第262話 大規模解放戦⑦
~ハイル視点~
今回の大規模解放戦、テキラナがカルヴァドスとまともにやりあうには大きな障害があった。
それは『圧倒的な人数の差』。
メインの戦場となる竜の塔には陣が敷かれ、オーガ街という環境もこちらにとっては不利な条件。なら、この人数差をどのようにして埋めるのか。僕が目を付けたのは上級【獅子の塔】やった。
カルヴァドスは、序列1位として対外的にもその戦力を知らしめるため、『上級・最上級の両戦場での勝利』が最低条件となっている節がある。
そんなら、初戦のぶつかり合いで上級の塔をテキラナが占拠する事ができれば、上級に割く人員の割合を増やしてくることは明白。
さらに、人数を増やし挑んだ二戦目でもテキラナが勝利する事ができれば、カルヴァドスは「今回は上級の塔に戦力を集中させているのではないか?」と考えるはずや。
誰から見ても無謀だと思えるほどの戦力差、上級の塔だけでも奪取したならば、ウィスロ内でのテキラナの株は大きく上がる。逆にカルヴァドスは一部であっても“負けた”事になる。
それを負けたままで終わる事ができないのが、カルヴァドスというウィスロ最強クランや。
十数年にわたりウィスロの頂点に君臨してきたからこそのプライド、それを今回の解放戦では足枷にしてやればいい。
『上級を全力で取りに来たのかもしれない』という疑念が、徐々に思考を蝕んでいく毒となる。ただ、その毒を最大限有効化するためには情報の錯乱が必須条件やった。
そのための開戦初手での情報戦、初手から内通者からの情報の価値を極端に引き下げられれば、なし崩し的に戦況を大きく傾ける事ができる。
ただ一点、今回の作戦の大部分の成功はキュルの戦果に大きく依存する。
キュルがどれだけの成果を出してくれるかで、その後の最上級【竜の塔】での決戦の展開を左右すると言ってもいい。
賭けのような選択やけど、今はキュルを信じて確実に最上級の塔の戦力を削る事だけに集中するしかない……。
と、ここで上級の塔と街に配置していた斥候部隊からの情報が入ってきた。
「急報!! テキラナ上級部隊、塔の奪取および防衛に成功!」
「っしゃあ!! でかしたで!!」
「さらに、カルヴァドス連合の後方支援部隊は負傷者の回復が追いついていないだけでなく、上級10階層では150名近くが麻痺の状態異常で離脱石での帰還すらできていない状況!! しかも、こちらの人的損害はゼロです!」
「え? ……それ、ホンマ?」
「は、はい! にわかには信じられないと思うのですが、全てこの目で見てきた情報です! 加えて、戦果を上げた狐面の男は離脱石で一度街に戻った後、鼻歌交じりでここ最上級の塔に進入。街左側の防衛陣形に一人で殴り込みをかけ、すでに敵の一割を戦闘不能としておりました……」
「ハ、ハハッ……。よ、予定通りやな!」
こちらの最高戦力であるシエルでさえもソロではこんな芸当はできん。シエルはタイマン性能に特化してるってのもあるけど、キュルはよほど対多数戦に特化したスキル構成なんやろう。阿吽さんからザックリ聞いてはいたが……どうしたらソロで150人もを無力化できるんか、全く想像が付かん。
(阿吽さん……、一体キュルにどんな魔改造を施したんや……)
「あの、狐面の彼は本当に何者なのです? それに、あんな化物みたいな戦力どこから見つけてきたんですか?」
「アイツはこっちの切り札や。正体は、まぁこの解放戦が終わったら嫌でも分かるわ。それよりも、今がカルヴァドス連合の本陣を崩す最大のチャンスや! 【ヘビーラム】は転移陣前を死守、それ以外は全員で本陣に突っ込むで!! モヒートさん、この場は任せますよ!」
「おうよ! ここまで来たら、死んでも勝ってこい!!」
テキラナ連合全体に指示を伝え終え、攻勢に転じようとしたところでシエルに肩を掴まれる。
「ねぇハイル、僕もそろそろ本気出していい?」
「……キュルの戦果聞いてウズウズしてんのやろ? でもまだや。シエルにしか出来ん大仕事がある。それまで力は温存しといてもらわなあかん」
「大仕事??」
「ガルシアとタイマン、したいやろ?」
「……いいの?」
「“ウィスロ最強”って言われとる暴君ガルシアを倒せるんはシエルしかおらん。でも、まだ敵本陣にはガルシア以外の【アンブロシア】や【ガーラ】ってトップパーティーやカルヴァドス連合の上位クランがおる。何とかタイマンできる環境にしてやるから、それまでは我慢しとき!」
「うーん、わかった。でも、みんなが危なくなったら僕も戦うから。それは良いよね?」
「そうならんように、頑張るわ」
シエルとは幼少期から長い時間を共にし、その強さは誰よりも理解しとる。『非凡な才能』という言葉で片付けるには天才過ぎる戦闘感と予測不能な連撃。
華奢な身体からは想像も付かん凄まじい破壊力と目で追う事も困難な程の攻撃速度。ウィスロという群雄割拠の街でテキラナが序列2位になれたんも、シエルの功績が大きい。
もちろんカルヴァドスのマスターである暴君ガルシアが強敵であるのは間違いないが、シエルにこそウィスロ最強の称号が相応しいのも信じて疑わん。
なんとか……、なんとしてでも、シエルにはガルシアと一対一で戦わせてやりたい。
キュルの活躍でその為の下地は出来た。
ただ、これ以上キュルにおんぶにだっこって訳にもいかん。
ここからは……僕らが気張る番や。
カルヴァドスの最終防衛陣形、絶対に崩したる!
「おっしゃあ! 行くで、テキラナっ!!」
どうも幸運ピエロっす!!
気付けば……4月8日で投稿を開始して3年が経ってました!!
いやー、時が経つのが早いっ!!
ちなみに、まだまだこの物語は終わりませんw
テンションマシマシで執筆してくんで、末永いお付き合いをよろしくお願いします★
次話は5/2(金)投稿予定です♪




