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「魔物になったので、ダンジョンコア食ってみた!」 ~騙されて、殺されたらゾンビになりましたが、進化しまくって無双しようと思います~【書籍化&コミカライズ】  作者: 幸運ピエロ
第10章 巨大迷宮都市ウィスロ編

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第237話 怒簾虎威、第三の形体

 

 ボス部屋と思われる扉を開けると、そこには薄暗くだだっ広い空間が広がっていた。

 1から9階層の荒野とは違い、ココは神殿の内部のように太い柱が規則正しく並べられた部屋型のフロア。

 さらに部屋の中心部分まで歩いていくと最奥には入口とは違うもう一つの扉と、その前に整列する数多の魔物が見えた。


「沸き部屋か。魔物自体はBランクのマッドベアとキリングレオ、あとはレッドゴブリンだな」


 カルヴァドスがこのフロアを占拠していたのはアイテムのドロップの他に経験値稼ぎの目的がありそうだ。

 まぁ、この程度なら……


 そう考えた時、後方を歩くネルフィーがギリギリ聞こえる程の小声で「囲まれている」とつぶやいた。

 即座に【探知】のスキルを発動すると、柱の影に合計で20を超える気配を微かに感じた。ネルフィーでも気付くのに遅れたって事は、何らかの魔法で存在感を薄くしていたのだろう。用意周到さを考えると塔の前を占拠していた奴等は唯の見張りで、この実動部隊への連絡と次の魔物が沸くまでの時間稼ぎが目的だったわけだ。


 次の瞬間、俺達に向けて放たれる複数の矢。

 全員がそれを難なく迎撃するが、一部の矢は俺達を通り越し集まっている魔物の足に突き刺さると攻撃に反応した魔物達が一斉に動き出した。


「カルヴァドスはここで魔物を使って挟撃を仕掛けてきたって事か。これなら確かに()く人員も最低限で済む……。ってか随分と手慣れてやがるな」


「なんか小賢(こざか)しいっすね……」


「ん。役割分担は?」


「キヌとネルフィーは魔物の殲滅、ドレイクとシンクは冒険者達を無効化しろ。俺は状況を見ながらターゲットを変える」


「了解っす!」


「阿吽様、手加減はいかがいたしましょう?」


「必要ねぇ! 遠慮なく暴れろ!」


 俺の言葉でキヌとネルフィーは魔物へ向けて攻撃を開始し、シンクとドレイクは後方から迫ってくる冒険者達に向かって走り出す。

 こちらは5人に対し、カルヴァドス側の冒険者の数はおよそ30人。さらにこちらに迫ってくる魔物もざっと見ただけで40体ほど。位置関係を考えれば魔物のターゲットがこちらに来ることは明白。ともなれば数だけみれば優に10倍以上の差がある。

 三つ巴を利用した挟撃でパーティーの分断とこちらの混乱を同時に狙える上手い策だ。


「ただ、俺達の事を過小評価し過ぎなんじゃねぇのか?」


 魔物を殲滅してしまえば戦力の分断はなくなるだけではなく、キヌの高火力かつ広範囲魔法と回復魔法、さらにネルフィーの遠距離攻撃が加わる。

 そう判断した俺は魔物の殲滅を優先し、【疾風迅雷】と【雷鼓】を発動して迫りくるマッドベアやレッドゴブリンを白鵺丸で薙ぎ払う。


 その間にもキヌの放つ蒼炎が魔物を包み込み、辛うじて致命傷を避けた個体もネルフィーが確実にとどめを刺していく。ものの数分でこれだけ数が減ればもう魔物側は俺が居なくても問題ない。


(んじゃ、俺もドレイクとシンクに加勢するか)


 振り向いた先ではドレイクが重戦士を鎧ごと吹き飛ばしているところだった。見る限りドレイクにケガらしい傷もなく、こっちも心配するような事はなかったようだ。……と、俺はシンクの方を見て驚きのあまり思わず行動が止まる。


 付近の柱には血飛沫が付着し、床には所々に血だまりができている。その光景はさながら処刑場の様相を呈していた。


 さらに処刑執行人(シンク)の手にあるのは巨大な包丁型の武器、そしてそれに切り刻まれたであろう冒険者達は確実に生きてはいない状態だと一目で分かる。

 ただその死に方がこんな乱戦の場に於いて、あまりにも異常すぎる(・・・・・)のだ。

 サイコロ状にサイズを整えて切り分けられたような死体、上半身を三枚におろされたように背骨を抜いて開かれた死体、上半身と下半身を両断され、床の血だまりから生えているように立て置かれた死体……。これらがざっと見て10体近くあるだけでなく、さらに部屋の端には引き抜かれた内臓だけが整然と並べられている。


「どうなってんだ……?」


 シンクと相対している冒険者は「ハァハァハァ……」と浅く早い呼吸を繰り返しながらガクガクと膝が笑っている。既に戦えるような精神状態でない事は一目瞭然だが、それでも必死に武器を振りかぶり「あぁぁぁ!!」と叫び声を上げながらもシンクに向かって果敢に攻撃を仕掛けていった。


 ……が、当然のように大楯に変形させた怒簾虎威(どすこい)でガードされただけでなく、【ガードインパクト】でそのまま武器を弾き上げられた敵は、万歳(ばんざい)したように両手を挙げ固まる。

 そしてシンクは素早く片手で武器を大包丁に変形させると、がら空きの胴体を縦に掻っ捌き、左手で体内から内臓を掴んで引きずり出す。

 さらに右手で大包丁をクルクルと回転させ内臓の根元部分を切り取り分離すると、そのまま引き抜いた内臓を部屋の端へと投げ飛ばした。


 この状態でも既に相手は死亡が確定しているのだが……、さらにそこから大包丁を使って冒険者の身体を切り刻むと、攻撃を弾き上げてからわずか数秒でサイコロ状の肉塊の完成だった。


 常軌を逸した光景と、人を人とも思っていない悪魔のようなシンクの所業に、相手の冒険者達は錯乱状態へと陥る。そして一人、また一人と離脱石を砕き、狼狽しながらもこの場を脱出していった。


 この場に残った男女2人は目を見開き、口から涎を垂れ流しながら呆然自失としており、正確な判断ができていない。


(こいつらは情報を聞き出すために殺すわけにはいかないな)


≪シンク、そこまでにしとけ。あと、ドレイクは残った女の冒険者を気絶させろ≫


 そう念話で伝えながら【常闇門】で床に座り込んだ冒険者の背後に移動すると、首筋を殴打して気絶させた。


 挟撃での不意打ちを受けた数分前には想像もしていなかった結末に、俺も頭が整理できていない。

 というかシンクの武器が別形態になっていたのにも驚いたが、まるで調理(・・)でもするかのように無表情で“人間を掻っ捌いていく”というのは、さすがに予想の範疇を大きく逸脱していた。


(これはカルヴァドスの冒険者より先に、シンクとお話(・・)しなくちゃだな……)



次話は10/18(金)投稿予定です♪

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