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第241話 破壊帝の真髄

 

 獅子の塔40階層。

 階段を上り切った先にある扉を開けると、そこは巨大な岩が乱立する朝焼けの平原となっていた。


 一般的に考えれば、この岩はボスからの攻撃を避けるためのオブジェクトとして役立ちそうではあり、パーティーでの攻略を行う場合は、耐久力に欠ける後衛がこの巨岩を射線避けとするのだろう。

 ただ、今回の戦いはドレイクがタイマンでボスへと挑む。これを見学する俺達にとっては、巨岩はただ邪魔な存在だ。


 その巨岩エリアの中心には拓けた草むらが広がっており、フロアボスであるアクライレオが仁王立ちで冒険者を待ち構える。四本の腕にはそれぞれサーベルが握られており、隙らしい隙も見当たらない。その佇まいは持ち前の巨体と相まって挑戦者に対して相当な威圧感を与える。


 だが、それを見たドレイクは嬉しそうにニヤリと笑い、獲物を見つけた獰猛な肉食獣を想起させる不敵な表情を浮かべた。


「そんじゃ、行ってくるっすね!!」


「おう、派手にぶちかましてこい!」


 ドレイクは地面を蹴ると、マジックバッグから赤鬼の金棒を取り出しつつ飛ぶようにアクイラレオに向かって駆ける。

 接近に反応したアクライレオも二本のサーベルを胸の前でクロスさせ防御の姿勢を取ると同時に、残った2本の腕は突進してくるドレイクへ向けて迎撃をするように振り下ろした。


 ファーストコンタクトは力と力の真っ向勝負。両者の力が衝突した場所では、爆発が起きたかのように風が吹き荒れ、放射状に足元の草が押し潰される。

 一瞬拮抗したかに見えた衝突だったが、その軍配はドレイクに上がり、アクライレオはガードしたままの態勢で吹っ飛ばされた。


 もともと短期決戦を考えていたドレイクは、初手から【氷風武装】と【雲蒸竜変】の2重強化(バフ)をかけており、ステータスは基礎値の数倍に跳ね上がっていたようだ。

 ただ、アクライレオもフロアボスを務めているだけあって耐久性はここまでの魔物の数段上を行く。吹き飛ばされはしたものの、クルリと身を翻すと追撃してきたドレイクの攻撃を躱すため、翼をはためかせて上空へと飛び上がった。


「俺相手にその行動は悪手だぜ?」


 普通の冒険者相手であれば、この選択は最善であっただろう。だが、アクライレオが対峙しているのはアルト王国で『空の覇者』や『破壊帝』と呼ばれているドレイクだ。

 ドレイクは力強く地面を踏みしめると【飛行】のスキルを使って上空へと逃げたアクライレオを追尾する。


 ……ってか、テンションが上がっているためか、ドレイクの口調が荒々しくなってきてるな。


「兄貴達に良いところ見せなきゃなんねーんだよ!」


 そう言うと、ドレイクの持つ赤鬼の金棒にゴツゴツした氷塊が張り付き一回り大きく刺々しくなる。そればかりか武器の周囲には螺旋状に風が吹き荒れ、ドレイクが片手でブンブンと素振りをしただけで空気が凍り付いたようにホワイトダストが舞った。


「うぉっ!! 武器への二重属性付与!? アレめっちゃ難しいんだぞ!?」


「まだまだ、ここからが本番でございます」


 思わず俺の口から出た驚嘆に、隣にいるシンクもご満悦の表情だ。それに、“ここからが本番”って、まさか……


「【アイストルネード】、【フリーズエリア】」


 氷属性魔法の【アイスニードル】と風属性魔法の【サイクロン】、【ウィンドプレッシャー】をサラッと複合させ、さも当然かのように複合魔法を発動したかと思うと、さらに追加で【フリーズエリア】という複合魔法すらも連続で発動させる。

 武器の二重属性付与だけでなく、複合魔法の多重発動すらも簡単にやってのけたのを見ると氷属性や風属性魔法のスキルレベルはかなり上がっていそうだ。


 上空で飛び回っているアクライレオに視点を移すと、上手くアイストルネードを躱してはいるが、目に見えて移動速度が落ちてきている。これは恐らくフリーズエリアの効果であろうが……、ドレイクが色んな事を同時にやり過ぎていて何が何だか俺では明確に分からない。


「ん。ドレイクは魔法の使い方が上手くなった。単純な攻撃魔法だけじゃなくて、妨害系の範囲魔法も同時に発動させることで効率良く敵を追い込んでいってる。攻撃魔法に加えて広範囲妨害魔法や武器への二重属性付与……これだけ同時発動するのはかなり難しい」


 それを察したのかキヌがドレイクの魔法に簡単な解説を挟んでくれる。


 氷属性と風属性の掛け合わせって……改めて考えると、くっそ相性いいな。

 というか、AGI(敏捷値)VIT(耐久値)が高いであろうアクライレオですらこれだけの効果があるとなると、何かしらの対策ができていなければ、ドレイクはSランク上位の魔物ですら行動が制限できる程の妨害魔法をも習得した事になるのか!?


 そうこうしている間にもアクライレオの背後からは氷の竜巻が迫り、挟み込むように飛び回っていたドレイクが隙を見て二重属性付与をした赤鬼の金棒をアクライレオへ向けて振り下ろす。

 すると、それを防御したアクライレオの両腕が青白くなっていき、氷漬けにされたかのように固まったかと思うと【アイストルネード】がアクライレオとドレイクをまとめて飲み込んだ。


「やっべぇなコレ……、ほぼ必中の攻撃じゃね?」


 その光景に唖然としているとアイストルネードが突然霧散し、氷漬けにされたアクライレオと和装全体を氷で覆い武装したドレイクが姿を現す。


「ファ!? 待て待て! 理解が追い付かんのだが!?」


「阿吽様、ここからがこの技巧(アーツ)の本領です」


「っ!? やっぱり技巧(アーツ)か!」


 時が止まったかのように空中に浮かぶ巨大な氷の塊と、その中に閉じ込められているアクライレオ。

 周囲の草木さえも凍り付いた空間の中、唯一目で追えないほどの速度で移動しながら四方八方から氷塊に赤鬼の金棒を打ち付けていくドレイク。


 数秒後、高速で動き続けていたドレイクもゆっくりと動きを静止させ、そして……


「【氷結破壊(ダイヤモンドブレイク)】」


 ドレイクがその一言を発した瞬間、止まっていた時間が動き始めたかのように巨大な氷塊が木っ端(こっぱ)微塵(みじん)に砕け散る。

 それは動きを止めたドレイクとの対比のように周囲を氷片が舞い散り、朝焼けの光を反射してキラキラとドレイクを飾り上げた。


 ……終わってみれば、時間にして5分足らずで倒しきるというあまりにも一方的な討伐劇。

 圧倒的な破壊力をまざまざと見せつけた主役は、こちらに向き直ると人懐っこい笑顔を浮かべながら赤鬼の金棒を天へと掲げるのだった。



来週は仕事での研修があるため、お休みさせていただきます(汗)

次話は11/29(金)投稿予定です♪

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