第230話 試験と試練③
~キュルラリオ視点~
再び戻ってきた19階層、二日前に見た同じ景色がそこには広がっていた。
しかし二日前に感じた絶望感はなく、目に入ってくる景色が全て違うものに感じる。
「ここに来た時は22レベルだったけど、今では45レベルにまで上がった。新たなスキルも獲得したし、スキルレベルも軒並み上昇してる。それにポーション類の回復アイテムもまだ残ってる。でも……」
ここに戻ってくるまでに様々なシミュレーションをしたが、ボスに対して有効打を取れる攻撃方法が今の僕には無いのではないか、という懸念事項が払拭できない。
ボスエリアは他のフロアとは一線を画す難易度をしている。それこそ、気を抜けば一瞬で殺される未来まである。
というのも、これは一般にも出回っている情報だが……ここ中級【狼の塔】のボス部屋は5匹のブラックウルフをシルバーウルフの変異個体である『大銀狼』が統率しているフロアであるためだ。
大銀狼……。Bランク上位の魔物であり、基本群れる事をしない魔物の中で同族を統率するだけの高い知性を持ち、その巨体に似つかわしくないスピードと巨体故のパワーを兼ね備えた強大な敵だ。それを倒そうと思ったら、当たり前だがパーティー単位でこちらも連携する必要がある。
基本は先に取り巻きのブラックウルフを一体ずつ処理し、単独となった大銀狼を数の有利で抑え込み、倒しきるのがセオリーだ。初見でソロ攻略をしようだなんてブッ飛んだ冒険者は、一人ひとりが一騎当千の力を持つ阿吽師匠たち【星覇】くらいのものだろう。
「でも、阿吽師匠の弟子を名乗るには……それくらいやれて当然という事なんだろうなぁ」
となれば、試験に合格するためには、僕に足りないものを補わなければならない。……そう、ボスのソロ攻略を成し遂げるだけの攻撃力を身につける必要がある。
「でも、そんな簡単に攻撃力が得られるなんてこと……。それに僕のステータスは全てが平均的に伸びていて、DEXとAGI《敏捷》が少し高いくらいだしなぁ」
良く言えばオールマイティーになんでもこなせるタイプ、悪く言えば器用貧乏……。
「それにスキルも直接的に攻撃できるようなものは……うん? このスキルって……」
ステータスを確認していると見慣れないスキルが目に留まった。
・【形態変化Lv.1】:身体の一部の形態を変化させる。スキルレベルに応じて複雑な形状に変化をさせる事も可能となる。
17階層で確認した時には無かったものだ。ということは、19階層に上がってくるまでに新たに得られたものであるということ。
試しに使ってみるが、スキルレベルが1では単純に身体の一部を硬くすることができるだけのようだ。防御面では役に立つスキルであるが、今僕が必要としているのは攻撃に役立つスキル。
これはハズレ……か?
『本当に強くなりたいなら、尻尾の使い方を考えた方が良いぞ? せっかくの個性や特性なんだからな』
そこまで考えていた時、不意に思いだしてきたのは阿吽師匠のありがたいアドバイス。数日前までは自分でも逃げるためのデコイとしか考えていなかった尻尾を“個性”や“特性”と仰ってくださった。
でも、さすがに尻尾を固くするだけじゃ攻撃には使いづらい。硬くして鈍器のように叩くのだとしてもリーチが短く、敵に背を向ける必要がある。武器を持って攻撃した方がまだ現実的だ。
「それに毒攻撃を付与して切り離すのが今の常套手段。切り離してしまったら……うん? もしかして、切り離しても尻尾って硬いまま……なのか?」
もし、この【形態変化】が切り離した状態の尻尾にも適応されるのだとしたら、【遠隔操作Lv.5】で精密に扱うことのできる僕ならば、攻撃範囲がとんでもなく長くなることになる。それに、スキルレベルが上がり操作できる時間が増えた今なら、同時に複数の尻尾も操る事が可能に……。
「も、物は試しだ……」
【形態変化Lv.1】を使ってみると、カッチカチの尻尾が床に転がっていた。
「マジ!? ってことは、この尻尾を遠隔操作でこうして……。いや、攻撃力をもっと上げるためには高速でぶつける? いや、回転させればより深くめり込む……。それに毒攻撃のスキルを合わせれば……」
と、ダンジョンの壁目掛けて色々と試し撃ちをしていると、偶然にも射線上にコボルドとブラックウルフが出現し、【形態変化】で硬質化した尻尾が高速回転しながらブラックウルフにぶつかった。
――弾け飛ぶブラックウルフの上半身。
――ビチャッという音と共に、壁や床に飛び散る血肉。
――唖然としながら、数秒間見つめ合う僕とコボルド。
「ちょ、ヤバっ!」
我に返ったコボルドが剣を振り上げ、僕目掛けて走り出す。
咄嗟に切り離した二本目の尻尾に【形態変化】をかけて迎撃すると、コボルドもまた一撃で床のシミに変わり、僕のレベルが一つ上昇した。
「しっ……尻尾、強んよぉ!?」
次話は8/23(金)投稿予定です♪