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第239話 優しい尋問

 

 上級の10階層でカルヴァドスの冒険者を血祭りに上げた後、俺達はシンクからスキルや怒簾虎威の第三形体に関する説明を受けた。


「ってことは、シンクのやったアレは調理スキルを分解して使いこなしたって事か! 単純にすげーな……」


「ん、シンクは凄い」


 あの怒簾虎威(どすこい)の大包丁型への変形も驚いたが、それ以上にスキルを分解(・・)しようとするなんてことを考え付き、実際に成し遂げてしまうのはとんでもないことだ。

 話によると、練習に付き合わされたドレイクが引くほどの試行回数だったようだし、簡単にはいかなかったのだろうが……それでも物にするまで行う努力は、常人ができる事ではない。


 すると、シンクは重々しく口を開いた。


「あ、あの……も、申し訳ございませんでした!!」


「うん? シンクが何に対して謝ってるのか分かんねぇけど、カルヴァドスの冒険者を殺したことに対してなら別に謝る事ねぇぞ?」


「し、しかし阿吽様の様子は、その……お怒りになられているのかと……」


「ん。阿吽はシンクに対して怒ってるわけじゃない」


「まぁなー。なんつーか、カルヴァドスのこと少し甘く見てたわ。まだ上級の10階層だったから良かったけど、これが最上級だったら普通にヤバかった」


 今回シンクがやり過ぎてしまったのは否めないが、そんな事でシンクを叱ったりすることはない。シンクは俺の言葉を真に受けすぎてしまうきらいがあるが……、それも俺からの命令や指示を純然たる気持ちで遂行しようとしてくれたってだけだ。


 それに戦闘を開始した時の状況を考えると、カルヴァドスの取った行動は完全に警告の域を越えていた。あの挟撃は俺達を殺そうとしていたからこそ実行に移したものだと断言できる。となれば、危険を排除するのは当然の事であり、殺しに来ている相手を逆に殺めてしまうのは仕方のない事。

 たとえ冒険者ギルドに後から何か言われても、俺達に一切の非はないと言い切れる。


 また、最上級である【竜の塔】で今回のようなことをされてしまったら、それこそ攻略どころではなくなり離脱石でのダンジョンからの脱出をしなければならなくなってしまう。階層前の封鎖で相手のレベルを見て余裕があると高を括っていたが、魔物を使った挟撃を仕掛けてきたのは完全に予想外だった。カルヴァドスはそこまでするクランだと認識を改める必要がある。


(まぁ、そう考えると今のうちにカルヴァドスの常套手段を確認し、さらに痛手を負わす事ができたのは僥倖とも言えるか……)


 とりあえず昏倒させたカルヴァドスの冒険者2名の装備からマジックバッグを外し、顔に水をぶっかけて起こす。

 まずはコイツ等からの情報を聞いて、俺の認識とのズレを修正するとしよう。


「ブハッ……っ痛、首が……」


「う……ぐっ、一体何が……」


「起きたかー? ほれ、さっさとカルヴァドスの情報全部吐け」


「あなた達は星覇の……どうなって……っ!? ヒィッ!!」


 捕らえた男女2人の冒険者が気絶から目覚め、ゆっくりと周囲を見渡し状況を確認する。

 そしてシンクの姿が視界に入った途端にその顔面からは色が消え、ガチガチと歯を鳴らしながら表情を恐怖の感情に染めた。


「反応が遅いですわね。阿吽様からの質問には1秒以内に答えなさい。それとも、阿吽様が仰っているお言葉が聞こえないのかしら? であれば、そんな役立たずの耳は……必要ありませんね?」


 有無を言わさない言葉尻と、女の顔の横に音もなく添えられた大包丁。その耳は既に半分切れている状態であり、頬には赤い液体が伝う。


「え……、あっ……助け……」


「あら? わたくしの言葉も聞こえていないのでしょうか? ……もしかして貴女方、お腹が空いて頭が回っていないのでは? 食材はソコにたくさん転がっておりますので、さほど時間をかけずにステーキやハンバーグくらいは作れますよ? それとも、あなたの耳を食材にして差し上げましょうか?」


 混乱する頭でシンクに何を言われているのかを必死に理解しようとする冒険者たち。その理解を促すようにドレイクが言葉を付け足す。


「君らさぁ、さっさと知ってる事を全部話した方が良いと思うっすよ? じゃないと、お仲間だった肉塊を目の前でミンチにされて、君らの口の中に入る事になっちゃうんっすからー」


 シンクもドレイクも本当にそんなことをするつもりは全くないが、この場面における脅し文句としては最上級。命すら掌握された状態でこんな事を言われたら、正しい判断ができるヤツなんかほんの一握りだ。

 ただ、この尋問の本番はこれからだ。


「シンクもドレイクも、少しだけ考える時間を作ってあげて?」


「うむ、マジックバッグは奪ってある。離脱石がなければ、私たち5人から逃げることなど不可能。ならばキヌの言う通り考える時間くらい与えてやっても良いだろう」


「キヌ様とネルフィーさんの言う通りですね。お二人がそう仰るならば……」


「ん。シンク、いい子。……それで二人とも、今の自分たちの状況は理解できた? 私たちは、好きであなた達の仲間を殺したわけじゃない。襲われたから、仕方なく撃退しただけなの。ちゃんと知ってる事全部喋ってくれたら、マジックバッグも返してあげるし、安全(・・)に逃がしてもあげるよ?」



 文字通りの地獄をその身で経験し、目の前に居るのはその処刑執行官。さらに、自分の身に拷問が待ち構えていると理解させられた瞬間、狙いすましたかのようにキヌから助け船を出され、自然な会話の流れの中でネルフィーが逃げ場を潰す。

 ……すると、その結果どうなるか――


「わ、分かった! 分かったから!! 知ってる事全部話すから!! だから……助けてっ……」


 簡単にその心は瓦解する。

『緊張』と『緩和』。『絶望』と『希望』。

 要求されている内容は終始全く同じであるにもかかわらず、甘美な罠にハマった脳は不思議な程自然に選択肢を一つに絞ってしまう。


 キヌ曰く、最終的な決定を己自身で選択したという事が一番重要らしいが、それに至るまでのプロセスは完璧だ。

 ここまで心を掌握してしまえば、コイツ等はもう反射的に俺達からの質問に答えるだけの傀儡になり、少なくともこの二人は今後一切俺達に歯向かう事など出来なくなる。


 この場に於いて一番優しいのがキヌであり、一番厳しいのもまたキヌだったってわけだ。

 しかもキヌの思考を目だけで共有して、瞬間的にゴールに向かってアシストしたドレイク、シンク、ネルフィー。


(コイツ等、やっぱ最高だわ!)



プロットの見直しと修正のため、次話1週お休みさせていただきますー汗

って事で、次話は11/8(金)投稿予定です♪

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