第233話 強くなりたい理由
「――と、20階層のボス部屋で起きた事はこんな感じです!」
あれから俺達はキュルラリオからボス部屋で起きた一部始終を聞いた。
やはりキヌが考えていた通りレアボスが出現し、あまつさえそれを討伐しきったというのだから、それを聞いている皆の受けた衝撃は相当なものだ。ハイルなんか「どこからツッコめばええの?」ってボソッと呟いている。
そりゃ普通に考えたら数日でレベルを28も上げただけでなく、スキルを4種も獲得しそれらの多くがスキルレベル5を超えてきているなんて想像もつかないだろう。
まぁ細かい事は鑑定眼で見た俺くらいしか分かってはいないだろうけどな。
「そうか。キュルラリオ、よく頑張ったな!」
「え……? で、ではっ!」
「試験は合格だ! 体調が万全になり次第、修行をしていくぞ」
「っ!! は、はいっ! ありがとうございますっ!!」
「っと、その前に……。そういえば、強くなりたい理由をまだ聞いていなかったな」
「強くなりたい、理由……ですか?」
「あぁ。キュルラリオの戦い方とか、今後の強化の方向性がそれによって大きく変わってくるからな」
「そうですね。少し長くなりますが……よろしいですか?」
「あぁ。大事な部分だからな。教えてくれ」
「阿吽さんは、僕やシエル、ハイルが孤児院育ちなのはご存じですか?」
「ハイルからそれとなく聞いたぞ」
「こんな迷宮中心の都市ですし、孤児は少なからず出てしまうのは仕方がない事だと自分でも分かっています。でも、先日暗殺クランに襲われた時に思ったんです。……もしかして、こうやって僕の両親も殺されたんじゃないか……って。実際のところは分かりませんし、そうだったとしても今更過去は変えられません。でも、暗殺者が理不尽な理由で僕を……冒険者を殺そうとした事実もまた変えられません」
「そうだな。でも、キュルラリオの強くなりたい理由が復讐ってわけじゃないんだろ?」
「そうですね。僕は、どんな理由であれ大切な人をもう失いたくはないんです。でも……それを害そうとする人たちがいる」
「暗殺クランや裏で糸を引く【カルヴァドス】か?」
「そうです。権力争いは昔からある事ですし、搦め手も戦略の一つかもしれませんが……今現在、【カルヴァドス】と序列を争っているのは【テキラナ】。となれば、暗殺クランの標的が孤児院に向けられないとも言い切れません。それに、シエルとハイルも僕の大切な人なんです。僕は……みんなを守る強さが、シエル達と並び立てるだけの力が欲しい!」
そうか。コイツと俺が似ていると感じていた部分はココだったんだな。
小さな力でも必死に強さを模索し、大切な仲間を守る強さを欲している。
だからこそ試験では自らの可能性を広げ、大量のスキルを獲得するに至ったのだろう。
そういうことなら、やはり協力してやらなきゃな。
「分かった。なら、その目的を達成するための道は示してやる」
「僕の歩む道……そ、それは!?」
「お前は、この序列争いに於ける【テキラナ】陣営の切り札になれ」
「切り札、ですか!?」
「あぁ、そうだ。その理由は大きく分けて二つある。一つ目は、まだ【カルヴァドス】側の陣営にキュルラリオの情報が知られていないという事。これは戦況を分けるタイミングでキュルラリオが介入する事で【テキラナ】側の大きなアドバンテージとなる。二つ目はキュルラリオのスキル構成だ。1対多という本来不利な状況こそがキュルラリオが一番の真価を発揮する。さらに、ソロでAランク下位の魔物である炎狼をも撃破できる程のタイマン性能まで兼ね備えたスキル構成。加えて相手の虚を突ける独特の攻撃方法も持っている。これらは、他の奴等が真似しようとしても真似できない、唯一無二と言えるキュルラリオの個性だからだ」
ハイルから聞いた狩場独占に対する解放戦。それは多人数が絡む大乱戦となる。
しかも【カルヴァドス】側は時間を追うごとに人員の差をつけられるように離脱石の独占まで行っていた。これに関しては完全な独占とはいっていないだろうが、在庫の総数で大きく差を付けられているのは否めない。
であれば、どのような状況下でもソロで動くことができ、多人数を相手にして大立ち回りができるキュルラリオの介入は相手にとって相当嫌な存在となるだろう。さらに、それが誰なのかも不明なのであれば、長期的に見てもキュルラリオの存在が敵側からすれば不確定要素となり得る。
問題は大規模な解放戦にキュルラリオの強化が間に合うかという部分だが、これも攻める側であるテキラナが準備に時間がかかる事を考えれば、まぁ間に合うだろう。
「だが、そのぶんキュルラリオ自身に危険が及ぶ道だ。もちろん修行も厳しいものになるぞ?」
だからこそキュルラリオという存在を秘匿しつつ強化をする必要がある。さらに、【テキラナ】や孤児院との関りだけでなく、俺達との関りすらも臭わせてはいけない。それは、『キュルラリオは弱い』と油断させられる事が初手のアドバンテージに直結するからだ。
「分かりました! すべて阿吽師匠にお任せいたします!」
「よし、なら次はこれからの修行計画に関してだ。これは試験前にも伝えたが、俺達もそれほど時間があるわけじゃない。もともとこの都市に来た目的は自分たちの強化も兼ねた迷宮攻略だからだ。これから上級・最上級の塔に挑むにあたってどれくらい時間がかかるかも分からないしな。だから、キュルラリオの強化のために使う時間は1カ月とする。それ以降は、今回のような試練を与えるから自分でそれを乗り越えつつ戦闘経験を積み、力を自分の物にしろ」
「1カ月……」
「それを短いと感じるか長いと感じるかはキュルラリオ次第だ。ただし、さっきも言ったが生半可な修行じゃないのだけは覚悟しておけよ」
「わっ、わかりましたっ!!」
「じゃあ詳しい事は明日また話す。とりあえず今日は体力を戻す事を全力で考えておいてくれ」
まずはキュルラリオの実力や長所と短所を明確にする事、そこから効率的な基礎訓練と最終段階としては魔力障壁の修行。
魔力障壁に関してはヤオウでさえ数カ月かかった事を考えると、期間の後半にやり方を教えてあとは自主訓練って流れかな……。
うん、やる事は山積してる。でも、ここからの1カ月でキュルラリオがどれだけの成長を見せるのか、それは正直ワクワクするな。
次話は9/20(金)投稿予定です♪




