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第255話 テキラナ連合緊急会合②

 

 これまでとは纏う雰囲気や声のトーンを変えたハイルが、ゆっくりと口を開く。


「皆さん、何か勘違いしてません?」


「なに……?」


「……これは、戦争ですよ? 少しでも勝算を高めるために自分たちがやれることを全てやるのは当然でしょう? これを聞いた上で我らテキラナを信用できないなら、参加しないという選択をしてもらっても構いません。ただその場合、この解放戦に我らが勝った後の利権分配の権利も放棄したとみなします」


「質問、良いかい? ウチらのような癒術師クランは前線で積極的に戦えるようなメンバーは少ない。だから必然的に後方支援を担当する事になるが、それでも利権の分配時に文句は言われないんだろうねぇ?」


「もちろんです。前線で戦闘を行うだけが参加ではありません。後方支援というと一見安全で楽なように感じるかもしれませんが、その分消費するポーション類の量は多くなり、金銭的な負担も魔力的な負担も大きくなりますからね。ですから、クラン『メルツェン』さんのように後方支援や負傷者の回復に徹するというのも立派な参加方法となります。もちろん分配に関しては適正に行わせていただきますよ」


「我々のクランはそこまで高ランクの者はいない。そうなると必然的に上級の塔に割り振られるわけだが、それでも構わないのか?」


「そうですね。上級の踏破歴があれば問題ないです。もちろん利権の分配に関しては危険度や参加人数、貢献度に応じたさせてもらいますけどね」


「そもそも勝てなきゃ大赤字じゃねぇか。それに、大っぴらにカルヴァドスに噛み付いて、もし負けたら、報復されることも視野に入れなきゃならねぇ」


「そうですねぇ。ですが、そんなリスクを抱えても今動く必要があるのは分かっていますよね? カルヴァドス連合に利権が集中している現状を打破できなければ、第二勢力や第三勢力は緩やかに衰退していくだけです。もちろん、それでも良いと言うなら不参加の意思を示してください」


 うん、ここまでだな。こうなってしまえば、あとはハイルの独壇場だろう。

 さっきハイルが一瞬口角を上げたのはこの流れを予想して……だけじゃない気もするが、まぁそれはキヌでもなければ今すぐ分かる事じゃない。

 

 いずれにせよこの流れであれば恐らく、ここに参加した8割以上のクランが参加を表明する。

 と、ここまで考えてふと思った。


(あー、やっぱりテキラナ以外の奴等とは合わねぇな)


 カルヴァドスに勝ちたいと思っているのは全員同じなのだろう。

 ただ、その根底にある“勝ちたい理由”は様々だ。


 利権が欲しい、勝った後の連合内での地位を下げたくない、クランが衰退しないためにやむを得ず、負けたとしてもある程度の実力と実績があればカルヴァドス側から声がかかるかも……。

 この中で「今よりも強くなるために最上級の塔を開放したい」と考えているのはシエルやハイルを除けば片手で数えるほどしかいない。


「んじゃ、俺達の用は済んだから帰るわー。シエル、【星覇】としては大規模解放戦を不参加(・・・)って事でよろしく。あっ、ただ同じ日の朝から単独で竜の塔の攻略を始めるつもりだから、もしカルヴァドスが突っかかってきたら、そいつ等再起不能くらいにはしておくわ」


「待て待て待て! 単独でカルヴァドスとやり合うって頭イカれてんのかよ!? というか、お前等はテキラナの連合なんじゃないのか!?」


「うん? 違うけど? 俺達はどこにも属していないし、今後属する気も一切ない。……ってか、お前誰だよ?」


「……俺は【ヘビーラム】のマスター、モヒートってモンだ! じゃあなんでお前等はこの場に呼ばれてんだ!? それに情報の漏洩って点ならコイツ等が一番怪しいだろうがよ! おい、シエル! お前もこの連合の頭なら黙ってないでなんか答えろ!」


 矛先を向けられたシエルはというと、キョトンとした顔でさも当然のことを答えるかのように言葉を紡ぐ。


「……星覇が僕らに協力してくれる確率が1%でもあるなら、その可能性を手繰り寄せようとするのは当然でしょ? 阿吽達にはそれだけの価値がある。それに、阿吽達が情報を漏らすなんてダサいこと、するわけないじゃない?」


「俺達は星覇とかいうクランの事も、この阿吽って男の事も知らねぇんだ! 金に目がくらんで情報をカルヴァドスに売る可能性も――」


 モヒートがそこまで話した時、俺の背後に居るシンクから強烈な殺気が放たれた。


「おい、羽虫野郎……。黙って聞いてれば好き勝手言いやがって……。これ以上、阿吽様を侮辱するなら引きずり回してミンチ肉にするぞ」


「い、いや……、侮辱する気は……」


「そもそもだ、わたくし達【星覇】が、どこにも属さずに最上級の攻略を行おうとしているのは何故か……、そんな事が分からないほど、お前の頭はゴブリンなのか?」


「シンク、その辺にしとけ。それに、口調崩れてるぞ?」


「あっ、その……申し訳ありません! わたくしったら、ついカッとなって……」


 シンクが強烈な殺気を放ったのは俺を侮辱されたからという理由が一番なのだろうが、天井裏から同じように殺気を放ったキュルの存在をバレないようかき消すためでもあったのだろう。


 シエルは涼しい顔をしているが、ハイルは「やっちゃったかぁー」と言った表情を滲ませている。まぁ、場の空気を乱しちまったが、この後の事はシエルとハイルに丸投げしよう。


「まぁいいや。ってことで、俺達は帰るから。後よろしくなー!」


「ホンマ、阿吽さんはブレへんなー。まぁ、僕らで全部終わらせとくんで、高みの見物でも決め込んどいてくださいな」


「……うん、阿吽。カルヴァドスやっつけたら、今度は本気でケンカしよーね」


「おう! んじゃ頑張れよ!」


 含みのある笑みを浮かべるハイルと、純粋に裏表ない言葉を紡ぐシエル。

 2人が2人とも欠片も負けることなんか考えていない。……ホント、コイツ等だけは最高だわ。


 ただ、ネルフィーからの情報ではカルヴァドスもかなり本気(ガチ)で迎え撃つ準備をしている。戦力や人員数、物資の潤沢さもテキラナ連合とは比べ物にならない程だと考えると……。

 やっぱり、カギを握るのはキュルって事になりそうだな。



次話は3/14(金)投稿予定です♪

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