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「魔物になったので、ダンジョンコア食ってみた!」 ~騙されて、殺されたらゾンビになりましたが、進化しまくって無双しようと思います~【書籍化&コミカライズ】  作者: 幸運ピエロ
第10章 巨大迷宮都市ウィスロ編

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第231話 試験と試練④

 

~キュルラリオ視点~


 19階層最奥。この階段を上ればボス部屋がある20階層に足を踏み入れる事になる。

 このフロアで新たなスキルを何度も試し、【形態変化】のスキルレベルも3まで上昇。HPやMPは相応に消耗してしまっていたが、それも今は全回復している。残りのポーションの数も確認したし、防具もまだ破損するような状態ではない。


 武器に関してはこの試験の途中からほぼ使っていなかった。戦闘方法も大きく変わった今では、新調するタイミングで師匠にどんな武器を使うのが良いのかアドバイスをもらいたいと思っている。……が、それもここのボスをソロで倒し晴れて阿吽師匠の弟子となった暁に得られるご褒美だ。


「よし! 覚悟は決まった!!」


 何度もシミュレーションはしたが、正直勝てる確率は五分五分。僕の戦い方は相手の動きだけでなく、自分のHPやMPの管理まで気を配らなければならず、注意を分散しなければならない場面がほとんどだ。特にボス戦の最序盤は大銀狼に統率されたブラックウルフも多数出現しているため、全ての敵の動きに合わせた対処が常に求められる。

 一つのミスで戦況は悪くなり、一気に瓦解する危険性も多分にあるわけだ。


「ふぅ……、戦う前に考えすぎては動きも鈍ってしまう。今は全力を出しきる事だけ考えよう!」


 そうして階段を上りきり、意を決してボス部屋の扉を開いた。


 薄暗い部屋の壁にゆっくりと松明の光が灯っていく。

 続いて、部屋の奥に見える一つ(・・)の影がムクりと起き上がり、揺ら揺らと炎のようなオーラを沸き立たせた。


「っな!? 大銀狼じゃ……ない! それに、取り巻きのブラックウルフも居ないって……ま、まさかっ!!」


 ここウィスロダンジョンでは極稀(ごくまれ)にボス部屋に別の魔物が出現する。ただそれは500回に1回とも1000回に1回とも言われており、相当に低確率だ。

 その低確率で出現する魔物は“レアボス”と呼ばれ、通常出現するボスよりもランクが高い場合が多い。


 そして、ここ中級【狼の塔】の場合、出現するレアボスは……Aランク下位の魔物『炎狼』。


「嘘だろ……何だってこんな時にっ!」


 阿吽師匠からの試験中でもなければ、即座に離脱石で入口に転移しているレベルで危険な魔物だ。それに願って出現させられるなんて事が実質無理なほどの超低確率なレアボスを、このタイミングで引き当ててしまった事に己の運の悪さを呪いたくなる。


「でもコイツを倒して帰還すれば、試験は間違いなく合格できるでしょ! それに、師匠は褒めてくれるはず!!」


 折れそうな気持ちに渇を入れ直していると、起き上がった炎狼はとんでもない速度で僕目掛けて突進をしてきた。単純な体当たりであっても逆立つ毛が炎に包まれている炎狼であれば、それだけで中級クラスの冒険者は致命傷になる。

 かく言う僕も相当強くはなったが、まだ中級クラスの冒険者と言ってもいい範疇だろう。


 焦りながらも横に転がりながら攻撃を避け、尻尾を切り離し【存在誤認】のスキルを発動させる。

 すると、炎狼は【遠隔操作】で動かす前に尻尾に向かって鋭い爪を突き立て、バタバタ動いていた僕の尻尾を燃え上がらせた。


「その攻撃速度はエグいだろ……」


 驚きながらも尻尾を【高速再生】で復活させ、今度は【毒攻撃】と【形態変化】での硬質化を行い、再び尻尾を切り落とす。

 この数日、何度も行ってきた工程に【形態変化】を加えた攻撃準備のための一連の流れは、自分でも驚くほどスムーズに完了し、キョロキョロと僕を探す炎狼に向けて高速回転させた尻尾を飛ばす。

 咄嗟にバックステップで僕の攻撃を避けた炎狼だが、攻撃が掠った左後ろ足からは微かに血が流れていた。


「ファーストアタックは及第点ってとこかな! ぬおっとぉ!?」


 炎狼の傷口の様子を観察すると、恐らく毒の状態異常を与える事ができていそうだが、そんな事を意に返していない様子の炎狼は、振り向きざまに口から火球を放ってきた。

 それを全身に【形態変化】をかけて硬質化させ両手でガード、すぐさまマジックバッグからポーションを取り出して頭から被り、着火している服の鎮火とHPの回復を同時に済ませる。

 相手が遠距離攻撃を持っていなければミドルレンジからの一方的な攻撃ができると思っていたが、そんな甘い敵ではなかったようだ。


 今の火球で僕が負ったダメージは総HPの約3割。ガードをしていたとしてもやはり無視できるダメージ量ではない。それに、ポーションでの回復も行えるが、回復している時間は明確な隙にもなってしまうため何度も多用はできないだろう。


 ただ、毒の状態異常を入れることができたのは大きい。いくら強い敵であったとしても継続的に毒によるダメージが入っているとなれば、長期的に見れば僕の勝ち筋も見えてくる。


「さて、どっちが先に倒れるか。チキンレースといこうじゃないのっ!!」



◇  ◇  ◇  ◇



 戦闘が始まってどれくらいの時間が流れたのだろうか……。時間の感覚がひどく曖昧になっている。


 それ程までに集中しているにもかかわらず、僕の攻撃はそのほとんどが躱され、効果的にダメージを与える事は叶っていない。ただ、スキルレベル5の【毒攻撃】で与えた毒が炎狼の身体を徐々に蝕んでいき、確実にHPを削っている。

 対する僕も、炎狼の攻撃は紙一重で躱すか【形態変化】で硬質化させた身体で防御はしているが、時間を追うごとにHPは減っていき、持ってきたポーションもついに底をついた。


 正しく窮地と言って差し支えない状況だが、それでも迷宮離脱石を使うという選択はしない。正直なところ、もう限界ということは分かっている。でも、ここを乗り越える事ができず逃げ出してしまえば、また元通りの自分に逆戻りしてしまう。


「ハァ、ハァ……」


『ギュルル……グルルル……』


 炎狼の全身を纏う炎はかなり小さくなり、体中に毒で紫色に変色した痣が目立ってきた。だが、それでも僕を殺そうという意思がその眼光からヒシヒシと伝わってくる。


「君もギリギリかな? でも、引く気は一切ないってことだね」


『ガルルルァァアア!!』


 炎狼はそれまでに無いほどの咆哮を上げると、最後の力を出し切るかのように全速でこちらに駆けてくる。

 それに対し、僕は(あらかじ)め後方に飛ばしておいた尻尾を【遠隔操作】で操りつつ全身を【形態変化】で硬化させ防御の構えを取った。


(勝った!)


 これは自分自身を囮に使った最後の奇策。

 全力の攻撃を仕掛けてくるこのタイミングであれば、死角からの攻撃は避けられない。迫る炎狼の体当たりをガードしきれば、僕の――


 一瞬の油断。それがこの攻防の明暗を分けた。

 完全に死角を取ったと思っていた僕の攻撃は紙一重で躱され、体当たりをまともに食らった僕の身体は軽々と壁まで吹き飛ばされる。さらにそのまま肉薄してきた炎狼は左肩に食らいついてきた。


「ガッ、ガハッ……」


 肉が焼ける独特の匂いと共に強烈な痛みが全身を駆け巡り、HPが一気に目減りする。


 これだけHPが減ってしまったら【高速再生】は使えず、尻尾の再生ができない。

 そうなると、僕に残された攻撃方法はもう……


(こ……ここ、までか。さすがに離脱石を使わないと……)


 そこまで考えた時、ふと思い出したのはこれまでの自分自身だった。

 言い訳ばかり考えて、逃げ続けた“弱い僕”。

 人に頼る事に慣れ切って、甘えて、人のせいにして、更に言い訳を重ね続けた……。


――孤児院の子供達を育てなければ。

――みんなに心配をかけてはいけない。

――離脱石を集めるのも冒険者の命を繋ぐ大切な役割なんだ。

――僕には両親が居ないから。

――自分にできる事を頑張ればいい。

――シエルとハイルは特別で……何も持たない(凡人)とは違う。


 一歩踏み出す事を恐れ、色々な事を理由(いいわけ)にして“変わる”ことからも逃げていた。


 ……でも、本当は悔しかった。

 悔しくて、悔しくて、悔しくてっ!!

 すぐに逃げる自分を、諦める自分を変えたかった!!

 シエルとハイルの隣に……並び立ちたかった!!


『お前の覚悟を、見せてみろ』


 変わってやるんだ!

 “いつか”変わるんじゃない! “今”、“ここで”変わってやるんだ!!


『お前の覚悟を、見せてみろ』


 ここで覚悟を見せなきゃ、いつ見せる!!

 諦めて逃げて終わりなんて、僕が死んでも許さないっ!!


『お前の覚悟を、見せてみろ』


 攻撃手段がないのなら……作り出せばいいだけだろっ!!


「う、おおぉぉぉー、がっああぁぁっーー!!」


――ブチブチブチブチッ!!


 全身にかけている硬化の範囲を噛み付かれている肩口のみに絞り、【毒攻撃】を付与した左腕(・・)を【形態変化】で無理やり()じ切る。


 そして、【遠隔操作】で高速回転させ炎狼の眼球目掛けて叩き込んだ。


『ガッ……ル、ルルッ!』


 しかし炎狼はそれでも食い込ませた歯を離そうとはしないどころか、更に咬合力(こうごうりょく)を強めてきた。

 飛びかける意識を必死につなぎ止め、思考は全て腕を押し込む事だけに注ぎ込む。


「おおおぉああぁぁぁーー!!」


 回転しながら徐々にめり込んでいく左腕と、その周辺に広がっていく紫色の痣。

 身体に歯が食い込んでいく圧迫感と全身の血が沸騰しているような灼熱痛。


 お互いの命を削り切ろうと拮抗する気力と体力。

 意志と意志のぶつかり合い。


 永遠とも感じる数十秒が経過した時……突如として噛み切ろうとする圧迫感がスッと消えた。

 そして、ビクンッと全身を痙攣させた炎狼が地面に倒れ込むと、そのままダンジョンの床へと吸収されていく。


「か、勝っ……た……」


 そう確信すると、それまで必死に繋ぎとめていた意識は次第に遠退いていき……僕の身体は足元に出現した“光る魔法陣”の上へと、前のめりに倒れ込んだ。



リアル都合により次週の投稿をお休みさせていただきます。

さーせんっす!汗


ってことで、次話は、9/6(金)投稿予定です♪

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