第267話 大規模解放戦⑨
~阿吽視点~
キヌの蒼炎とドレイクの竜巻が戦場を荒らし、ネルフィーの放った魔法矢がカルヴァドスの構成員のみを的確に貫く。
だがカルヴァドスの中には、そんな苛烈な攻撃を防いでいる奴らもいる。特徴からすると【ガーラ】っていうパーティーだろう、確かナンバー3ってネルフィーが言っていたな。
まぁ、キヌ達3人なら問題はなさそうだ。
俺とシンクは頭を狙いに行かせてもらおう。
「シンク、一気に突っ込むぞ」
「承知いたしました」
【雷鼓】と【疾風迅雷】の二重強化をかけると、シンクも【勇猛果敢】と【感奮興起】を発動させ、同時に地面を蹴った。
だが、そんな俺達2人を後ろから追い抜かし、ガルシアへと攻撃を仕掛けた奴がいる。
「シエルか」
「ごめんね阿吽、ガルシアだけは譲れない」
なるほど。シエル達にも譲れない一線ってのはあるんだろうな。
「……もたもたしてっと、俺達が食っちまうからな?」
「うん。ありがとう」
わずか数秒の会話を終えたシエルは、一度軽くジャンプをすると、再びガルシア目掛けて一直線に駆ける。
もちろん【アンブロシア】はこれを阻止しようとするが、そんな野暮なことはさせない。
「わりぃな、お前等の相手は俺達だ」
「本当に貴様らは、何から何まで邪魔をする……」
「先に俺達の邪魔をしたのはお前等の方だろう?」
「……まぁいい。べリオン、前へ。マリルは牽制、クラリーチェはいつも通り回復と支援、私は魔法で攻撃しつつ、盤面を整える」
その指示に無言で動く3人。この動きを見ると、指示を出したのはステッドマンというサブマスターだということがすぐに分かる。
シエルを止めるために同時に動いたアンブロシアの動きは、さすがはウィスロのトップパーティーと言われるだけはあった。
まぁ、悠長に相手に合わせてやるほど俺達も優しくはない。
シンクに目配せをすると、変形巨斧≪怒簾虎威≫を包丁型に変形させつつ、クラリーチェというヒーラー目掛けて足を踏み出す。しかし、それに合わせるようにタンクのべリオンという重戦士がその動線を塞いだ。
「クラリーチェ、5歩後ろに。マリル、ターゲットチェンジ3秒稼げ」
ステッドマンは火属性魔法をシンクへと向け放ちつつ、冷静な口調で指示を出す。
すると、瞬きをした一瞬の間で俺の右側へと移動したマリルが双剣を構え迫る——が、ちょっと殺気を漏らし過ぎだ。
白鵺丸を横薙ぎに抜刀すると、その切っ先が触れる直前でマリルがひらりと後方へ跳ねた。
「っとと、バレてたか~!」
各々がSSランクの冒険者であるのも頷ける。それぞれが役割をこなし、ステッドマンの短い指示を理解して最適解で動いているだけでなく、リスクヘッジも完璧だ。
「マリル、タゲ変更。べリオンはカバーだ」
ステッドマンの通る声が響く。
ほんと、よく喋るヤツだな。
「全部お前の言う通りに動くのな。おままごとかよ」
「体系的かつ効率的……と言って欲しいね」
突然のハプニングに対する対応の早さも、狂った盤面を引き戻す計画性も、確実に勝利をつかみ取るまでの計算も、組み立てられた緻密な戦略も、ここウィスロではコイツらが頭一つ抜けているんだろう。
……でもな。そんな味気ない戦闘なんて反吐が出る程つまんねぇ。
自分たちの能力を8割にして組み立てる戦闘なんてクソ食らえだ。
最高に自分勝手で、脳汁ぶちまける程に能力を開放して戦うからこそ気持ちいいんだろ!!
そして、そんな10割以上に引き出した力を、自然と連携できるのが俺達【星覇】だ。
「シンク、全力出していいぞ」
「承知いたしました、阿吽様」
そう言うとシンクは怒簾虎威を大斧型に変形させ、水属性の魔力を武器へと纏わせる。
今まではあまり水属性の付与は使っていなかったが……
(あー、そういうことな!)
巨斧を地面に叩きつけると、水の魔力を纏った衝撃が地面を砕き、霧のような飛沫が周囲を白く染める。
その一瞬のブラインド。
俺はすかさず雷を白鵺丸に纏わせ、地を蹴った。
次の瞬間、重厚な足音と共にベリオンが咆哮のような息を吐き、巨大な盾を構えてシンクに突っ込んできた。
さすが鉄壁ってやつか。守る事に特化していやがる。だが……
「お粗末ですね。そんな動きでは、何も守れませんよ」
シンクから魔力の奔流が走ると、怒簾虎威を大楯型に変形させ、ベリオンの持つ盾にぶつける。
鈍い音が響き、べリオンの身体が一瞬浮かび上がり、さらにべリオンの周囲を水が覆った。
「まずは一人目だ。【黒雷槍】」
俺はシンクとスイッチし、跳ね上げられたべリオンに向けて闇と雷の合成魔法を放った。
「アガガガががぁぁっ!!」
水で濡れたべリオンの身体に黒色の雷が貫通すると、断末魔のような叫び越えと共に、ゆっくりと巨体がそのまま地面に沈んでいく。
しかし、相手にはヒーラーも居る。もたもたしていると回復されてしまいそうだ。
ならば、タンクの崩れたこの場面で、一気に仕留め切る!
「【祭囃子】」
3重のバフをかけ、一気にステータスを爆上げする。
高鳴る鼓動と、それに比例してブチ上っていくテンション。
――さて、コイツらに“予想を越える現実”ってやつを見せ付けてやるか。
「【雷動】」
右足を一歩踏み出すと、一瞬でマリルの背後を取る。
「……えっ?」
そのまま首筋に手刀を一発入れると、簡単にマリルの意識を刈り取った。
「くっ……クラリーチェ、範囲魔法で回復!」
「指示を受けてから動くのでは、遅いですわよ?」
振り返ると、既にシンクの拳がクラリーチェの腹部を捕えたところだった。
ただ、それはステッドマンの策だったようだ。実力差を瞬時に判断した結果、クラリーチェを囮にして自身の魔法発動を間に合わせようとしたのだろう。
ステッドマンの頭上に紋章のような炎が浮かぶと、周囲の空気が急激に膨張を始める。
「フハハハ!! カルヴァドスに負けはないのだっ!!」
この魔法は恐らく超広範囲に影響を及ぼす類のもの。発動してしまえば敵味方関係なく全てを燃やし尽くしてしまうだろう。それでも『自分が最後に立っていれば勝ち』ってか……。
まぁ――発動、すればな?
「俺達をお前の予測の範疇で捉えようとした時点で、詰んでんだよ。ステッドマン」
次の瞬間、ふわりと空から降りてきた狐の獣人。
【炎姫】の異名を持つ妖女がステッドマンに向けて手をかざすと、頭上の紋章にひび割れが生じ、暴発しかけた炎に自身の蒼炎を纏わせる。
すると、その炎は徐々に龍を模した形に姿を変え、天へと向けて昇っていくと数秒の後に魔力が完全に霧散した。
「わ、私の魔法を……乗っ取った、だと……?」
「ん。その魔法は、これくらい制御できるようになってから使おうね。火遊びじゃ済まなくなるから」
その言葉を聞くと、ステッドマンは両膝を地に付け、力なく首を垂れた。
周囲を見渡せば、まだ戦闘はあちらこちらで続いている。
中でも、ひときわ激しい戦闘が行われている一角は完全に周囲とは隔絶した空間となっていた。
――ガルシアvsシエル。
この【カルヴァドス】と【テキラナ】のクランマスター同士のタイマンが、今回の大規模解放戦の勝敗を決定付けるものになる。
次話は6/13(金)投稿予定です♪




