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第245話 可愛い弟子には

 

~阿吽視点~


 ウィスロの壁外に広がる夜の平原。

 ここは行商人が行き交う街道から少し離れれば、月明りに照らされた薄暗くだだっ広い草むらに、時折魔物の声が聞こえるだけの場所だ。


 そんな平原の中心で目を閉じていると、夜露に濡れる草むらに風が走り、ザーっという音が駆け抜けていく音に、わずかな吐息と草を踏みしめるノイズが混じっていることに気が付く。そして【探知】スキルには薄い気配が一つ、背後から迫ってくるのを感じた。


――キィィーン!


 白鵺丸を抜き放つと同時、金属が擦れ甲高い音が響く。


「うーん、まだ及第点はやれんかなー」


 ぼんやりと違和感のある場所に雷槍を放つと、焦ったような声とともにキュルラリオの姿が露わになる。


「あわわっ! 今のでも気付いていたんですか!? 今回こそは行けると思ったんですが……、まだまだ師匠に一撃を入れられる程にはなれていないのですね!!」


「だいぶ良い線行ってたけど、まだ気配の消し方と、音の消し方が雑だな」


 俺達が上級ダンジョンの攻略を終えた日、キュルラリオには新たな課題を伝えてあった。それは……いつ、どんな手段でも良いから俺に一撃を入れる事。それから10日程度しか経っていないのだが、姿の消し方はかなり上達していた。

 こんな隠れる場所が何もない所ではあるが、目でキュルラリオを捉える事ができたのは攻撃された後。“夜”という、隠れるには好条件であることを差し引いても、視界の情報だけではぼんやりと違和感を覚える程度であった。渡してあった隠密(ハイド)マントと隠蔽の黒狐和面の効果であるのは間違いないが、使い方はかなり上手くなっているようだ。


「ここから先はネルフィーに教えてもらうのが一番の近道かなー?」


「そうかもしれません。ネルフィーさんは隠密(ハイド)マント無しなのに、近付かれたのに気付くのは刃を突き付けられた後ですからね……、あのレベルに到達できるにはいつになる事やら」


「まぁ、ネルフィーとは比べんな……。今のキュルでも、俺みたいな探知スキルがあるヤツですら初見なら欺けるくらいにはなってるだろ」


「それでも及第点はもらえないんですよね?」


「そこは妥協できねぇわ」


「ハァ……やっぱりと言うか、それでこそ師匠です」


「まぁ、それでも次の段階には進んでもいいかもな」


「次の……段階?」


「お前さ、自分の目標ってか目的は忘れてねぇよな?」


「もちろんです! 僕はたとえ何年かかっても、必ず阿吽師匠や【黒の霹靂】の皆さんの隣に並び立ちます! それだけを考えて毎日過酷な修行を乗り越えてきてるんですからっ!!」


「いや、そうじゃなくて……もっと近い未来の話だ。……大規模解放戦、参戦すんだろ?」


「はいっ!! 阿吽師匠の仰る通り、対カルヴァドスの切り札になってみせますよ!」


「んじゃぁさ、その大規模解放戦の戦場はどこになると思う?」


「それは勿論、最上級ダンジョン『竜の塔』で間違い……な……い、あっ……」


「お前、最上級に入る資格、持ってねぇだろ」


 ウィスロダンジョンの仕様上、どれだけ実力があったとしても上級をクリアしなければ最上級には入ることは叶わない。しかし、大規模解放戦は、“最上級の”ダンジョンを開放する事が一番の目的であり、それこそが現カルヴァドス支配体制をぶち抜く唯一の手段でもある。

 今回の大規模解放戦を守り切られてしまえば、今後同様の規模の解放戦を仕掛けるための基盤づくりは今まで以上に困難を極めるだろう。もちろんそんなことはテキラナだけでなくカルヴァドスも同様の事を考えるだろうし、だからこそ守りは堅牢となる。

 そんな場所にキュルラリオは単身(・・)で挑むのだ。


 良くも悪くも一発勝負。ともなれば、俺達は可愛い(・・・)弟子が期限までに最大限強化できる方法を示してやる必要がある。

 例えそれが、死ぬ程過酷なハードルであったとしても。


「あの……師匠。何か凄く、悪い予感がするんですけど……」


「可愛い弟子は、“千尋(せんじん)の谷に突き落として、上から魔法ぶっ放せ”って言うだろ?」


「初耳ですが!? それ誰に聞いたんっすか!?」


「うん? 爺ちゃんだけど?」


「お爺様っ!? ずいぶんバイオレンスな教育方針で……。というかその、次の課題というのは……、まさか……」


「おう! 明日から15日間で上級ダンジョンをソロ踏破して来い!」


「ハハッ……。やっぱり……さすが阿吽師匠ですね……」


「あー、ちなみになんだけど、ドレイクは5分足らずでボスをソロ撃破できたから……、キュルはボスを一時間以内に倒しきれ! あと、ボス部屋に入るまでに魔法障壁は身に付けておくことは絶対条件だ。今回は離脱石の使用制限はないし、エラーしながら全力で突き進んでこい!」


「へ!? が、がんばり……ます……!」


 どんだけ無茶だと思っていても、俺達の前では「無理」と口に出さないのがキュルだ。そして、そんな無謀とも捉えられる修行でこそ才覚を開花させるのがキュルでもある。

 今のレベルでは上級のソロ攻略は一筋縄ではいかないだろう。でも、教えられる事ばかりでなく、トライ&エラーをしながら自分で考え、工夫する事で身に付いたものこそが実践で役に立つ、本物の力だ。それに、上級ダンジョンの攻略をしていけば自ずとレベルも上がっていき、ステータスの底上げもされる。


 さて、ここでもう一壁乗り越えて……切り札(ジョーカー)になれるかどうかはキュル次第。

 まぁ、できると信じているからこその課題なんだけどなっ!



次話は12/27(金)に投稿予定です♪

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