第253話 弟子の成長②
「っし、っと。こんなもんかな?」
「あ、ありがとうございます! 僕と師匠の間にこれほどの力の差があるとは思ってもみませんでした。まさか30秒で5回も殺されかけるとは……」
「まぁ、しゃーねぇよ。今回はキュルの圧倒的な弱点を教えるためのものでもあるからな」
「僕の圧倒的な弱点……」
「あぁ。もう自分でも分かったんじゃないか?」
「……はい。絶望的なステータス差がある相手には正攻法では成す術がない、という事ですね」
「そうだな。俺のように重複して身体強化ができるヤツはほんの一握りだろうが、決してゼロじゃない。しかも、運悪くそんなヤツと対峙した時、キュルの取れる行動はすべて敵の後手に回っちまう。ただ、これはそんなすぐに解決できるものでもないからな。これから時間をかけて身に付けて行く必要があるわけだ」
「武器の扱いも含めて、ここから先は技術やスキルの鍛錬にシフトしていく段階という事ですね。それに、大規模解放戦には間に合わないと……」
「その通りだ。まぁ、今のうちに自分の解決すべき課題が見えていて努力を続けていけば、今後確実に強くなれる。だが、大規模解放戦では慎重に立ち回った方が良い。」
「そういうことですねっ! わかりました!」
「よし、んじゃ今日はそろそろ宿に戻るとするか。キュルも孤児院に帰るなら、怪しまれないように数日帰らなかった言い訳は考えとけよー」
「承知しました!」
「あっ、ちょっと待て。キヌから念話だ」
キュルとの密会を終え帰ろうとした時、キヌから念話が飛んできた。
≪阿吽、宿に戻ったらハイルからの手紙があった。『今日の深夜、宿から見て月が時計台の直上に来る時間に、キュルを連れてテキラナの拠点に来て欲しい』って≫
≪いよいよ、か……≫
≪ん。私たちも一緒に行く?≫
≪いや、恐らくテキラナ陣営の動きはカルヴァドス側も察知してるだろ。キュルだけは怪しまれないようにしてやりたいけど、5人で向かうってのはわざとらしすぎる。俺が目を引きつつ上手く立ち回るよ≫
≪……阿吽、優しい≫
≪いや、だってさ。こんだけ頑張って準備してきたんだ。キュルにはちゃんと華は持たせてやりたいだろ?≫
≪ん、わかった。でも一応、シンクだけは連れて行って。何かあってもシンクが居れば安心できるから≫
≪んじゃ、そうするか! まぁ上手い事やってくるわ≫
今日の呼び出しは、おそらく大規模解放戦に関する打合せ、もしくは決行日などの伝達だろう。あとは、星覇をテキラナ陣営に引き入れたい目論見もありそうだな。
ただ、俺達はどこの派閥にも属するつもりはない。
成り行きでテキラナのクランハウスには何度か足を運んでいるが、大規模解放戦に参戦するつもりは毛頭ないし、それはシエルやハイルにも伝えてはある。俺達の弟子であるキュルがシエル達と同じ孤児院出身であり、キュルの気持ちとしてテキラナ陣営に協力したいと考えているだけで、それはあくまでキュル個人の問題だ。
まぁ、キヌにも言ったがキュルに華を持たせてやりたいという気持ちはあるから、最高のパフォーマンスを発揮できるようにお膳立てはしてやるつもりだけどな。
「キュル、今夜テキラナの拠点で会合があるみたいだぞ」
「ついに、大規模解放戦が始まるんですね」
「だな。恐らくカルヴァドスにもこの情報は察知されているだろうから、キュルは自分の存在をテキラナ陣営にも悟られないくらい完全防備で隠密に徹して参加しろ」
「はい、わかりました! でも、シエル達にも僕が参加している事を知らせなくていいんですか?」
「俺宛ての書置きの内容からシエルやハイルはキュルが参加するのは分かっているはずだから、それは気にしなくていい。恐らく俺達の動きも頭の回るハイルならある程度予測するだろうしな」
「そういうことですね! 分かりました!」
「あと、もし隠密行動を看破された時の事を考えて、テキラナのクランハウスに潜入する時は和面の装備だけじゃなく、特徴的な尻尾は切り離していった方が良さそうだな。一応バレずにテキラナのクランハウスに入れるようなお膳立てはしてやる。その先は自分で何とかしろな。俺達が協力できるのはソコまでだ」
「承知しました! 師匠……本当にありがとうございます!」
「礼は大規模解放戦が無事終わってからで良い。今まで積み上げてきた努力の成果を、存分に発揮して来い!」
「はいっ!!」
次話は3/7(金)投稿予定です♪