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第249話 キュルの課題と上級攻略④


~キュルラリオ視点~


 上級【獅子の塔】40階層。そこにはSランク上位の魔物である『アクライレオ』というボスが居る。


 一般的な攻略の目安となる基準はSランク1パーティーでも討伐しきるまでに1時間以上かかると言われており、それは師匠たちでも当然のように知っている情報だろう。

 ただ、ドレイク師匠がこの災害のような魔物を5分足らずで倒しきったことで、そういった価値観がぶっ壊れてしまわれたのかもしれない。


「いや、違うな。阿吽師匠が相手の強さを見誤るなんて事はあり得ない!」


 ってことは、Sランク5人で倒しきるまでに1時間以上かかる魔物でも、僕の力を全て出しきればソロでも1時間以内に討伐は可能であるという事。もしくは、「そのステージにまで上がって来い」という激励であるとも捉えられる。


「そうだ! 師匠ができると言えば、ただの砂を金に変える事も不可能な事ではない! となれば、僕の能力はまだまだ伸び代があるって事になる!」


 と、ここで疑問が浮かぶ。

 1時間という制限時間を設けた理由はなんなのだろうか?

 それこそが、僕に足りない部分なのだろう……。


 敵を殲滅しきるだけの攻撃力?

 1時間継続して戦う事ができる体力やMP管理?

 攻撃を当て続けられるだけの命中力や集中力?


 全部必要に感じる……。

 というか、敵からの攻撃を食らえば、その分討伐にかかる時間も増えてしまうよなぁ……。

 ってことは、相手の攻撃を避けながら、もしくは防御しながらも攻撃を続けられる能力……?


「うーん、あっ! 分かっちゃったかも、しれない」


 どちらにせよ、これ以上悩んでいる時間もないし、今できる準備は全て終えている。

 それに、よく分からないが何故だか“何とかなる”という根拠のない自信が芽生え、衝動のまま40階層へと続く扉を開いた。

 すると、朝焼けの眩しさが一瞬視界を遮り、目が慣れた数秒後に巨岩が乱立する平原が視界に飛び込んできた。


「やっぱりそうだ。この環境なら……僕が圧倒的に有利に立ち回れる」


 まずは、ボスと対峙する前の準備として尻尾を切り落とし、球数を増やす。それらすべてに【毒攻撃】や【麻痺毒攻撃】の状態異常付与をするスキルをかけた。ここまではいつも通りの流れ。

 ここからバフスキルでステータスの底上げをし、ポーションでMPを回復させる。


「初手が一番肝心だ。どこまで一方的に攻撃し続け、体力を削れるかで制限時間の1時間が達成できるかどうかの境目になるだろう」


 今回ボス戦で重要となってくるのは、恐らく師匠が僕に課していてた課題の一つ、“魔法障壁”だろう。

 ここまでの道中で、その魔法障壁を応用し僕オリジナルの効果を付与させた。


 それは、纏った障壁の色を変化させるという単純なもの。


 だが光の反射を利用し障壁を変色させる僕の『迷彩障壁』は、周囲の景色との保護色としての役割を担う事ができるだけでなく、【存在誤認】との相性も抜群に良く想像以上の相乗効果を得られている。


 この迷彩障壁は、師匠からのアドバイスで読むようになった魔物図鑑の、とある(・・・)魔物を思い出して参考にしたものだ。

 その魔物は『カメレーラ』。それほど攻撃力や防御力、素早さなどの特化した部分はないものの、Bランクと比較的高ランクに分類される。その理由としては、体表の色を周囲に合わせて変えられる高い擬態能力にある。説明欄にも索敵ができるスキルを持っていない場合、擬態に騙され被害に遭う危険性が高いと記載されていた。


 爬虫類系統という共通点もあり、何故かシンパシーを感じて覚えてはいたけど、今の僕ならば、その擬態能力を十全に発揮すれば、ダンジョン攻略だけでなく高ランク冒険者との対人戦闘でもアドバンテージを取れるという事にもなる。


 これに隠密(ハイド)マントと隠蔽の黒狐和面の装備を組み合わせれば、“オーガに金棒”、“タイガーに翼”、“ドラゴンに翼を得たる如し”というヤツだ。


「さーて、楽しい楽しい……課題の時間だっ!!」


 自身の周囲と切り離した6本の尻尾に迷彩障壁をかけ、巨岩伝いに移動していくと、拓けた広場の中心でアクライレオが待ち受けていた。

 獅子の頭にオーガのような胴体、背中には鷲のような翼が生えており、2対4本の腕には巨大な武器が握られている大型の魔物。

 ネックとなるのは高い耐久性と空中を高速で飛び回る部分だ。


 だが、接敵直後に関しては話が別。アクライレオにこちらが感知されていなければあの広場から動く事はない。これが大ダメージを与える最大のチャンスなのは言うまでもないが、普通の冒険者は近付くだけで感知されてしまうし、隠密行動が得意なシーフならダメージを与えられるが、パーティーの陣形が崩れてしまうリスクもあるし、戦局を左右するほどの大ダメージを与えられる者は少ないだろう。


(でも、ソロの僕にそんな事は関係ない)


 出来るだけ足音と気配を消し、巨岩を利用しながら敵の風下に移動すると、都合よくバックアタックとなった。


(初っ端から全力だ! 悠長に待機している背後から特大のをお見舞いしてやる!)


 硬化と毒攻撃、麻痺毒攻撃の効果を付与した6つの尻尾を遠隔操作し、高速で回転させアクライレオの大きな背中目掛けて全力で放つ。

 風切り音に反応し、アクライレオは避ける体勢を取りつつも2つの尻尾を叩き落とす。だが、残り4つの尻尾は避けきる事ができず、左腕のうち1本と片翼に命中した。


(麻痺は入らなかったか……。でも、傷口の変色具合を見ると毒の状態異常は入っていそうだ)


 ここで油断してしまうのが、これまでの僕だった。しかし、そんな甘っちょろい思考は己の身を危険に晒すだけだとこのダンジョンで痛いほど思い知らされた。

 今回は初撃後の行動も決めている。


 まだ僕の位置はバレてない。となれば僕のターンはまだ終わっていないということ。

 素早く移動しつつ、無事な尻尾を操作し攪乱を図る。さらに追加で尻尾を切り落とし、存在誤認をかけ、次の攻撃のための準備を行う。


 ダメージを受けたにもかかわらず、僕を見つけられないとなれば、アクライレオは感覚を研ぎ澄まして敵を必死に探しているだろう。それを逆手に取る。


 存在誤認をかけた一本の尻尾を、敢えて風上の巨岩の影に配置して隠す。

 すると、匂いに反応した敵は思った通りそちらに向けて全力で駆けていき攻撃を仕掛けた。


(今っ!!)


 攻撃を仕掛ける瞬間、それが一番防御を疎かにしてしまうタイミングだ。

 その隙を確実に突いていく。


(千載一遇のチャンス、この場で狙うべきは、足と翼だ!!)


 アクライレオの攻撃のタイミングに合わせ、迷彩障壁で隠した尻尾の4連撃。それらを翼と片足目掛けて放つと、轟音とともに立ち上る砂煙がアクライレオの姿を隠した。


 しばしの間生じた戦闘の空白。ゆっくりと晴れていく砂煙に合わせ、再び目視できた光景は二つの意味で僕を驚かせた。


 僕の攻撃がヒットしたであろう部分には思ったほどのダメージは与える事ができておらず、逆にアクライレオの攻撃した場所は巨岩ごと空間が吹き飛ばされたのではないかという抉れ方をしている。


(……これ、アクライレオの攻撃が直撃したら、僕ワンパンで死ぬんじゃ??)


次話は1週間空けさせていただき、2/7(金)に投稿の予定です♪

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