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第278話 ノーフェイスの暗躍①

 

――ズガガガーーン


 アルト王国と砂漠国オルディーラの国境となっている危険地帯『ナクヴァ山脈』。

 【顔無し(ノーフェイス)】と【血濡れ(ジョセフ)】の目前には刃で無数に切り刻まれたギガンテックセンティピードが砂煙を上げて横たわっている。


「クフフッ。本当にギガンテックセンティピードを無傷で倒せるんですねぇ。さすが帝国の怪人です」


「貴様が誤ってテリトリーに侵入しなければ、こんな無駄な時間は過ごさずに済んだんだがな」


「“テリトリー”って言いますが、色も匂いも無いのにどうやって見極めるって言うんですか?」


「……私の歩いた部分を後ろから歩けば問題ないだろう? まぁいい。もうすぐナクヴァ山脈は越える。そうなれば目的地まではそれほど時間もかからないはずだ」


「砂漠国オルディーラに行くのは、あの双子……“考古学者のヴィラジと歴史学者のミラジ”をこちら側に引き入れるためですよねぇ?」


「あぁ。あの双子の持つ知識や技術は、他者と比べ物にならないからな」


 禁書の中には稀に“裏文字”と呼ばれる技術で本来の内容が隠蔽されているものが存在する。

 ノーフェイスは、王城の禁書庫からジョセフが持ち出した禁書もこれに該当するものと踏んでいるのだが、裏文字を正確に解読できる者は世界の中でも一握りの専門家に限られる。

 ましてや、それを許可なく解読してしまったら、それだけで即刻捕らえられるほどの重罪。表立って解読してくれる者など皆無に等しいが、二人は高い勝算を持って会話を続けている。


「噂では【骸砂(がいさ)発掘者(ヴィラジ)】と【狂気の記録者(ミラジ)】の異名で呼ばれているようですし、だいぶ倫理観は欠落しているようですねぇ。まぁそれも私たちにとっては都合が良いのですが」


「倫理観など、限界点となる邪魔な存在でしかないからな」


「クフッ、私達も他人の事を言えた質ではなかったですねぇ。そういえば、その双子の居場所はご存じなんです? 二人ともオルディーラでは指名手配されているはずですよねぇ?」


「それについては問題ない。既に居場所は突き止めた」


「ちなみにソコって?」


「“オルド大砂漠”の地下にある隠された古代遺跡、『忘却の都サルヴァナ』。……今ではその名前すら忘れ去られた遺跡だ」


「……オルド大砂漠って、また危険地帯じゃないですか……」


「危険地帯など、弱者が定めた地名に過ぎない。それに、今後の拠点とするにも都合が良いだろう?」


「まぁ、確かにそうですねぇ。私たち二人も表立って動くには少々イタズラが過ぎましたから」


 まるで夕飯の買い出しに出かけるかのような雰囲気で歩きながら続けている二人の会話は、現在居る場所も、これから向かう先も危険地帯に認定されている場所だということを忘れそうになるほどに波が無い。


 この1日後、ナクヴァ山脈を抜けた二人の眼前に、果てしなく広がる砂の海――オルド大砂漠が姿を現した。

 昼は灼熱、夜は極寒、そして砂に潜む魔物たち。人の常識からすれば“命を懸けて越えるような死地”だが、ここもノーフェイスにとってはただの通過点に過ぎない。


「ほぉ……、これだけ何も無いと逆に落ち着きますねぇ。血の匂いもしないほど砂しかないです」


「気を抜いて足を取られるなよ」


 言葉通り、砂の下から蠢く気配が近付いた瞬間、ジョセフは軽く指を鳴らす。

 すると、砂を割って現れたサンドワームの巨体が瞬く間に泥でコーティングされたかと思えば、そのまま握り潰されたかのように体液を撒き散らし死体と化した。


「クフフフ、だいぶ力が戻ってきましたねぇ。サイズ的にはSランクのジャイアントワームではなく、Aランクのサンドワームでしょうか。まぁ、ちょうどいいレベリングになりそうです」


 独り言にも似たジョセフの言葉に、ノーフェイスはさも当然かのように振り返りもしない。

 そして、砂漠の彼方を睨み据え、ひとつの地名を呟いた。


「サルヴァナ……」


 『忘却の都』と呼ばれるその遺跡は、今なお飲み込み続ける砂の底に古代文明の痕跡が眠っているというが、かつてその都市に足を踏み入れた者のほとんどが帰らなかった理由は定かではない。


「双子の変人学者がそんな場所を根城にしているとは……。まぁ、妙に信憑性はありますねぇ」


「こんな場所だ、その二人もそれなりには戦えるのだろうな。だからこそ利用価値がある」


 二人は夜を選んで移動を続けた。月光に照らされた夜の砂漠を、ただただ歩き続ける。

 やがて、砂丘の向こうに崩れ落ちた石柱の列が現れた。かつて街道であったのだろう。砂に半ば埋もれた列柱は、なおも彼方へと続いている。


「……やっと見えてきましたねぇ。あれが入口ですか?」


「入口などとうに崩れている。だが、導きは残っているな」


 ノーフェイスが特定の順序で歩みを進めるたびに、砂がひとりでに崩れ、隠された階段が徐々に姿を現していく。

 そして数分をかけてぐるっと一周歩き終えた時、地下へと続くその暗き口は、まるで訪れる者を呑み込む怪物の顎のように口を開けていた。


「クフフ……、やっぱり私はこういう“怪しい場所”の方が性に合ってますよ」


「ならば存分に楽しめ。ここから先は、常識を持つ者ほど命を落とす」


 砂の底に穿たれた闇の回廊。

 二人の影は静かにその中へと吸い込まれていき……それとともに、忘却の都サルヴァナの名は再び歴史の表舞台へと姿を現そうとしていた。



次話は9/19(金)投稿予定です♪

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