第257話 大規模解放戦②
小高い丘から街の入口へと繋がる街道を歩いていくと、徐々に道幅が広くなっていき、それに伴ってオーガ街の建物のデカさが直接的に分かってくる。
建物の大きさは人族のものと比べて3倍強。大通りの道幅は広いためパーティー単位での戦闘でも戦いにくさを感じない程だ。
ただ大規模解放戦での進撃を想定するなら、この大通りは見通しが良すぎる。周囲には遠距離主体のアーチャーや魔導士が隠れられる建造物が多く、正確に奇襲を予測するのは苦労する事だろう。さらに突然建物の中からオーガが飛び出してくることを考えたら街中での戦闘は防衛側であるカルヴァドスが有利な地形って感じだな。
街の中に入るとまるで自分の身体が縮んでしまったのではないかと錯覚を覚え、その違和感から心が落ち着かない感覚に囚われる。これを作ったダンジョンマスターはホント良い性格をしてやがる。
一方、防衛陣形を形成しているであろうカルヴァドス連合は俺達が街の中に入っても動く気配は見せない。
「……うーん、やっぱりカルヴァドス側は俺達をスルーするっぽいな」
「そのようだな。こんなに堂々と街に入ろうとしてるのに陣形を崩す素振りはない」
「ん。でも警戒と観察はしてる。たぶん、奥で陣取ってる本隊に私たちの行動は魔導具で連絡も入れてるはず」
「何か気持ち悪いっすけど、こっちが攻撃されなければ何も問題ないっす! というか、オーガは街からあまり出ようとしないんっすね!」
「逆に言えば街中はオーガの楽園になってる可能性が高いけどな! っと、んなこと言ってたら早速オーガの集団がお出ましだぞ」
街に入って少し進むと、路地裏や建物の中からスローターオーガが5体大通りに姿を現した。【探知】スキルを使ってみると他にもあらゆる建物の中にオーガらしき気配があり、一回の戦闘は短時間で終わらせられなければ、戦闘音に反応して次々と魔物が湧いて出てくることになってしまう。シンプルだがダンジョンを攻略する側としては結構面倒くさい仕掛けだ。
恐らくこの一階層オーガ街の攻略方法は、できるだけ魔物に見つからず街を抜け出すこと。所謂『かくれんぼ鬼ごっこ』をコンセプトとしてるのだろう。その鬼役となるのがAランクの大鬼種ってのは随分洒落が利いているが……、そこはさすが最上級ダンジョンと言ったところ。1階層から景気が良い。
まぁ、大量に魔物が出てくるならば俺達にとってはレベル上げにはちょうどいい……と言いたいところだが、今回はレベル上げよりも攻略を優先したい。
「まずはわたくしがヘイトを稼ぎます! ドレイク、サポートは頼みますよ」
「うっす! 任せてください!!」
思考の海に沈みかけていると、俺が指示を出すまでもなくシンクとドレイクが動き、その動きに合わせてキヌも魔法での攻撃態勢に移る。
ネルフィーに関しては周囲の警戒をしつつ、家屋から出てこようとしている魔物を即座に大ダメージを与えるべく弓を引いている。
なら俺も、殲滅速度を上げるために前衛に加わるとするかな。
「っしゃー! 暴れるか! 【雷鼓】、【疾風迅雷】!!」
4体のヘイトを同時に受け持っているシンクが怒簾虎威を大盾にし、的確に防御とパリィで敵をいなす。それとほぼ同時、体勢を崩した1体のスローターオーガ目掛けてキヌのフレイムランスが突き刺さった。
俺はその横をすり抜け、両手で大斧を振りかぶった個体の胴を目掛け白鵺丸を抜刀一閃。2重強化で結構ステータスを上げているが、これで絶命していないのはさすがAランクの大型魔物だ。それでも動きを大きく制限できるだけのダメージは与える事ができている。
振り返ると、ネルフィーが放った魔法矢がシンクを狙っているうちの1体の左膝に突き刺さり攻撃モーションをタイミング良くキャンセル。その隙にシンクは怒簾虎威を素早く大包丁型へと変形させ、残り1体の両手両足を付け根で切断、達磨のような状態にさせた後、頭部を峰の部分でカチ割り絶命させた。
こちらの方は問題無しと判断しドレイクの方を見ると、赤鬼の金棒に二重属性付与をしてスローターオーガを殴りつけ、頭部を陥没させているところだった。
戦闘開始から全ての敵を倒しきるまで約30秒。上手くパーティーでの連携もできているし、ネルフィーが周囲を警戒しつつ、かなり余裕を持たせて対応できていた。もし追加で魔物が出現しても殲滅速度が出現速度を下回る事はなさそうだし、問題ない。
ちょっとシンクに負担が大きい状態であったため、俺とドレイクがもう1~2体のヘイトをもらって対応した方がより安全かもとは思ったが、シンクが多少無茶をできるのはキヌの回復魔法を信頼しての事だろう。
「1階層は5~6体の集団で魔物が出ても問題なさそうだな」
「ん。MP消費はこの3倍くらい魔法を使っても大丈夫。シンクは負担大きくなかった?」
「わたくしは問題ありません。余裕があったので防御に徹さずパリィやカウンターを狙う事も出来ておりました」
「ネルフィー、周囲の魔物は?」
「2体ほどこちらへ向かってきているがどうする? 敢えておびき寄せてもいいが」
「うーん、今は先を急ごう。レベル上げは2階層以上でもできそうだし、何より大規模解放戦に巻き込まれるのは御免だからな。それに今日中に5階層くらいまでは進んで安全地帯を探しておきたい」
「であれば、この大通りを直進していくのが街を抜ける最短ルートだろう。我々の殲滅速度ならば動きながら随時撃破でも問題なさそうだ。後方も含めた周囲の警戒はしておく」
「うっし、じゃあ少しペース上げて進むか!」
「「「「了解!」」」」
そこから出てきた魔物を倒しつつ大通りを進んでいくと、1時間ほどで街の端が見えてきた。その先には大きめの遺跡跡のような崩れた建造物と、それを囲むように陣を張るカルヴァドス連合の集団を目視する。ぱっと見だけでも100名を下らない数が居るということは、あの遺跡のような場所に2階層への階段があるのだろう。
この1階層全体を俯瞰で見れば、街を囲むように各部隊が配置され、街を迂回するルートには要所に陣を張っているような状態。
既に迎撃態勢は完成しているってことだ。
ここまで手出しをしてこない事を考えれば、俺達とは事を構えるつもりはなさそうだが……さてさて、カルヴァドスの首脳部はどんな対応をしてくるのかな?
次話は3/28(金)投稿予定です♪