第240話 上級の塔40階層
捕らえたカルヴァドスの冒険者二人から情報を抜き取り、今までに得られた情報と合わせて精査する。
おおよそ予想していた通り、カルヴァドスは俺達【星覇】について既に調べて始めていたらしい。
その取っ掛かりとなったのは初級ダンジョンでキュルラリオが暗殺クランに襲われた際、俺が返り討ちにした事に遡る。今のところカルヴァドスが俺達に抱いている認識は『計画を邪魔した余所者クラン』にとどまっており、どうやらキュルラリオの特訓や試験に関しては知られてはいないようなのでホッとしたが、今回の事で完全に目を付けられただけでなく、今まで以上に行動を監視され始めるだろう。
というか、やはりカルヴァドスは暗殺クランと繋がりがあり、資金力に物を言わせ子飼いとしていたようだ。それがコイツ等の証言で疑念から確証に変わった。
それならば、積極的にカルヴァドスを見かけたら潰して回り、俺達【星覇】の敵に回ると痛い目に逢うと思ってもらった方が、ダンジョン攻略をするという目的は達成しやすくなるが……それはそれで面倒くさいし、【テキラナ】陣営に加担しているとも思われたくない。
ウィスロ内の覇権争いに加担する事で半強制的に強いられる柵は俺達から自由を奪う一因となり得る。あくまでも“どこにも属さない単独勢力”という姿勢は崩さずに行くつもりだ。
「それで、今後通路封鎖や狩場独占を見つけたら、どうすればいいっすか?」
「積極的に殺せとは言わないけど、撃退して脅す位の事はしてもいいだろ。俺達がアイツ等に気を使ってダンジョン攻略をするのも癪だしな。“やりたい事をやりたい様にやる”、それが俺達【星覇】だ。だから俺達の自由を害するなら、徹底的に排除する方針に切り替える」
「了解っす!!」
「とりあえず、この上級ダンジョンを攻略しきるのが今の目標だ。レベル的にもダンジョン攻略の本番は最上級に入ってからだとは思うが、上級の上層階もAランクの魔物も群れで出てくる可能性がある。気を抜かずに攻略しつつ、積極的にレベル上げはやっていこう」
そうして俺達は獅子の塔の攻略へと戻るのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
――3日後
「っし、これで次はようやく40階層だ」
「次が上級のボス階層って事っすね! ちなみにボスはどんな魔物なんっすか?」
「通常のボスならばアクイラレオっていうSランク上位の魔物のようだ。ランクだけ見れば問題となる事は無さそうだな」
「ん。念のために情報共有はしつつ、休憩も挟んでおく?」
「だな!」
10階層を越えてからここまで全くカルヴァドスの妨害や狩場独占は無かった。
大丈夫だとは思うが、ダンジョンから帰還した際にカルヴァドスの冒険者に囲まれないとも限らない。
あれから三日くらい経つし、俺達の情報や10階層での出来事は既に共有されていると考えて良いだろうが……まぁ今はボスの討伐に集中しよう。
ここ上級の塔のボスは『アクライレオ』という獅子の頭にオーガのような胴体、4本の腕と背中には鷲のような翼が生えている大型の魔物であり、『獅子の塔』と呼ばれるにふさわしいボスの容姿をしている。
沈黙の遺跡のアークキメラのように、様々な魔物が合成されたような見た目と獅子の頭という共通点はあるが、大きく異なる特徴は人間のような二足歩行であり、4本の腕には様々な武器が握られているところと空中を高速で飛び回る事だ。
また、ボスと呼ばれるにふさわしい耐久性を兼ね備えているとも言われており、空中戦や遠距離攻撃を強いられる点が攻略を難しくする要因となっているようだ。
ちなみに一般的な攻略の目安となる基準はSランク1パーティーでも討伐しきるまでに1時間以上かかると言われている。
そう考えたところでシンクが口を開いた。
「阿吽様、私から提案があるのですがよろしいですか?」
「うん? どうした?」
「次のボス戦、ドレイクに任せてみてはいかがでしょう」
「ドレイクにって……タイマンで勝負させるってことか?」
「はい。ドレイクもわたくしと共に時間が許す限り自己強化のための鍛錬を行ってまいりました。……ドレイク、アレを試すにはちょうど良い相手ではなくて?」
「あっ、確かにそうっすね! 自分自身でもどれくらいの最大火力が出るか、まだまだ未知数っすけど……だからこそボスを相手に試してみたいっす! ってことで兄貴、俺からもお願いします!!」
ドレイクもシンク同様、何かしらの強化を成し遂げたようだ。
これまでの戦闘ではその一端も見せてはいなかったが、シンクやドレイクの様子からは俺達に披露するのを楽しみにしている節が伺える。
「分かった。んなら、俺達は一切手を出さない。……ドレイク、どうせなら派手にぶっ倒してこい!」
「うっす! 任せてくださいっ!!」
次話は11/15(金)投稿予定です♪