第264話 モンスタートレイン
響く轟音と立ち上る砂煙。
このモンスタートレインを引いてきていた奴らが離脱石で転移していった事でターゲットはこちらへと変わっている。
魔物の群れに飲み込まれると広範囲魔法は使いにくく消耗戦になることを考えれば、その前にできる限り数を減らしたいところ。ただ、猶予はそれほどありそうにはない。
「っし! とりあえず派手にぶちかますぞ!!」
俺の声にみんなの返事が木霊する。
”派手に”とはいったものの、この場面で俺が取る最善手は闇属性の重力魔法で足止めをする事だろう。少しでもこちらへの到達が遅れればその間に他のメンバーが高火力の魔法で殲滅してくれる。
(まずは【過重力領域】をできる限り広範囲で展開だな)
そう思い魔法を発動させようとしたところで、ドレイクとシンクがこちらを見て笑みを浮かべる。
「兄貴の魔法に合わせるっす!!」
「ドレイク、わたくしの魔法にも同時に合わせなさい」
「シンクねぇさんは相変わらずいきなり無茶な注文するっすね! でも、そのつもりっすよ!!」
傍から見れば諦めて離脱石を使うという選択しかない危機的状況。
にもかかわらず、【黒の霹靂】のメンバーはそれすら心から楽しんでいる。こいつらの顔を見ていると、撤退する事なんか微塵も感じなくなるから不思議だ。
「【過重力領域】」
「【多重落岩】」
「っしゃー!! 【ダウンバースト】!!」
俺の発動した【過重力領域】に合わせ、シンクが上空から数十個の岩を降らせる。
さらにドレイクがシンクと俺の魔法の発動にタイミングを合わせ、風魔法の【ダウンバースト】でその岩の落下速度を大幅に引き上げた。
――ドガガガガッッ!!!!!!
魔物の集団の先頭を走っていた数十体のイビルウェアウルフやゴールデンゲイザーたちがその岩に押しつぶされ、身体と岩が同時に弾け飛ぶ。それだけではなく、飛行しているヒポグリフまでもをダウンバーストの効果範囲に入れ、無理やり【過重力領域】に引きずり込んだ。
「お前等……マジか!!」
「っしゃー!! 上手くいったっすね!!」
「当然です。この場で失敗など許されません」
「アドリブで合わせた俺を、もっと褒めて欲しいっすよ!!」
上級のボスであるアクライレオ戦で見せた2属性の混合魔法の応用だろうが、あの時はあくまでも自分の魔法を掛け合わせたもの。それすら相当難易度は高いのだが、さらに困難な他人の魔法の威力を倍増するように合わせるなんて……こうも上手く合わせられるものなのか。下手したら威力を減衰させかねないが、ほぼ完璧なタイミングで魔法を合わせる事で破壊力を倍増させやがった。
しかも、俺やシンクは何の魔法を使うか伝えてはいなかった。ということは、俺達の使う魔法の中から状況を見て咄嗟に選択肢を絞り、発動を見てから瞬間的にタイミングを合わせたってことになる……。
「ドレイク、無駄口は後にしなさい。次はキヌ様の魔法が来ますよ。……分かってますね?」
「もちろんっす! 今の俺なら完璧に合わせられるっすよ!!」
「ドレイク、私の魔法にも頼むぞ」
「え、ちょ……! ネルフィーねぇさんまで!?」
「フフッ、ゆくぞ。【花葬】」
「ん。ドレイクがんばって。【蒼炎狐】」
ネルフィーの魔法で荒野に花が咲き乱れ、それらが蔓を急激に伸ばして走っている魔物の足を絡ませる。さらに【過重力領域】で移動を制限されたヒポグリフや騎乗していたアークゴブリンスカウターもまとめて絡め取ると、数秒の後にキヌの放った炎の狐がそれを纏めて燃やす。
そして――
「これならどうっすか!! 【ワイドブラスト】」
そこにドレイクの放った突風が吹き荒れ、奥から進んできている魔物をも蒼炎の効果範囲に入れたかと思えば、燃えながら舞い散っている花びらが広範囲に広がり、小規模な爆発が各所で巻き起こる。
「や、やっべぇな!!」
「上出来です。よくやりました。この調子ならば魔物を掃討できそうですね」
「ん。魔力消費も抑えられそう」
「単発では小さな効果の魔法であっても、相乗効果でとんでもない火力になっているな。だが、後ろに控える大物が厄介だ」
「サイクロプスのペアか……」
魔法に対する耐性が高いのか、燃え上がる魔物達を踏みつぶしながら2体のサイクロプスがこちらへと歩みを進める。
しかも、そのうちの1体は特徴的な一つ目に莫大なエネルギーを溜めていた。
「サイクロプスは直接叩く。シンク、サポートは任せるぞ」
「承知いたしました。お任せください」
【疾風迅雷】と【雷鼓】の二重強化でステータスを底上げし、腰に装備した白鵺丸の柄を軽く握り抜刀の構えを取る。
サイクロプスの目からは地面を抉るように一直線に光線が放たれるが、先頭に躍り出たシンクが巨盾に変形させた怒簾虎威に魔法障壁を纏わせ、光線を弾いて軌道を逸らした。
――ドガァァァァァン!!
光線の着弾した後方からとんでもない爆発音が聞こえ、砂を纏った突風が吹き荒れるが、俺の集中力が途切れる事は無い。
「【雷動】」
右足を一歩踏み込むのとほぼ同時に白鵺丸を抜刀、サイクロプスとの距離が瞬時にゼロとなるが、次の瞬間には肉を断ち切る独特な感触が刀越しに伝わってくる。
そのまま白鵺丸を振り切るとサイクロプスの顔面が横一線に切断され、夥しい量の血が噴水のように吹き上がる。
その間にも、もう一体のサイクロプスの目にはネルフィーの放った魔法矢が突き刺さり、溜めていたエネルギーが行き場をなくし爆発。その勢いで倒れ込んできたのは俺が構えている直上だ。
「ナイスアシストッ!!」
再び【雷動】を発動させ、跳び上がりながら弧を描くように白鵺丸を振り上げると、倒れ込んできたサイクロプスの首にスッと刃が入り、そのまま頭と身体を両断した。
これでサイクロプス2体は倒しきれた。それでも、まだまだ危機的な状況は脱したとは言い難い。大物こそ倒せたものの、数はまだまだ多い。
(ここからは消耗戦となりそうだな)
そう考えていた時、ドレイクからの念話が入ってきた。
≪兄貴! 残りは一気に片付けるっす!! 避けてください!!≫
まさかと思い上空を見ると、ブラックドラゴンへと竜化したドレイクが口にブレスを溜めているところだった。
「っ!? おまっ! 【常闇門】、【雷動】っ!!」
慌てて常闇門を展開、ブレスの余波から外れる範囲に出口を作り緊急回避を試みる。
そしてキヌ達後衛が居る場所まで退避すると、空を飛ぶドレイクから放たれた氷と風の混合ブレスが柱のように空から伸び、魔物の集団と共に地面すらも凍結させているのが目に入った。
「あ、あっぶねぇ……」
ドレイクのヤツ、俺が避けきれないなんて微塵も思ってなかったな……。
まぁ避けるんだけどさぁ? もし当たったらとか……、あっ、誰もそんな事考えてない感じ?
うーん、まぁいいや!
「とりあえず全部片付いたな!」
「後は拘束したクズ野郎ですが……、わたくしが簡単に調理いたしましょうか?」
「いや、それだと喋る前に殺しちまうだろ……」
「ん、阿吽。この人の尋問、私に任せて欲しい」
キヌの言葉はいつも通り静かだ。
だが、その声には怒りの感情が確かに内包されており、……その笑みは今放たれたドレイクのブレスよりも冷たいものだった。
次話は5/23(金)投稿予定です♪