表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

261/284

第260話 大規模解放戦⑤

 

~獅子の塔 9階層~


 最上級【竜の塔】で戦闘が開始されて1時間後。

 上級【獅子の塔】の9階層でも階層を封鎖しているカルヴァドス陣営と、それを開放せんとするテキラナ陣営の戦いが開始されていた。


 カルヴァドス連合が獅子の塔に配置した人員数は約70名。普段の倍以上の戦力をここにも投入し、上級・最上級の両戦場での完全勝利を目論んでいる。

 それは、圧倒的な勝利こそがカルヴァドスの目的であり、今までもそうしてきた事で解放戦後に次の戦力が台頭してくるまでの空白期間となる数年で更なる物資と人員の強化ができ、盤石と言われるカルヴァドス連合の現体制を作り上げてきたためだ。


 ただ、ここ上級【獅子の塔】はあくまでも副戦場。主戦場である最上級【竜の塔】を攻め落とす事に大きなリソースを割くのが定石であり、過去に起きた解放戦でも獅子の塔への攻撃は主戦場と比べ数段劣るものであった。


 対するテキラナ連合が獅子の塔に攻め込んだのは45名。人員数で1.5倍近くカルヴァドスに劣り、個々の冒険者ランクもカルヴァドスに比べ一段階低い者たちが配置されている。

 それはカルヴァドス側からすれば予想通り、順当に行けばそれほど時間をかけず鎮圧に成功する目算となっていた。


――だが、今回の解放戦はこれまでとは大きく違っている。

 静かに開始された竜の塔での戦いとは対照的に、獅子の塔では既に激しい戦闘が繰り広げられ、開始から20分も経過していないにもかかわらず、カルヴァドス側は約半数が離脱石にて後方拠点へと転移してきていた。


 個々の戦力でも数でも勝るカルヴァドスが何故か押される展開。

 誰もが想像し得なかった現状を作り上げているのは、この戦場で暗躍する一人の蜥蜴人族『キュルラリオ・アガーマ』その男であった。


「くそっ、前線が維持できねぇ!!」


「なんだ……急に足の力が抜けて……」


「くっ! 相手は格下のはずなのに!」


「お、おい! 何かこの戦場に潜んでやがるぞ! 前だけじゃなく後ろも注意しろ!!」


「んな無茶な事できるわけ――、ぐぶっ……毒の状態異常、だと……? 一旦離脱を……」


「前線が崩れるぞ! 今だ!! 一気に押せぇ!!」


 初動、戦闘開始のどさくさに紛れて陣形の斜め後方へと移動したキュルラリオは、ハイルからの指示であった戦闘開始から30分間、味方にすら認知されないレベルでの隠密行動をし、徐々にテキラナが有利になるよう敵に状態異常を与え続けた。


 そして約束の30分が経過した時、キュルラリオは抑えていた力を少しだけ開放する。

 その矛先は陣の後方から支援のために回復や攻撃魔法を飛ばしていた魔導士や癒術師に向けられた。


「今、黒い影が……。え!? 急にどうしたのさ!?」


「おい! 何で倒れているんだ!! 魔力切れか!?」


「なんで仲間に向かって攻撃魔法を撃ってるのよ! 血迷ったの!?」


「いや、おまえこそ何で敵に回復飛ばして……、あれ?」


「戦況が混乱しております! ニ、ニグルスさん! 指示を!!」


 混乱が混乱を呼び、戦略も指示も陣形も……全てが無意味となるほどの混沌(カオス)


 混戦する集団戦闘に於いて、キュルラリオの持つスキル構成はあまりにも絶大な効果だった。

 高水準の隠密状態で後衛に近付き、存在誤認と状態異常のスキルを撒き散らす。ただそれだけで敵は何が起きているのか、何をされているのか、訳が分からないまま崩壊した。


「ダメだ! 一度全員で帰還し体制を立て直すぞ! タイミングを合わせ全員で復帰し、ここを奪取す……ガハッ……」


「あなたが指揮官ですね? 一番後ろだったんで、凄く分かりやすかったです!」


「お、おまえは……?」


「名乗る程の者ではありませんよー、ただのEランク冒険者ですし」


「何を、バカな事を……。つ、次は、その狐面、剥がして、やる……」


「あはっ♪ どうせ攻めて来るなら、この倍の人数は来てくださいね? 歯ごたえが無さすぎるのでー」


 指揮官ニグルスの指示でカルヴァドス側は全員同時に離脱石を砕き、次々に入口へ転移されていく。

 上級の塔、戦闘開始から40分。初戦のぶつかり合いはテキラナ連合の勝利となった。だが、ハイルがキュルラリオに伝えた作戦はここからが本番。


「よしよし、挑発して敵も釣ったし、これで本当に倍くらいの人数が来てくれたら僥倖。倍とは言わなくてもそれなりの人数で来てくれるよね! それにしても、ハイルも本当に性格悪い作戦立てるなぁー。そうでもしないと勝てないって事なんだろうけど……」


 この30分後、回復を終えたカルヴァドス連合は上級【獅子の塔】に追加戦力を投入し再度アタックをかける。その中には最上級【竜の塔】に配置されていたSランクパーティーもこの追加戦力に加えられていた。


 それがハイルの術中であった事をカルヴァドスが知るのは、まだ先の事であるのだが……この上級での二回戦目、それは作戦を立てたハイルですら予想だにしない結果となるのだった。


次話は4/18(金)投稿予定です♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ