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第229話 試験と試練②

 

~キュルラリオ視点~


「え……、レベルなんてここ1年くらい上がってなかったのに、一気に3レベルも上がるものなの!? しかも【存在誤認】のスキルレベルも4まで上がってるし……。ま、待って理解が追い付かない……」


 周囲には誰も居ないのに、思わず独り言を喋ってしまうくらいには混乱している。

 格上の魔物を倒した時に得られる経験値が多いのは一般的にも知られている事。でも聞くのと実際に経験するのは、まったくの別物だった。


 阿吽さんがこの試験を僕に課した理由はそういうことだったのか!!

 確かに、強くなるにはリスクが伴う。でもそれを乗り越えた先には、間違いなく違う景色が広がっているんだ。今までは安全マージンを取り過ぎていたという事か……?


「こんなにも恩恵があるなら、同じ方法を繰り返せば一気にレベルアップするんじゃ……?」


 自分の口から出たソレは悪魔の(ささや)きであることは理解している。でも、一度この一気にレベルが上がる快感を経験してしまうと脳がバグるような感覚がある。


「も、もう一回だけ試してみよう。うん、あと一回だけ……」


 持ってきた携帯食料を腹に流し込みつつ、体力と魔力の自然回復を待つ間、ネルフィーさんが解除して回っていたトラップの位置と種類を思い返すと、この18階層にも足止め系や落とし穴のトラップがいくつかあったのを思い出す。

 ダンジョン内のトラップは解除してから一定時間経過すると自動で修復されるという特性もあり、今走ってきた19階層のトラップが修復されていたという事は他の冒険者が解除していなければ18階層以下のトラップも利用できるということになるはず。


「無理だったら、このセーフティーゾーンまで逃げて戻ってくればいいだけ……だよね」


 そう自分に言い聞かせると、下ろしていた腰を上げセーフティーゾーンから足を踏み出した。



――数時間後――


「フォーーーー!!! 来た来た来た、キタァぁぁぁーー!!」


 あれから数時間が経過した時、僕の脳は快楽物質で完全にバグらされていた。

 “あと一回だけ”と試してみたトラップと【存在誤認】のコンボは面白いくらいにハマり、僕のレベルはさらに3レベル上昇。それ以降も「もう一回だけ」や「最後の一回」を何度(・・)も繰り返し、16階層に辿り着くころには、僕のレベルは35レベルにまで上がっていた。


 そして、何と言っても阿吽さんにアドバイスをもらった通りに尻尾の使い方を試行錯誤した結果、新たなスキルを獲得するに至っていた。


 ・【高速再生Lv.1】: HPとMPを最大値の20%を消費し、自己切断した身体部位を高速で回復させる。消費HP・MP量はスキルレベルに依存。

 ・【遠隔操作Lv.1】:自己切断した部位を5秒間遠隔で自由に操作する事ができる。操作可能時間はスキルレベルに依存。

 ・【毒攻撃Lv1】:爪、牙、尻尾、棘など任意の箇所に毒を纏わせ、攻撃が成功した相手に一定確率で毒の状態異常を付与。状態異常付与確率と毒の継続ダメージはスキルレベルに依存。


 さすが阿吽さん、いや阿吽師匠! 確かに「尻尾の使い方を考えろ」とは言われたが、「尻尾を切り落とすな」とは一言も言われなかった。

 ハッ!! ……ということは、尻尾に【毒攻撃】を付与して切断し、敵に投げつけつつ【存在誤認】を使う事で周囲の敵もろとも毒の状態異常にして、ジワジワ(なぶ)り殺せって意味かっ!?


「こうしちゃいられない!! さっそく魔物を毒漬けにしてこなければっ!!」


 僕は阿吽師匠のアドバイスを実行するため、階層を下る階段に向かい走り出した。


 ……今思い返せば、この時には既に思考が完全にイっちゃっていたのだろう。



◇  ◇  ◇  ◇


~【狼の塔】 6階層~


「ムフッ……、フヘヘ。グフフっ……。僕にこんな力があったなんて~。それを見出してくれた阿吽師匠はやっぱり流石だなぁ~」


 狼の塔での試験が始まって2日が経過した。あれから僕のレベルは41まで上がり、スキルレベルも軒並み上昇した。特に【高速再生】【遠隔操作】【毒攻撃】はスキルを多用していたため、現在はLv5にまで上昇している。

 それに、レベルやスキルレベルが上がった事でトラップを使わずとも時間をかければ魔物を倒せるようにもなったし、新たな戦法も確立できた。


 その新たな戦法とは、毒を付与した尻尾を切ってすぐ【高速再生】で尻尾を再生し、再び尻尾に毒を付与して自己切断する。そうしてできた複数の毒尻尾を【遠隔操作】で操り、敵に状態異常を与える。また、複数の敵が現れた時は更に【存在誤認】で仲間割れを誘い、ジワジワと嬲り殺していく方法だ。

 これが阿吽師匠に頂いたアドバイスを自分なりに噛み砕き、昇華させることができた結果だとの自負もある。


 ……ただ、レベルやスキルレベルの上昇速度がかなり遅くなってきている。階層が低くなっていけばいくほど出現する魔物のレベルや数も減っている事や、僕自身のレベルが上がり魔物とのレベル差が無くなっているのが原因であるのは明白だが、あの自分が一気に強くなった全能感が忘れられず病みつきになってしまっている……。1レベル上がった程度ではちょっと物足りなさすら感じてしまうくらいだ。


「でも、もうすぐ5階層だし、このままいけば試験は合格できそうだ! …………ただ、このまま1階層の入口まで戻った僕を師匠は褒めてくれるのかなぁ? 本当にこの試験の満点を僕は取れたことになるのか?」


 ふと、思考に紛れ込んできた雑音(ノイズ)


 ――果たして阿吽師匠は、“難易度が徐々に下がっていく”試験を僕に課すのだろうか?

 ――この試験の満点とはどんな方法(・・・・・)で入口に帰還する事なのだろうか?

 ――師匠の見ている未来の僕の姿は、どんなものなんだろうか?


 そして、阿吽師匠やシンクさんが僕に言っていた事を思い出す。


『俺達もそんな悠長にしている時間もない。敢えて隠さず伝えるが、時間を無駄にはできないんだ』

『それであれば、それほど時間を掛けずともキュルラリオさんの覚悟が阿吽様にも証明できるかと』


 時間を無駄にできない阿吽師匠たちに、それほど時間をかけずに僕の覚悟を見せる事ができる方法……。


「あっ、分かっちゃった……かも……」


 この試験のもう一つ(・・・・)の合格方法。

 それは……20階層のボスを撃破して出現する魔法陣で入口に転移する方法だ。


 ボスの単独(ソロ)撃破なんて、快楽物質で脳を焼かれた今の僕でも自殺行為だと分かる。

 ……でも! だからこそ! それがこの試験の満点……いや、最低(・・)合格ラインだったのだ。


「ぼっ、僕は何てバカだったんだ!! 有能感に包まれてムフムフ言ってた自分を殺したい!! いや、そんな事よりも、今すぐ20階層に戻らなければっ!!」


 焦燥感に(さいな)まれながら決死の思いで降りてきた階層を逆走しつつ、「このまま1階まで降りても合格できるんじゃないか?」と頭の中で呟いてくる甘い自分をぶん殴る。


「できるか、できないかじゃない! やるか、やらないかだろ!!」



次話は8/16(金)投稿予定です♪

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