第254話 テキラナ連合緊急会合①
~ウィスロ二番街~
夜も更け、街の明かりも疎らとなった頃、俺とシンクはテキラナのクランハウスの前に到着していた。
「……阿吽様」
「あぁ、見張られてんな。三つ先の路地に隠れてる奴が2人……、十中八九カルヴァドスの構成員だろ」
「片付けますか?」
「いや、泳がせておいておいた方が良い。俺達が目立てばキュルが潜みやすくなるからな」
「承知いたしました」
俺たちが敢えて正面から堂々と入ることでカルヴァドスの斥候だけでなく、シエルやハイル以外の第二勢力に加勢しているクランの視線誘導や思考誘導もできるだろう。
キュルの情報は存在自体も含めてトップシークレットとしておくことはシエル達とも事前に談合済みだ。不確定要素となることが最大の戦果を上げるための大前提である以上、味方に対しても秘密にしておく必要がある。
「おーい! 来たぞー!」
「ちょ……、阿吽さん声大きいです!」
数回ドアをノックしながら大きめの声を出すと、テキラナのクラン員が入口の鍵を開け、素早く中へと引き入れてくれた。
「わりぃわりぃ、呼び出しの時間と場所は知らされてたから、てっきり鍵は開いてるもんだと思ってわ」
「極秘の会合ですので、あまり目立たないようにお願いいたします」
「あぁ、気を付けるよ。そんで、その話し合いってのはどこの部屋でやるんだ?」
「二階の奥の部屋です。皆様お揃いですので、すぐにご案内いたしますね」
冒険者としては小綺麗な身なりをしている女性に続き、シンクと共に階段を上っていき突き当りの扉が開かれると緊張感漂う雰囲気に身が晒された。
そこに座っている面々は目だけでこちらを確認すると、驚愕・期待・不安・疑念・無感情などそれぞれが異なった反応を見せる。
この感じからすると、テキラナを中心とした第二勢力だけでなく、今まで中立を守っていた第三勢力のクランマスターなども呼ばれているのだろう。テキラナは今回の大規模解放戦に命運をかけており、やれることは全てやってやろうという気概と、形振り構っていられない危機感めいたものが感じ取れる。
長机を向かい合わせて作られた会議室の上座に座っているのはシエルとハイル。
シエルは相変わらず何を考えているのか分からない表情をしており、ハイルは俺達を出迎えるフリをしつつ近付き、小声で話しかけてきた。
「阿吽さん、待ってましたよ。来てくれへんのやないかってちょっとソワソワしてましたわ」
「まぁ、全くの無関係ではないしな。あと、“例のアレ”は何とか間に合ったぞ」
「ホンマですか!? いや、一体どんな魔法をつかったんですか……。ということは、ココに?」
「あぁ。上手く隠れてるな。あ、それと俺達が手伝うのはここまでだぞ?」
「やっぱりそうなんですか……。まぁ、仕方ないですね」
周囲のメンバーには聞こえないようにキュルがココに潜んでいる事を伝えるついでに、俺達の立ち位置も明確にしておく。
周囲には気取られないよう誘導されながら空いている席まで移動し椅子に着席すると、シンクは俺の後ろで立っている状態で静止した。あくまで従者という立ち位置に徹しているのだろう。
ハイルは自らも一度着席し、一呼吸置くと再び立ち上がって会議の開会を宣言する。
「皆さん、夜更けにもかかわらずお集まりいただき、ホンマ感謝します。今日ご参加いただいた方々はほとんどの方が面識あると思うんですが、ウィスロに拠点を構える各クランの中枢を担う方々です。ただ時間もそんなに無いんでみなさんの紹介は省かせてもらって、さっそく本題に移らせていただきます」
予想していた通りここに居るのは各クランのマスターやサブマスターたちのようだ。
冒険者ギルドに何度も出入りしていた関係で、ここに居るメンツは俺達の事も把握している様子を見せている。
「最初に、決行当日の簡単な全体像をお伝えするんで、今ココで、最終的な参加の有無を決めてください。これは作戦の漏洩を避けるためなんでご了承願います。まず、作戦の決行日は3日後の正午からで決定です。詳しい作戦に関しては、前日の夜に皆さんにはお伝えさせていただく事になるんですが、最上級【竜の塔】と上級【獅子の塔】の封鎖階層を同時に攻め込みます」
「ちょっと待て。しっかりした人数も決まっていないのに作戦や人員配置なんか考えられるのか? それに同時攻撃って……その作戦は勝算があるものなんだろうな?」
「そうですね。まずですが、ある程度の参加・不参加の意向は把握済みです。勝算に関してですが、かなり高いと考えてもらって構いません。もちろん、不参加を考えているクランが参加に回ってもらえたらもっと勝率は上がりますけどね」
「作戦が前日の夜にしか伝えられないんじゃ、どうやって物資の準備をするんだ? 簡単に集まらない物だってあるんだが?」
「クランごとに抱えている人員や参加人数は異なってきますんで、前もって準備をしてもらう物品のリストはお渡ししているでしょう? それに、物流の流れから各クランがどれくらい物資を準備してくださっているのかも、ある程度把握済みですよ」
「チッ、参加の意思があるかどうかも、それで把握してたってか? 仲間に対してちょっと信用がなさすぎなんじゃねぇの?」
「そうだな。これから一緒に戦おうという仲間を事前に調べ上げるというのは、いかがなもんかねぇ……」
「みんなの言う通りだ! そんな事をする必要はあったのか!?」
敢えて包み隠さず各クランの準備や参加の意思を調査していたと伝えるハイル。そして、それを聞いた途端会場内に溢れる反発の声。
これは悪手だったかとも思ったが……この腹黒野郎がそんなヘマを冒すとは思えない。
そんな事を考えていると少し間をおいてハイルが口を開いたが、その直前僅かに口角が上がったのを俺は見逃さなかった。
本日、3/7(金)に『ゾンビ無双』の漫画第2巻が発売となりました!!
2巻ではシンクが遂に登場!
スタンピードのバトルシーンも迫力満点♪
もうテンション上がってヘドバンが止まらないですよ!笑
ということで、本日は昼12時にもう一話追加投稿しちゃいます!!
サプライズ投稿も喜んでもらえたら嬉しいです♪