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第248話 キュルの課題と上級攻略③

 

~キュルラリオ視点~


「ぬへへぇー、最高に気持ちいいっー!!」


 やってやった! 傷は負ってしまったが、Bランクの魔物を同時6体狩り切った!!


 師匠たち【黒の霹靂】のメンバーであれば、これくらい普通にやってのけるだろうが、一般的な指標からするとたとえAランクの冒険者であっても同じ状況であるならば、ほぼ確実に離脱石を使うだろう。それほどに乗り越えたこの状況は致死率が高かった。


 今回の選択は無謀に近い挑戦であったのは自覚している。だからこそ『壁を乗り越えた』という実感が脳を震えさせ、脳汁全開で快楽物質が全身を駆け巡っている感覚に満たされているのもまた事実だが……。


「おっと……、『戦闘終了後は振り返りをしろ』と阿吽師匠も言っていた。アヘアヘしている場合じゃないな」


 今回一番ピンチだったのはレッドゴブリンの3体同時奇襲。あの場面で咄嗟に防御が出来ていなかったら、戦況は一気にあちらに傾いていた。

 あの時の感覚はまだ体が覚えているし、今すぐ練習して定着させる必要があるな。


「というか、アレって魔法障壁……だよね?」


 今まで全くと言っていいほど出来なかった魔法障壁。その特性や開花の方法は人それぞれ違うと師匠たちも言っていた。

 たとえば阿吽師匠は“攻撃型魔法障壁”と呼ばれるものであり、ドレイク師匠は2重属性の障壁を使っている。シンク師匠は魔法障壁をセンサーにしたカウンター型の魔法障壁、ネルフィー師匠やキヌ師匠に至っては障壁を分身技術や技巧に組み込んでしまってすらいる。

 今なら、その凄さが改めて分かる。僕が土壇場で成功させた魔法障壁は言わば基礎。師匠たちはこの基礎にオリジナリティーを加えて自分の戦闘スタイルに合ったものへと昇華させている。


「まだまだ伸びしろがあるって事ですね」


 まずはこの基礎を定着させて、そこから僕の戦闘方法に噛み合ったものへと応用するまでが、今回阿吽師匠から課せられた課題ということだろう。


「僕の得意なスタイル……やっぱり不意打ちや暗殺系? 多対一での戦闘スタイルも確立する必要があるよなぁ。あっ、そういえばっ……」


 そこで以前、ネルフィー師匠が言っていた事を思い出す。


『これは私の考えだが、強者と呼ばれる者は大きく3つの種類に分けられる。自分の得意を相手に押し付け続けるタイプ、相手に得意な事をさせないタイプ、その両立をバランスよくするタイプだ。分かりやすく言えば、前者が阿吽やドレイク、二番目は私やシンク、両立型はキヌだな。キュルラリオの完成系はキヌのような両立型が合っていると考えている。……が、そうなるとまずは自身の苦手な事を克服する必要があるわけだ』


 今回の戦闘で実感した自分の苦手。

 それは視野の狭さと予測の不確かさ……もっと言えば実戦経験の少なさだ。「多対一でこそ輝く」と言っていただけた僕の能力、それもこれらを伸ばせばさらに強固なものになるはず。

 それに、認めざるを得ないのは戦闘中の注意力の欠落。高揚感に取り込まれ過ぎて、一瞬と言えど周囲の把握を怠ってしまった。瞬く間に変化する戦闘環境や敵の位置を見失ってしまった事がピンチを招いたそもそもの原因。阿吽師匠のように興奮と冷静さを両立するのは至難の業だということも実感できた。


「欠点の克服と長所の研鑽に必要なのは……やっぱり実戦形式での反復練習、かな?」


 ここ上級の塔1階層であれば、基本的な魔法障壁を確実に使いこなしながらも多対一の戦闘を繰り返す事ができ、街に戻ってポーション類の補充をするにも、タイムロスがかなり少ない。キリングレオやレッドゴブリンの戦術も人間のソレに近いものがあるし、倒した時の経験値も美味しい。

 それに、1階層でこんな状態だと、師匠たちが言っていた10階層の沸き部屋じゃあ、どう足掻いても撤退する未来しかない……。


「よし、最低3日間はこの1階層で鍛錬を重ねよう!」



◇  ◇  ◇  ◇



~14日後、上級の塔39階層~


「グギャギャ……」

「ガフッ……」


「ふぅ……やっと殲滅しきれた! 次はいよいよ最上階かぁ」


 最初の数日間、僕はひたすら1階層でレッドゴブリンとキリングレオを狩り倒し、苦手の克服に加えて魔法障壁の熟達とレベルアップをしたことで、多対一でも効率的に対処する事にも慣れてきた。

 【存在誤認】で攪乱と同士討ちを狙いながら姿を隠し、死角からの遠距離攻撃で毒や麻痺を撒き散らす戦法はかなり効果的であり、僕が確立すべき戦術はこの延長線上にあると確信が持てた。

 ただ、10階層の沸き部屋は、さすがに30体以上も同時に居るとは思ってもみなかった。


「ってか、あの部屋だけ異常に殺意高すぎっ!! 何度あの部屋で死にそうになった事か……。魔法障壁の応用を思いつかなかったら、あそこを突破できなかったな」


 師匠たちはあの沸き部屋で、あれだけの数の魔物を相手しながらカルヴァドスの奇襲を無傷で撃退したのか。ホント良い意味で化物揃いだよ……。でも、あの部屋を突破できた今なら分かる。それまでの僕が、いかにリスク管理を怠っていたのかを。

 そういった意味でも師匠から受けたこの課題が何のために課されたものなのかも分かった気がする。


「魔法障壁の応用にもだいぶ慣れてきた……けど、あとは最後の課題……ボスを1時間以内に倒さなきゃなんだよなぁ」


 ついで(・・・)のように言い渡された最後の課題。

 その難易度の高さは想像に難くない。


「まぁ、だからこそ燃えるってモンなんだけどねっ!!」


次話は1/24(金)投稿予定です♪

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