
おい! なんで全員目ぇ逸らすねん!
ってか、さっきゲップしてへんかったか!?
もしかして、今までも十分過ぎるくらい食ってたって事!?
それによう考えたら進化した後、ワイがキングクリムゾンアントをしばいてる時、オアシスでアホほど蟻んこ食ってたよな?
なに? あれはオヤツ? 別腹?
お前の胃袋は宇宙かっ!!
ハァ……。でもまぁ、食ってしまったもんは仕方ない!
とにかく餌を見つけてストックにしとかんと、いつかは飢えさせてしまうことになる。
(んなら切り替えて、そろそろ次の獲物を見つけに出発しよかー)
「「「ギャルァ!!」」」
ラヴァンの背に乗ると、3対6枚の翼を大きく羽ばたかせる。
翼が広がるたびに砂漠を薙ぎ払い撒き上げられた砂で一瞬視界を隠されるも、次の瞬間には地面が遠くに見えるほどにまで上昇していた。
ラヴァンも進化して一気に能力が上がってる感じやな!
ただそこから数時間、ぐるぐると砂漠を回りながら餌を探すも生き物自体なかなか見つけられん。ここまで見つからんってなると、こっちが見つける前にラヴァンの巨体に気付いて相手が隠れてしまってる可能性まである。
砂漠に入ってすぐ遭遇したクソデカ芋虫、せめてあいつをもう一匹見つけられれば数日分の食料にはなりそうなんやけどなぁ……。
「ギャル? ギュエェェ……」
いやいや、「芋虫? アレ食い飽きた……」って、それはさすがに贅沢やで。それに餓死するよりは全然マシやろ?
「ギャギャイ?」
「ギュ、ギュルルル!?」
真ん中の頭と喋ってると、遮蔽物の無い空を飛んでいるにもかかわらず太陽の陽が遮られ、急に周囲が暗くなったように感じた。
そして次の瞬間、上空から黒い影が舞い降り攻撃を仕掛けてきた。
他の2頭がそれに気付き、ラヴァンは急旋回してその攻撃を避ける。
灰色の塊はそのまま地面すれすれまで降下したかと思えばまた急上昇をすると、その風圧で砂丘が斬り裂かれたように二つに割れている。
(な、何が起きた!? あれは……)
<ステータス>
【種族】ドレッドロック
【属性】風・地
うぉ!? とんでもなくデカい……鳥型の魔物やと!?
とりあえず、骸暗眼で詳細鑑定や!
【種族】ドレッドロック
かつては中型魔物にすぎなかったロック鳥が、異常な魔力の環境や禁忌の実験を経て進化を遂げた姿。
その体躯は常識を逸するほど巨大化し、空を覆う影だけで周囲を怯えさせることから『怪鳥』の異名で呼ばれる。
群れを作らず単独で縄張りを支配し、上空から獲物を急襲しては鋭い嘴と鉤爪で切り裂き仕留める。
また知能も原種より高く、一部の属性魔法を扱う自在に事ができる。
(え、え、餌……、キタァァァァァァッ!!!!!)
っしゃー! ラヴァン!!
今夜は……、焼き鳥祭りやでぇぇぇぇ!!!!
「「「ギュルルアァァァァ!!!!」」」
次話は10/3(金)投稿予定です♪